虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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後日談

116.勝ちたい

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 僕は、小さな犬の姿に戻ったライイーレ殿下を抱っこして、ロヴァウク殿下に振り向いた。

「いいんですか?」
「たまにはいいだろう。魔法は使わないと約束させた。その犬の姿だと、貴様はそうして誰よりその犬をそばに置く」
「そ、そんなことありません……」

 確かにいつもそばにいるけど、誰よりってことはないし、夜食を用意したりポテトサラダのハムを取られたりしてるだけだ。

 ライイーレ殿下は、僕の手の中で、無邪気な顔でロヴァウク殿下を見上げた。

「ねー、ロヴァウク。俺、次はいつ魔法使えるのー?」
「荒野の城に行くまでの間、生命が存在しないと言われている砂地がある。そこでなら、少しくらいいいぞ」
「やったー!」

 喜ぶライイーレ殿下だけど、そうなっちゃったら、もうしばらくは止まらない気がする。それはそれで怖い。

「ら、ライイーレ殿下……魔法を使う時には、気をつけてください。殿下、すぐに夢中になっちゃうんだから……」

 僕が慌てながら言うと、ライイーレ殿下は気楽な口調で「分かってるよー」と言って笑った。

 けれど、大切なアイスクリームを食べられてしまったランギュヌは、怒りの表情を浮かべたままで、今にもライイーレ殿下に向かって魔法を撃ってきそう。

「このっ……クソ犬…………僕の計画を台無しにしておいて、アイスクリームまで…………」
「アイス! もっとないの!?」
「……あるよ…………お前を凍らせてアイスにしてやる!!」

 ランギュヌはライイーレ殿下をつまみ上げようとしているけど、あの姿のライイーレ殿下はひどくすばしっこい。

 ランギュヌの手を軽く逃れたライイーレ殿下は、砦の方に走っていく。
 それをニュアシュが追って行き、チミテフィッド、ギンケールをつれたクロウデライが、僕に振り向いた。

「こっちは俺らに任せとけ! お前らは後で来い!」
「え……で、でもっ……!」
「いいからそうしろ!!!! 追いついてくるなよ!!」

 そう叫んで、クロウデライはみんなと一緒に砦の方に走って行ってしまう。

 なんなんだ……一体……

 ライイーレ殿下を追って走っていくランギュヌを見て、ロヴァウク殿下はため息をついた。

「……困った奴だ……」
「殿下……ランギュヌ子爵に、何か用があったんですか?」
「ああ。正式に、あれがここで働く許可が降りた。俺の管理下にあることは変わりないが、魔物討伐で実績を積めば、処刑されることはなくなる」
「そうですか……よかった…………」
「警備隊の連中も、ランギュヌをここに残して欲しいと訴えていたからな」
「……」

 僕も、みんなが走っていった方に振り向く。もうみんなの後ろ姿は見えなかったけど、僕も今ここにいることが嬉しかった。

 橋にはもう、僕とロヴァウク殿下の二人だけ。

 ……あれ?

 いつの間にか、僕とロヴァウク殿下の二人きりになっているじゃないか。

 これは……誘うチャンスか? 今なら、誘えるかもしれない。二人で飲みたいですって。
 もしかして、みんな気を遣ってくれたのか?

 隣を見上げようとしたら、ロヴァウク殿下はそんな必要ないくらいそばにいた。

 びっくりして、つい飛び退いてしまう。

「で、殿下っ……!?」
「……」
「あ、あのっ……あ、ありがとうございました……た、助けてくれて……」
「……貴様は俺の妻だ。助けるのは当然だ」
「殿下……」
「俺たちを恨み、狙う者は多い。夜更けになぜ一人でこんなところを歩いていた?」
「あ、あの…………ライイーレ殿下の夜食を買いに……! そ、それでそのっ……」

 言いかけた頭を、彼は優しく撫でてくれた。なんだかくすぐったくて、心地いいのに落ち着かない。殿下に触れられると、いつもこうだ。

「あ、あのっ……殿下?」
「貴様はまだ、自分の立場が分かっていないようだな」
「え……?」
「貴様は俺の妻だ。そんなことは、俺に任せろ」
「そ、そんなっ……王子殿下にそんなことをしていただくわけにはいきません……」
「王子だと? そんなものより、貴様の方が大切だ」
「で、殿下……」
「次からは必ず、俺にさせろ。その前に、あの犬を葬っておかなくては……」
「ライイーレ殿下に乱暴しないでください!! 僕は暴漢くらいっ……」

 なんでもないって言いたいけど……

 さっき魔法の道具に襲われた時、すぐには剣を撃ち落とせなかった。
 残党に気付くのも遅れたし、僕らだけだったら、もっと苦戦していたかもしれない。

 ランギュヌたちが去って行った方を見つめる。

 彼らに、多分僕は、まだ勝てない。

「…………みんな、凄いですね……」
「レクレット?」
「……僕、こう見えて、魔物討伐の腕には自信があったんです。魔物を倒す魔法を身につけたし、警備隊では一人で戦うことばかりで、最初のうちは失敗することもあったけど、少ししたら、負けることはほとんどなくなっていて……」
「らしいな」
「知っていたんですか?」
「あの街の警備隊に入ったレクレットの話は聞いていた。俺の邪魔をする男だからな」
「……そんな気なかったんですけど……第五王子が荒地の魔物討伐に行くなんて思いませんでしたし。荒野の城に行っても絶対に魔物なんかに負けないって思ってました。多分どこかで奢っていたんです。自分の魔法の腕、かなりのものだって。なんだか恥ずかしいです…………」
「恥じることは全くない。俺がこれまで会った中でも、貴様の魔法の腕はずば抜けている。強化の魔法も、あれほどのものは見たことがない」
「や、やめてください! なんだか……恥ずかしいです……」
「そうか。もっと恥ずかしがれ」
「な、なんですかそれ! 意地悪ですか!?」
「黙れ。先ほどの魔法の道具は、王城の魔法使いたちが部隊を組んでも苦戦するほどのものだ。そんなものに、生身の体で強化の魔法だけを武器に向かっていくのは貴様くらいだ。それなのに、なんだその自己評価は。存分に恥じてから胸を張れ」
「だ、だって……」
「なんだ?」
「だって! 今の僕じゃ、ロヴァウク殿下に敵わないですよね?」
「本気で俺に勝つ気でいたのか?」
「絶対僕が負けると思って、勝負を挑んでいたんですか?」

 僕が立ち止まると、殿下は僕に振り向いて、首を横に振った。

「いいや。貴様なら、俺とやりあえるだろうと思っていた。貴様が絶対に俺に勝てないとは思ったことはない」
「ほ、本当に……ですか?」
「ああ。負けるのは必ず貴様だが」
「やっぱり負けると思ってるんじゃないですか!! ちょっと喜んだのに……」

 期待を撃ち抜かれて怒る僕を、彼は楽しげに見下ろしていた。
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