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三章 人魔戦線

二十九話 カンティーナ事変(4)

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「うおおお!」

ジャガウォックが鋭いラッシュを繰り出すが、ヨアンに掠りもしない。

『この獣人のパワーは脅威的だ。本体の戦闘センスがお粗末で良かったよ』

ヨアンがレグルスを蹴り飛ばす。

横から血の刃が飛んでくる。

『あの吸血鬼……。ふん、避けるまでも無いな』

血の刃を腕の一振で消し去る。

「くぅ……!」

チュンチュンが血の刃を連射する。

ヨアンがチュンチュンに向かって歩き出す。

「止めてくれない、服に血がつくじゃない」

「避ければいいだけでしょ」

「猶予をあげてるのよ。あなたがあの糞犬を見捨てて逃げる時間のね」

「レグルスに手を出すのは許さない」

チュンチュンがヨアンを睨む。

視界の端にレグルスが起き上がるのが見えた。

「先に逝ってろ。すぐにあの犬も送ってやるからよ!」

ヨアンが剣を振り上げる。

ヨアンの服の血が泡立つ。

血の縄がヨアンの身体を縛り上げる。

『な、なんだこれは!血の縄……?さっきの攻撃でついた血を変化させたのか……!いやしかし、一度体外に出した血には干渉できないはず!』

チュンチュンが笑いながらヨアンに得意気に言う。

「私が未熟な吸血鬼だと思って油断してただろ!私は帝王種カイザーだ、一度飛ばした血液だって思うままに操れるんだよ!」

ヨアンが焦る。

『そういうことか!子供だと思ってみくびった……!だが、問題ない。力で押しきる!』

ヨアンが力任せに剣を振り下ろそうとする。

チュンチュンが拳を構える。


「私にあなたの貧弱なパンチが届くと……ゴハァッ!」

強烈な痛みがヨアンの身体を駆け巡る。

後ろから猛烈な殺気を感じる。

『しまっ……』

ジャガウォックの拳がヨアンに炸裂する。

『この糞犬が起きたことに気付いていたのか……ギリギリまで私の気を引いて』

チュンチュンの拳もヨアンに炸裂する。

『そして、さっきの血の刃の連発でこいつは血液が不足している……!』

チュンチュンの目が血走っている。

『血液が不足した吸血鬼が向かう先はただひとつ……!』

ヨアンが血の縄を破壊して二人から離れる。

凶暴化スタンピードか」

『血の縄の作戦に糞犬が気付くことに賭けたのか。狂ってやがる。そしてあの糞犬はしっかり合わせてきやがった』

レグルスとチュンチュンが拳を合わせる。

「私の血呑む?」

「いや、凶暴化スタンピードが終わっちゃう。このまま押し切りたい」

「分かった」

レグルスとチュンチュンがヨアンに迫る。

「やってやるよクソガキども!」

ヨアンが迎え撃つ。


⭐⭐⭐

アスフェンが腕をクロスさせて炎を防ぐ。

「アッツゥ!」

アスフェンが叫ぶ。

クローバーが呟く。

「……耐えちゃうのね」

アスフェンが城の壁を突き破って戻ってくる。

「そうこなくっちゃ」

クローバーがまた手を召喚する。

「またかよ!」

アスフェンが華麗に避ける。

『アイツの結界をブッ壊さねぇと、全員あの手にやられかねない!』

アスフェンが肉包丁をクローバーに向けてぶん投げる。

クローバーは魔法で盾を召喚して肉包丁を受け止めた。

その隙にアスフェンが一気にクローバーまで距離を詰めて、鳩尾に拳を叩き込む。

「ゴフッ」

クローバーがぶっ飛んで壁に叩きつけられる。

仮面から血が滴り落ちる。

「何が目的か知らんが帰ってくれ」

アスフェンが言う。

「クク、ククク」

クローバーが笑い出す。

「アハハハハハハ!」

クローバーが床に手をついて叫ぶ。

「これからが楽しいんじゃない!」

アスフェンの足元から沢山の手が飛び出してくる。

「ねえ、おいでよ!」

クローバーが狂ったように叫ぶ。

「私が創る平らな世界にィィィィ!」

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