極道の密にされる健気少年

安達

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冷血な極道

悲劇の始まり

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「ん…?あれはたしか、」



あれから3人は車に乗り目的地を目指してした。その道中、若があるものを見つけた。



「どうされたのですか?」

「なんでもない。はよ車出せ言うてんねん。信号青やで。」



若はそう言いながらある所をずっと見ていた。そして口角を上げなにやら企んでいる顔をした。



「おもろいことになりそうや。」




若がなぜそういったのかは部下は分からなかったようだ。いや…見つけられなかったと言った方が正しいかもしれない。若は反対車線に走るある車を見つけたのだ。中に乗っている人物たちはかなり焦っている。それもそのはず。大切な駿里が誘拐されたのだから。焦って必死こいて探している駿里がまさか反対車線のすぐ近くにいる車に乗っているなどと思いもせずに。それが面白くて若は思わず笑ってしまった。



「あいつらアホやなぁ。」

「さっきから何をおっしゃているのですか?」



運転に集中している部下は1人で笑いだした若が理解できなかったようだ。まぁいつものことかと割り切り部下は運転を開始した。そしてその時寛也とこの車がすれ違った。その瞬間駿里が動いた。何かを感じとったのかもしれない。寛也がそばにいた。一瞬だけでも傍にいたからか駿里は閉ざしていた目を開けたのかもしれない。



「お、目が覚めたか?思ったより早いなぁ。」



首の後ろを殴られたからか駿里は目が覚めても意識がはっきりとしなかった。だが状況だけは何となくではあるがわかった。今車に乗っていてそして誰かの膝の上に乗っている。その誰かは声からして若と呼ばれていた男だろう。最悪だ。少しでも距離を取りたかった駿里はまだハッキリとしない意識の中若の膝の上から降りようとしたが…。



「逃がさへんで。」



若が駿里の腕を強く引き自分の元に引き寄せた。悔しいがさすがは極道だ。駿里はこの男に勝てないと分かると大人しく彼の膝の上に座った。



「…俺を利用して寛也をどうするつもりですか?」

「寛也?あー旭川のことか。別になんもせんで。俺はただほんまにお前のことが気に入っただけや。つかまだ名前言うとらんかったな。俺は橘鷹 陣(きったか じん)や。こんなんやけど橘鷹組に所属しとる。今は若やけど時期組長になる男や。忘れずに覚えときや。それと…」



歯切れ悪く陣がそう言うと駿里の後頭部に手を回した。何をされるのか分からず駿里がビクビクしていると陣が再び口を開いた。



「悪いけど道覚えられると面倒やからもう1回眠ってもらうで。」

「う゛っ…!」



駿里が構える間もなく陣に睡眠薬を入れられてしまった。そして駿里は再び深い眠りについてしまう。



「若、あんまり薬使わない方がいいですよ。何が入ってるか分からないですし。」

「大丈夫大丈夫。これは弱いやつやから。それより龍吾(りょうご)。頼みたいことがあるんやけどええか?」

「なんでしょうか?」



龍吾と呼ばれた男は陣が1番信頼する部下だ。右腕とも呼ばれているほどに。彼はいつも陣の横暴なことにも答えている。そして今まさにその状況だ。



「手配して欲しいことがあんねん。後で資料送るから確認しといてくれ。」

「承知しました。」



そこからは誰も言葉を発することなく目的に到着した。駿里は未だに眠ったまま。いくら弱いものと言っても睡眠薬を入れられているのだから眠らない方がおかしな話だ。そんな眠っている駿里を陣は腫れ物を扱うかのように優しく抱きかかえた。そしてある建物の中に龍吾と共に入っていった。

するとーーー。



「「「お疲れ様です。」」」



何人かの男たちが陣に向かってそう言った。男たちは龍吾にも同様に挨拶をする。


「若、組長がお呼びです。」



挨拶をした男の中の一人が陣にそう言った。すると陣はあからさまに嫌そうな顔をする。



「最悪やぁ。あのおっさん話長いから嫌やねん。」

「そう仰らずに行きますよ。一旦この子は私が引き受けますので。」

「そうかぁ?まぁ、龍吾ならええわ。とりあえず俺の部屋に連れて行っといてくれ。」

「承知しました。」



そう言いながら龍吾は陣に一礼をした。そして陣から受けとった駿里を丁寧に抱きかかえ指示通りに部屋に向かっていった。その道中、揺れが激しくなるところもあったせいか駿里が目を覚ましてしまった。




「起きたのか?」



龍吾は駿里が目を覚ましたのを確認するとそう問いかけた。だが駿里は目が覚めたばかりで眩しそうにしていた。まだ薬が完全に抜けてないというのもあるのだろう。そう思い龍吾は廊下の電気を少し暗くした。だが暗くなってしまったことで駿里は余計に警戒してしまう。



「…ここはどこですか?」

「お前が今日から暮す場所だ。逃げたりすんじゃねぇぞ。」

「無理ですっ、かえりますっ、、」



こんなどこかも分からない場所にいられない。それにいつの間にか持っていたはずの携帯が無くなっている。これでは寛也達に自分の場所を示す手段がない。もう何もかも限界だ。帰りたい。我慢ならなかった駿里は素直にそう言った。



「悪いが駄目だ。」

「なんでっ……」



わけも分からずここに連れてこられて逃げるなと言われても困る。怖くてたまらない。彼らは聞いたことも無い組だった。どんな人達かもまだ分からない。恐怖しかないここで暮らしていくのか…?そんなこと考えたくもなかった。いやそれよりも今は…。



「寛也は無事なんですか?」

「知らねぇよ。俺たちは何もしてねぇんだから。そもそも会ってすらねぇよ。」

「え…?」



駿里は思わず開いた口が塞がらなかった。寛也には何もしてない?どういうことだ。ならなんで自分はここにいるのだ…と。そんな駿里をみて龍吾はため息をつく。



「だから言ってんだろうが。旭川組のことなんてどうでもいいんだよ。狙いはお前。お前だけだ。」



どうやら陣の話は本当のようだ。駿里はようやくここで彼の話を信じた。寛也に被害が及ばない。まずは一安心出来た。あとは自分がここから逃げるだけだ。だがその考えが龍吾に伝わったらしく駿里は鼻で笑われた。




「まぁでもお前が逃げ出したりしたら話は別だがな。」

「…寛也はお前らなんかに負けない。」



そんな脅し効くものかと駿里も強気で言い返した。



「へぇ、おもしれぇこと言うじゃねぇか。」



若が気に入るのも納得がいくな、と龍吾は思いながら立ち止まり駿里を見つめた。そしてキスでもしてやろうかと考えていたその時ーーー。



「龍吾。お前、なにしてんねん。」



後ろからそう声をかけられた。どうやら今日の話は短かったらしい。陣が帰ってきていた。



「いくらお前でも俺のもんに手出すなら容赦せんで。」

「何言ってるんですか。脅してただけですよ。逃げたらどうなるのか…ってね。」

「んな事すんなや。可哀想やんか。」

「それより組長からなんと言われたのですか?」

「それは部屋行ってから話そうや。この屋敷無駄にでかいから部屋までが遠いねんな。」



そう文句を言いながら陣らは再び歩き始めた。そしてやっと部屋に着くと龍吾は駿里を陣に渡し椅子に座った。そしてさっき気になっていたことを再び聞く。



「それでなんの話しだったのです?」

「また玩具連れて帰ってきたんじゃねぇかってお怒りや。」

「早速バレてるじゃないですか。」

「あのおっさん勘だけはええさらな。」

「おい。何が勘だけはだ。」



ここにいるはずのない声がして陣と龍吾は声のした方を向く。するとそこにはいるはずのない組長が居た。どうやら後をつけてきたらしい。



「何盗み聞きしてんねん。相変わらず趣味が悪いなぁ。」

「相変わらずお前は口の利き方がなってねぇな。」



組長と呼ばれた男は強面の男だ。駿里は彼の顔を見るだけで震え上がりそうだった。そして最悪なことに組長の目線は陣から駿里に変わる。



「さっき話してたのはあいつか?こりゃ上玉だな。」



そう言いながら組長は陣の元に近づいてきて駿里を奪い取ろうとしてきた。だがそんなことは許さないとすかさず陣が駿里のことを守る。そして少し離れたところに陣は駿里を座らせた。危険だと思ったのだろう。



「おい。いくらあんたでも許さへん。こいつは俺のもんや。」

「頭が硬いやつだな。お前が今の地位に立ててんのは誰のおかげだ?俺だよな?」

「それは感謝してる。でもこいつはあかん。譲れへん。」

「うるせぇ。いいからそいつを貸せ。」



駿里は黙ってこの争いを見ていた。陣も組長と呼ばれていた男もこの顔であれば女に困ることは無いであろう。これまでもたくさんの女を食ってきた感じがする。なのに何故自分に執着してくるのか駿里は分からなかった。だかまぁ理由はなんにしろこんな奴らに抱かれるなんて御免だ。駿里は辺りを見渡し逃げれそうなところを探した。すると後ろにドアがあることに気づいた。3人が話に夢中になっている間にゆっくりと動き出そうとしたがそこで組長と再び目が合ってしまう。



「俺ばっかり見てていいのか?可愛い子猫ちゃんが逃げ出しちまうぞ。」

「あーもう逃げたらあかんって言ったやろ?」



そう言いながら陣が駿里の所に行くために組長に背中を見せたその時ーーー!!



「若…!!!」



龍吾がそういい床に崩れ落ちた。陣は何が起きたのかを一瞬で理解する。龍吾は組長によって眠らされた。いや本当なら陣が眠るはずだった。それを龍吾が庇いこの状況になってしまったのだ。



「何してくれてんねん。」



部下に薬をぶっ込んでヘラヘラと笑っている組長を陣は睨んだ。



「安心しろよ。ただの睡眠薬だからよ。次はお前の番だ。」



そう言って組長は睡眠薬入りの銃を陣に向けた。だが何故か中々発砲しなかった。何かを迷っているようだ。



「なんで打たへんのや。」

「いやその前に確認しておきたいことがあってな。その子猫ちゃん、旭川の奴の所の玩具だろ。」

「だったらなんやねん。」

「お前も馬鹿だな。俺が育て方を間違ったか?」

「そろそろ黙れってくれへんか?耳が腐りそうや。」

「兄貴に向かってその口はねぇだろ。話はこれで終わりだ。お前もそいつと同じように床を舐めとけ。」



陣が床に崩れ落ちていった。駿里は自分がこれからどうなるのかという恐怖から目の前の組長を重視する…がその恐怖をかき消してくれたのは以外にも陣だった。



「……ッ……。」



彼は駿里にしか聞こえないほどの声量で話した。その言葉を聞いた駿里は顔色を変えた。



「なんだお前。俺とやる気か?急にそんな顔しやがって生意気だな。」



そう言って組長は駿里の所まで来て駿里を捕まえようとしたが…。



「おい!逃げんじゃねぇ!」 



駿里が動き出した方が早かった。陣は眠りに落ちる直前駿里にこう言った。「あそこに出口がある。逃げろ。」、と。駿里はその言葉を信じて逃げ出したのだ。



「たく、鬼ごっこが好きなのか?なら付きやってやるよ。」



この建物で生まれ育った組長は屋敷の全て知り尽くしている。駿里を捕まえることなど容易だと言うように余裕ぶっこいて駿里の後を追いかけ始めた。
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