300 / 349
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
第242歩目 実らぬ恋に、実る恋!②
しおりを挟む前回までのあらすじ
社内恋愛ならぬ車内恋愛とかー( ´∀` )bイイネッ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
悩みと言えば、もう一つある。
それは『紅蓮の蒼き戦斧』のリーダーであるカクタスさんのことだ。
以前より、溜め息を吐いて何か悩んでいる姿を度々見掛けてはきた。
しかし、何度その理由を尋ねてみても「竜殺し様には理解できない類いの悩みですよ」と、はぐらかされて終わるのみ。
(俺には理解できない類いの悩みとはなんだ?)
確か、ルチルさんも俺同様相談しても意味がない相手だと言われていた気がする。
理由は、俺も含めて聖人だからどうのこうのとかで。
ちなみに、同じく『紅蓮の蒼き戦斧』のメンバーであるケセラさんとジャスパーさんには、「絶対に理解できない」または「絶対に理解しようとすらしない」とのことで、最初から相談する気はないらしい。
結局、よく分からないが、言いたくないのなら無理矢理聞き出すのも躊躇われる。
だから、しばらくは静観していようと思っていた。
しかし───。
(えええええ!? なんで増えたの!?)
事態はそうも言っていられない状況へと少しずつ変わりつつあった。
女山賊達の恩返しが始まって以降、なぜかその頻度が飛躍的に増えてきたのだ。
(......というか、さすがにこれ以上は見過ごせないよなぁ)
そう思っていた矢先に、解決の糸口のほうから訪れてくることに───。
「竜殺し殿。ちと相談したきことがございましてな」
「ようこそ、ルチルさん。相談とはもしかして......カクタスさんのことですか?」
「いかにも」
夜、アテナ達との憩いの時間に、部屋を訪ねてきたルチルさん。
その表情はなんとも険しいものとなっていた。
(遂に、あのルチルさんが動いたか......。これはいよいよといった感じだな)
聖人ルチル。
俺達の中では、もはや共通の認識となっている。
正直、なんちゃって女神なアテナよりも気高く、尊い存在だと思う。
そんなルチルさんは、元々生活の安泰が約束された牧師様だったらしい。
だが、実際に牧師として働くうちに、祈りで救えるものは少ないと気付いたとか。
そこで一念発起して、カクタスさん達とともに冒険者になったと聞いたことがある。
まさしく、「聖人とは、この人のことを指している」と言っても過言ではないぐらいの聖人の中の聖人だ。
だからか、日々思い悩んでいるカクタスさんの姿は見るに耐え兼ねないのだと思う。
ましてや、よく分からない理由がもとで、力にもなれないとなると尚更だろう。
「相談......してくれますかね?」
「待つだけでは、いつまで経ってもダメでしょうな」
「では、どうする気ですか?」
「いい加減、みなの前で吐かせましょう」
「ちょっ!? 聖人ルチルはどこいった!?」
ルチルさんからの思いがけない言葉に度肝を抜かされた。
その言葉を信じられないというよりかは、「本人!?」という驚きのほうが強い。
「自分で解決できない悩みは、抱えているだけでは解決しませんからな」
「確かにそれはそうですが......。さすがに無理矢理というのはどうかと」
「竜殺し殿。これも優しさ、慈悲の一つの在り方なのですぞ」
「慈悲......? どういうことですか?」
「遠慮していては、先延ばしにしていては、事態を悪化させるだけですからな。時には心を鬼にすることも相手の為となるのです」
「!!」
この時、ラズリさんの言葉が頭の中を駆け巡った。
時には強引にいくことも優しさなのだ、と。
(まさにそれだ! 今はまさにそんな状況だよな!)
上手く言いくるめられた感がしないでもないが、この際別にいいだろう。
カクタスさんの悩みが解決することで、お互いハッピーになれるwin-winな結果だ。
「分かりました! やりましょう!」
「さすがは竜殺し殿。恩に着ますぞ」
「それで、俺は何をすればいいんですか?」
「竜殺し殿にお願いしたいのは───」
カクタスさんの知らないところで、俺とルチルさんの暗躍が始まろうとしていた。
※※※※※
某日某所。皆が寝静まった深夜の頃。
とある密室にて、監禁事件が発生していた。
「んー! んー! んー!」
「「「「ふふふふふ」」」」
被害者の荒い吐息(?)に、首謀者の冷たき微笑。
まさに事件と呼ぶに相応しい状況が、今この場で繰り広げられている。
おや? どうやらここで一報が入ったようだ。
事件の被害者は『紅蓮の蒼き戦斧』のリーダーであるカクタスさんと判明。
一方、事件の首謀者は同じ『紅蓮の蒼き戦斧』のPTメンバーであるルチルさん、ケセラさん、ジャスパーさん、そして───。
あッ、どうも。犯人役の俺です。
「これ、「犯人はヤス!」級のネタバレだよなぁ」
「どうされました、竜殺し殿?」
「いや、なんでもないです。HAHAHA」
ポートピ○連続殺人事件をプレイしたことがない人でも知っている、「犯人はヤス!」のド定番ネタが通じないことにちょっとショック。
(こういうところが異世界なんだよなぁ)
冗談はさておき、事件現場を見てみるとしよう。
まず、俺の目の前にはカクタスさんがいる。
椅子に座った状態だが、身動きできないよう完全に縄で椅子ごと縛られている。
まぁ、これから無理矢理にでも悩みを聞き出そうというのだから、これぐらいは問題ないだろう。
ただ、問題があるとすれば───。
「んー! んー! んー!」
「......なんで口を塞いだんですか? これだと聞き出せないですよね?」
何故か、猿轡で口を塞がれているカクタスさん。
確かに俺がカクタスさんを捕らえ、椅子に押し込め、縄で縛ったことは間違いない。
敏捷に長けた盗賊のカクタスさんを確実に捕らえることができるのは俺だけだからだ。
それは、ルチルさんにも頼まれたことだし、素直に認めよう。
しかし、カクタスさんの口を塞いだのは俺ではない。
というか、本当になんで塞いだの!?
「竜殺し殿、申し訳ない。拙僧は止めたのですが、ケセラ殿が面白半分で......」
「カッカッカ! 面白そうだから、ついね」
「ケセラェ......」
自身の分厚い筋肉で覆われた腹をパンパンと叩いて豪快に笑うケセラさん。
アテナ達ちびっこ組が既に寝ているのだから、少しは静かにしてほしい。
「完全防音なんだろ? だったら大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないですよ......まぁ、いいか」
ともかく、カクタスさんの口を解放して本題に移ることにする。
「それで何を悩んでいるんですか?」
「......言ったところで、きっと理解できませんよ。無駄です、無駄」
「よし、この意地っ張りの金玉を潰そう!」
「ちょっ!? ちょっと待って! ケセラさん!」
「ひぃぃ!?」
カクタスさんのいつまでも煮え切らない態度に苛立つケセラさん。
こういう時、なぜか暗黙の了解で、ケセラさんを止める役目が俺になっていることがとても理不尽だ。
・・・。
その後も、カクタスさんが口を割るまでの間、こんな感じのやりとりがしばらく続いた。
そして、遂に観念したカクタスさんが悩みを打ち明けることに───。
「......単なる欲求不満ですよ」
「「「「......は?」」」」
一斉に、「何を言っているの? こいつ」みたいな眼差しを向ける首謀者一向。
そんな俺達の様子を見て、ムスッとした表情をする被害者。
「......だから言ったじゃないですか、理解できない悩みだと」
「えっと......欲求不満にも色々ありますが、カクタスさんの場合はなんですか?」
「女ですよ、女!」
さも当然だと言い放つカクタスさん。
ルチルさんとケセラさん、ジャスパーさんは半ば呆れ顔だ。
いや、ケセラさんだけは呆れ顔というよりかは怒り顔のようにも見える。
一方、俺は......俺だけは......違った。
「えぇ、そうですよね。気持ちは痛いほど十分に分かりますよ、カクタスさん」
「ほ、本当ですか!? 女なんか困りそうにない竜殺し様が分かってくれるのですか!?」
「当然ですよ。男なら、健全な男なら当然のことです」
「おおおおお! あなたが神か!」
「神ではなく人間ですよー」
確かに、カクタスさんの言う通りだった。
女性であるケセラさんやジャスパーさんではなかなか理解できないことだ。
ましてや、聖人とまで言われたルチルさんでは言わずもがなといったところ。
(そもそも、男なら性欲問題は仕方がないことなんだよなぁ)
女性に強く言いたいことだが、性欲は男の立派な『生理現象』である。
そこを強く、大事なことなのでもう一度言うが、そこを強く理解して頂きたい。
セクハラ上等で言うが、女性の生理現象と同じだ。
何ら変わることはないし、変わることがあってはならない。
つまり、カクタスさんの言う性的欲求不満に嫌悪感を抱くのは、女性の生理現象をイジってセクハラ扱いされるのと同じで、許されないことである。
ただ、文明が進んでいる日本ですら、そこはまだ理解が及んではいない。
ましてや、日本よりも非文明的なこの世界では、理解すること自体が......。
「普段は1~2ヶ月もすれば、町や村に着いて娼館に行くことができました。苦労は何もなかったんです」
「うんうん。分かります、分かりますよ」
「「「......」」」
俺には最終兵器としてアテナがいる。
だから、そっち方面はまだ問題なく、自己処理だけで済んでいる。
それに、童貞というのも、自己処理だけで済む一助を買っているのは確かだと思う。
しかし、カクタスさんにはそれがない。
ケセラさんやジャスパーさんでは「女性として見れない」とも以前言っていた。
それに、非童貞というのもまた、欲求不満に拍車を掛けている一因だと思う。
以前、こんなことを聞いたことがある。
童貞はそういう経験がないので、妄想だけで完結できる。
しかし、非童貞は経験してしまっているので、妄想だけでは抑えきれない、と。
カクタスさんもそうだとは言い切れない。
だが、そうではないとも言い切れない訳で......。
「ですが、今はどうです!? 魔物の襲来が原因で村人は避難。6ヶ月も女日照りが続くというじゃないですか!」
「分かります。カクタスさんの苦しみが、俺には痛いほどによく分かります」
「カ、カクタス。少しは落ち着こうではないか」
「「......」」
カクタスさんの主張は徐々に熱を帯びていく。
それだけに、ルチルさんの制止の言葉はカクタスさんには届いていない。
いや、届かない。届くはずがない。
そもそも、立っている舞台そのものが全く違うのだから。
「これで悩まない男がいますか!? 欲求不満にならない男がいますか!?」
「そうそう。ならないはずがないんだよなぁ。ならない男は聖人か病気でしかない」
「「「......」」」
もはや、最後のほうは絶叫、心の叫びに近かった。
そんなカクタスさんを白い目で見つめるPTメンバー達。
(理解されない苦しみとは、こういうことなんだろうなぁ)
ちょっと憐れみを覚えてしまった。
別に、カクタスさんは少しも悪くはない。
男という生物の、ありのままの姿を語っているに過ぎないのだから。
「それにですよ! 恩返しという名目で働き出した女山賊達を見てください!」
「え? そこで、なんでインカローズ達が?」
「娼婦達とはまた違った魅力があるじゃないですか!」
「んん?」
「分かりませんか? 日々の山賊生活の中で適度に鍛えられた、しなやかでほどよい肉付き! あんなものを毎日見せられたら、そりゃ欲求不満にもなりますって!」
「あぁ、なるほど」
妙に納得してしまった。
女山賊達の中には、確かに魅力的な肢体を持つ女性も多い。
山賊という身分さえなければ、普通に一人の女性として見ることもできる。
(しまった......そういう点も考慮に入れるべきだったか)
元より、インカローズ達の解放は色々と問題提起されていた。
しかし、こういう問題点が出てこようとは露ほどにも思ってはいなかった。
そこは大いに反省すべき点だ。
俺もまた、カクタスさんの欲求不満に拍車を掛けてしまった一因なのだから。
しかし、カクタスさんの次に続いた言葉が悪かった。
カクタスさんの運命を大きく変える事態に繋がってしまったのだから。
「そこでですが......竜殺し様、いかがでしょう?」
「いかがでしょう、とは?」
「私を助けると思って、山賊達に(性行為の)交渉をしては頂けないでしょうか?」
「はぁ!? なんで俺が!?」
「いえ。山賊達は今、竜殺し様の所有物ですから。竜殺し様にお願いするのが筋かと」
「えぇ......」
インカローズからは、「(女山賊達から)そういうお誘いがあったら好きにしてもいい」とは言われている。
ただ、それは『俺が(好きにしてもいい)』という条件付きなのだと思う。
(......あッ。だから、俺に「カクタスさんでも良い?」との交渉をしろ、ということなのか)
まぁ、一応筋は通っているのかもしれない。
若干、不快さはあるが......。
ただ、俺もカクタスさんの欲求不満に拍車を掛けた一因だという負い目がある以上、無下にする訳にもいかないと思う。
「お願いしますよ、竜殺し様! あと1~2ヶ月も生殺しとか地獄ですから!」
「う、う~ん......」
正直、困った。
カクタスさんの悩みを解決してあげたい気持ちは大いにある。
だからと言って、俺が女山賊達に性交渉を頼むというのは気が引ける。
それに恐らくだが、俺の頼みとあらば快く引き受けてくれる人もいるような気がしてならない。
(ま、まさか!? そこまで計算してのこと......とかはないよな!?)
悩みを解決してあげたい気持ちと、色々と気が引ける思い。
俺は、この二つの感情の間の板挟みで悩むことになってしまった。
(ほ、本当にどうしよう......うーん)
こういう時、いつも助けてくれる俺の女神達は今、この場には居ない。
だから、大いに悩んだ。
悩みに悩み抜いて、それでも答えを出させそうにはなかった。
そんな時───。
───バンッ!
何かを強く叩きつけるような音が聞こえてきた。
その音は、俺にとっては助け船とも言えるようなもの。
だが、カクタスさんにとっては終末の鐘とも言えるようなものだった。
「ふッッッざけんじゃないわよ!!! このバカ男が!!!」
「「「!?」」」
「......」
突如、戦闘モードに入った獅子の如く吠えるケセラさん。
そのあまりの剣幕に、この場に居る全員がタジタジとなってしまった。
いや、この時は気付けなかったが、実はジャスパーさんだけは涼しい顔をしていた。
「そうかい。そうかい。そんなに女を抱きたいのかい」
「「「......(ごくりッ)」」」
「......」
息を呑み、ケセラさんの次の言葉を待つ。
「だったら、抱かせてやるよ! 思う存分、寝る間もないほど一晩中ね! ほら、来な!!」
「「「えぇ!?」」」
「......」
ケセラさんはそう言うと、椅子ごとカクタスさんを豪快に持ち上げて、そのまま部屋を出ていってしまった。
あまりの剣幕と急な展開に、俺達はただただ呆然とそれを見送るのみ。
しばらくの間は微動だにできずにいた。
・・・。
だが、事態が事態なだけに、いつまでもそうしている訳にはいかなかった。
「ちょっ!? ルチルさん!? このままで本当にいいんですか!?」
「さすがに、このままではカクタスの命が危ない気がしますな」
「だったら、急いで助けに行きましょう! 今なら瀕死程度で済むかもしれませんよ!」
「う、うーむ」
「ルチルさん?」
どうにもルチルさんの腰が重い。
カクタスさんを助けたい、そういう気持ちは表情にありありと出ているのに。
(どうした? 今になってケセラさんが怖くなったか? 俺だってケセラさんは怖いんだぞ?......だけど、今はそんなことを言っていられる状況じゃないだろ!)
しばらくすると、ルチルさんが、その想いを綴ることに。
それはルチルさんらしいというか、もうどうしようもないものだった。
「しかしですな。こんな夜更けに婦女子の部屋を訪れるというのは些か問題がありましょう」
「はぁ!?」
「聖職者たる者、常に身を清く正しくしていないといけませんからな」
「本当にめんどくさい聖人だな、あんた!」
簡単に状況を説明すると、今俺達が居る部屋はカクタスさんとルチルさんの部屋だ。
そして、この魔動駆輪には全部で3部屋の客室がある。
その内の1部屋をカクタスさん達に、もう1部屋をケセラさん達に貸している。
となると、空き部屋は1部屋しかない訳だが......。
さすがに、ケセラさん達がそこに向かったとは考えづらい。
一応、居候しているという身分なだけに、まず普通では有り得ないだろう。
結果、ケセラさんが向かった先は、自然とケセラさん達の部屋になるという訳だ。
所謂、女部屋。
だから、聖職者たるルチルさんは行くことに躊躇いを感じている。
(......うん。だめだこりゃ)
ルチルさんをあてにはできない。
となると、残りはずっと沈黙を保っているジャスパーさんをおいて他にはいない。
そう結論を出したところで、ジャスパーさんに振り返ってみると───。
「......」
「え?」
妙な違和感を感じた。
てっきり、ジャスパーさんも俺達と同じだと思っていた。
ケセラさんのあまりの剣幕に気圧されて沈黙を保っていたものだと......。
しかし、当のジャスパーさんはなんてことはない涼しい顔で悠然と佇んでいる。
(これは......何かあるな)
その姿、その余裕を見て、俺は何かを感じた。
そして、冷静になった頭で、その何かをとても知りたくなった。
「......ジャスパーさん、カクタスさんを助けに行かなくてもいいんですか?」
「......無粋」
「無粋......?」
意外な答えが返ってきたことに困惑してしまった。
正直、「助けには行かない」、そういう答えが返ってくることは予想していた。
しかし、まさかの「無粋」ときた。
では、何が「無粋」なのか、それが全く分からない。
そうそう。念のため一応言っておくが、俺もルチルさんも本気で「カクタスさんの命が危ない」とは少しも思っていないので悪しからず。
「ジャスパーさん、無粋とはどういう意味ですか?」
「......ケセラは前からずっと(カクタスのことを)好きだった」
「そうなんですか!?」
「なんと!? そうだったのでありますか!?」
「いやいや。ルチルさんは知らなかったんかーい」
渋い顔をしたルチルさんが「そういうことには疎いものでして」とポツリ。
うん。確かに疎そうに見える。
まぁ、なんたって聖人ルチルだしな。
(聖人は特定の者だけに愛情を注がないんだっけ?)
そんなことはどうでもいい。
ただ、ジャスパーさんの言葉の中で、少しだけ疑問に感じる部分がある。
「こう言ってはなんですが......少しもそんなところは見られませんでしたよ?」
「......当たり前。ケセラは一途」
「えっと?」
「......(カクタスの)女癖の悪さが嫌いだった」
「女癖?」
「..................むぅ。娼館。言わせないで」
「えぇ......。それは女癖とは言わないような......」
カクタスさんとケセラさんは、まだ付き合ってはいないはず。
となると、カクタスさんが娼館に行くこと自体は何の罪にもならないと思う。
(うーん。女性側から見たら、そういうふうに見えてしまうものなのか?)
カクタスさんにちょっと同情してしまう。
付き合っているならまだしも、付き合っていない時もとなると、さすがに......。
「......だから、無粋。ケセラは今、想いを告げている最中」
「あぁ、そういう解釈もできるのか。切っ掛けはなんであれ」
恐らく、ケセラさんの怒りの引き金を引いたのは、女山賊達への交渉の件だったんだろう。
娼館までは見過ごしてきた(?)が、今回はあまりにも節操がないとかの理由で。
「......邪魔はさせない。ここを通るなら私を倒してからにして」
「え......。ここで、そのセリフなの」
俺の前に、恋の守護神が立ちはだかる。
まさに、女の友情はかくの如し、ということなのだろう。
(......うん。だめだこりゃ)
俺が諦めた時点で、カクタスさんの運命は決まったようなものだ。
そもそも、暴走状態のケセラさんを止められるのは俺しかいないのだから。
しかし、ジャスパーさんはまだ納得してはいなかった。
「......困った」
「何がですか?」
「......寝る場所がない」
「あぁ......」
言われてみれば、その通りだ。
ジャスパーさんの部屋は今、ケセラさんによる告白の真っ最中だった。
それを、恋の守護神が邪魔をする訳にはいかないだろう。
ケセラさんとジャスパーさんが特殊な趣向の持ち主でない限りは......。
(いや、もしかしたら、もしかして......?)
とその時、俺はある考えが浮かんでしまった。
一度あることは二度あるではないが......。
「あの、もしかして、ジャスパーさんはルチルさんのことを好き......とかはないですか?」
「そ、そうなのでありますか!? し、しかし、拙僧は聖職者たる者ですからな......」
なんだかんだ言いながらも、ルチルさんの頬は少し緩んでいる。
どうするかはともかく、人から好意を向けられることは素直に嬉しいものだ。
しかし───。
「......おじさんとか有り得ない」
「ぐふぅ!?」
ルチルさんに『おじさん』・『有り得ない』という強烈な攻撃、もとい【口撃】が無情にも襲いかかる。
ルチルさんもルチルさんで、ブリッジしそうな勢いで悶え苦しんでいる有り様だ。
「もうやめてあげて! ルチルさんの体力は『0』だから!」
「......竜殺し様も人のこと言えない」
「ざくぅ!?」
なんということでしょう。
まさか、俺もその『おじさん』・『有り得ない』の範疇だったらしい。
ルチルさん同様、俺にも【口撃】が無情にも襲いかかる。
俺も俺で、ブリッジしそうな勢いで悶え苦しむ始末。
(違うから! 有り得ないのはともかく、おじさんは違うから! まだお兄さんだから!!)
結局、空いているもう1つの客室をジャスパーさんに貸し出すことにした。
最初からこうすれば良かった。
俺が余計なことさえ言わなければ......。
この日の深夜、青と緑のMSが互いに低く......それはもう哀しみを帯びるほどに低く共鳴し合ったことは誰にも知られてはいない。
※※※※※
翌日。
リビングに姿を現したのは、にっこにこな笑顔でつっやつやに輝いているケセラさんと、ヘットヘトな疲れ顔でガッリガリに───そう、まるで皮と骨だけの姿になったカクタスさんだった。
「ちょっと聞いておくれよ。あたし達さ、付き合うことになったよ!......だろ?」
「あ、はい......」
そういうことになったらしい。
個人的には、カクタスさんは無理矢理そう言わされているような気がしなくも......。
あッ。いえ、なんでもないです!
───パチパチパチ。
───パチパチパチ。
「やったじゃないか、ケセラ! おめでとう!」
「ありがとう、ローズ。あんたもさっさと決めちまいなよ」
「あぁ、あたいも負けていられないよ!......(ちらッ)」
「うッ......」
カップル成立を祝う万雷の拍手が、ケセラさんとカクタスさんの2人に降り注ぐ。
そんな中、新たな友人に余計な発破をかけるケセラさん。
(お前か!? お前だな!? インカローズの恋の導線に火を点けた犯人は!!)
まぁ、何はともあれ、カクタスさんの欲求不満という悩みも解決した(?)ようなので、これにて一件落着ということで良いのかな?......HAHAHA。
0
お気に入りに追加
1,395
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
天才な妹と最強な元勇者
くらげさん
ファンタジー
魔力が多い者が強いと言われる異世界で、魔力が無く魔法は使えなかったが最強になった剣の勇者。物語は魔王を倒して終わるはずだったのだが……また異世界?
反転召喚魔法陣の誤作動により生まれ変わった最強の勇者に可愛い双子の妹が出来た。
『可愛い妹様が学園に行く? 悪い虫が近寄らないように俺も学園行くわ!』
その学園は魔力無しでは入れないと言われるエリート学園だった。
この小説は、ファンタジーの世界観を舞台にした物語で、最弱の勇者が周りから煙たがられながらも、最後の戦いで世界を救う物語です。
物語は、最初は主人公である勇者がまったく期待されていない状況から始まります。彼は、歴代の勇者の中で最も弱いと言われ、周りから見捨てられていると感じています。彼は、なぜこんなにくだらない人々を助けなければならないのかと思い、戦いに疲れ果てています。
しかし、ある時、彼が現れるだけで人々の絶望的な状況に希望の光が差し込む様子を目にします。彼は、周りの人々の期待に応えようと、最強の存在になることを決意し、最後の戦いに挑むことになります。
魔王との戦いで、彼は自分の運命に向き合います。魔王は圧倒的な力を持っており、世界の終わりを象徴するような存在感を放っています。しかし、彼は黄金に輝くオーラを纏う黒剣を手にして、魔王に向かって立ち向かいます。
最弱と呼ばれた彼は、もはや最強の存在となっていました。彼は、ニヤリと笑い、魔王に「手加減してやるからかかってこいよ」と言い放ち、戦いに挑みます。
この小説は、最初は最弱であった勇者が、周りの人々の期待に応え、最強の存在になる姿を描いた物語です。彼が立ち向かう過酷な状況の中で、彼は自分自身に向き合い、自分の運命に向き合っています。そして、最後の戦いで彼は、世界を救うために魔王との戦いに挑み、自分自身を超える存在になっていく様子が描かれています。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる