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第三話 後宮の宴
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(陛下がずっと見ておられたあの方は、いったいどなたなの?)
昨日の任命式で正一品の賢妃に任命された、劉 華幻は任命式の際、皇帝がずって見ていた者が気になって仕方がない。
「賢妃様、そろそろお時間です」
桃色の衣を着たひとりの侍女が、華幻を呼ぶ。その礼儀は叩き込まれたように感じ、華幻はいつも窮屈に感じてしまう。
「わかったわ。教えてくれてどうもありがとう」
華幻の少し幼く甲高い声が部屋に響いた。華幻の住む宮ー冬龍宮は、壁の至るところに祥雲紋が施されており、とても幻想的だ。それに加えて、調度品一つひとつに品を感じる。特に灯籠には。
「それより、陛下が任命式の際、ずっとご覧になっておられた方はどなた?」
侍女に聞く。
「徐 春霞様でございます。ですが、それほどお美しい方ではございませんでしたわ。やはり、華幻様が一番!」
侍女はこうして、華幻の気をとろうとする。それは酷く迷惑なものだ。ー快く思ったことは、今までただの一度もない。
「そう…」
華幻は下を向き、あることを考えた。
(…どうやって…排除しようかしら…)
何か企んでいるようににやりと笑い、侍女に着替えの手伝いをさせた。
「お似合いですわ!春霞様!」
朝碧宮はいつも騒がしいが、今日は騒がしいというより皆が気合いを入れている。と、いうのもこれから人生で初めての後宮での宴が開かれるので、皆いつも以上に気合いを入れているのだろう。今日行われるのは後宮の園庭ー静縁庭で開かれる、蝶華月琳と呼ばれる行事は後宮で咲く花を見ながら妃嬪同士で会話の花を咲かせ、互いを良く知る…という行事なのだが、それは表。裏は妃嬪たちの修羅場である。
「こんなに着飾らなくても…。でもありがとう。では、行ってくるわね」
こういう大切な行事のときには、絶対に恵愛は連れていかない。この前に自分の誕生会があったが、恵愛が粗相をして全てが台無しになった。それより前もいろいろとあったので、絶対に連れていかないようにしているのだ。
「春霞様、わたくしも…」
恵愛が行きたそうにそう言うと、そばで見ていた遊淵が阻む。
「君。…本当ないい加減にしないか。本当に解雇になるぞ。解雇になりたくなかったら、その口を慎むことだな」
「っ…。ーいってらっしゃいませ」
観念したのだろうか。恵愛は襦の袖を口に当て、むすっとしている。春霞は遊淵だけを連れて、静縁庭に向かった。
「あら。ご機嫌よう。四夫人より早いとは、流石ですこと」
橙色と黄色の中間のような襦裙を身に纏い、黄色い羽を持つ蝶が刺繍されている団扇を口元を隠すようにもっている。この者は貴妃である姚 秋思だ。
「ご機嫌麗しゅうございます。姚貴妃様」
「わたくしの前では、そのように畏まらなくて結構よ。みんなそうしているもの。後宮に来たからには、帝の寵を得なければならないけれど、後宮にいる者はみんな、姉妹みたいなものよ?あなたも、そう思うでしょ?」
秋思と話していると、徳妃である周恩がふたりを睨みつける。
「姉妹だって?図々しい。後宮は姉妹ごっこをするところじゃない。互いを沈め合い、互いを殺し合う場所だ。…はっ。そんなこともわからないのかい。可哀想な方たちだなあ…」
「何を仰っているの?後宮でそのようなことを仰っていたら、あなた…確実に死ぬわよ」
だんだんと口喧嘩が激しくなっていく。すると、皇帝と一緒に来た淑栄がふたりの口喧嘩を止めた。
「あなたたち、いい加減になさって。陛下がおいでです。跪かれては?」
ふたりでいたときの淑栄とは全く違う。後宮の主人と勘違いしてしまうほど、その口調は凛々しかった。その口調に負け、ふたりは口喧嘩をやめる。ー流石だ。
「まあ良い。初日で妃たちの首を斬るとなると、余の評判が悪くなる一方だ。今日は特別に赦してやろう」
本当はこのようなことは言いたくないが、妃嬪は口が荒い者が多いので、多少脅さないと言うことを聞かない。
「…感謝いたします」
怯える妃嬪たち。こんなことになるとわかっていながら、口喧嘩をしたのだろう。ある意味、愚かだ。
「僭越ながら陛下。喧嘩を売ってきたのは周徳妃ですわ。わたくしはただ…」
「もう良い。黙らぬか、姚貴妃」
志永は園庭に置かれた金色の椅子に気怠げに腰をかける。
(あれは…任命式の際にいた妃嬪か?)
一際美しい妃嬪が長机の片隅に座っている。自分に話しかけられたくないのだろうか。その妃嬪はずっと下を向いているだけだ。
「ーそなた。名を申せ」
気になって、話しかけてしまった。これはどういう感情なのだろう。その妃嬪を見ていると、胸がかっと熱くなる。このときの志永はまだ全く気づいていなかった。この感情が、禁忌となってしまうことにー
昨日の任命式で正一品の賢妃に任命された、劉 華幻は任命式の際、皇帝がずって見ていた者が気になって仕方がない。
「賢妃様、そろそろお時間です」
桃色の衣を着たひとりの侍女が、華幻を呼ぶ。その礼儀は叩き込まれたように感じ、華幻はいつも窮屈に感じてしまう。
「わかったわ。教えてくれてどうもありがとう」
華幻の少し幼く甲高い声が部屋に響いた。華幻の住む宮ー冬龍宮は、壁の至るところに祥雲紋が施されており、とても幻想的だ。それに加えて、調度品一つひとつに品を感じる。特に灯籠には。
「それより、陛下が任命式の際、ずっとご覧になっておられた方はどなた?」
侍女に聞く。
「徐 春霞様でございます。ですが、それほどお美しい方ではございませんでしたわ。やはり、華幻様が一番!」
侍女はこうして、華幻の気をとろうとする。それは酷く迷惑なものだ。ー快く思ったことは、今までただの一度もない。
「そう…」
華幻は下を向き、あることを考えた。
(…どうやって…排除しようかしら…)
何か企んでいるようににやりと笑い、侍女に着替えの手伝いをさせた。
「お似合いですわ!春霞様!」
朝碧宮はいつも騒がしいが、今日は騒がしいというより皆が気合いを入れている。と、いうのもこれから人生で初めての後宮での宴が開かれるので、皆いつも以上に気合いを入れているのだろう。今日行われるのは後宮の園庭ー静縁庭で開かれる、蝶華月琳と呼ばれる行事は後宮で咲く花を見ながら妃嬪同士で会話の花を咲かせ、互いを良く知る…という行事なのだが、それは表。裏は妃嬪たちの修羅場である。
「こんなに着飾らなくても…。でもありがとう。では、行ってくるわね」
こういう大切な行事のときには、絶対に恵愛は連れていかない。この前に自分の誕生会があったが、恵愛が粗相をして全てが台無しになった。それより前もいろいろとあったので、絶対に連れていかないようにしているのだ。
「春霞様、わたくしも…」
恵愛が行きたそうにそう言うと、そばで見ていた遊淵が阻む。
「君。…本当ないい加減にしないか。本当に解雇になるぞ。解雇になりたくなかったら、その口を慎むことだな」
「っ…。ーいってらっしゃいませ」
観念したのだろうか。恵愛は襦の袖を口に当て、むすっとしている。春霞は遊淵だけを連れて、静縁庭に向かった。
「あら。ご機嫌よう。四夫人より早いとは、流石ですこと」
橙色と黄色の中間のような襦裙を身に纏い、黄色い羽を持つ蝶が刺繍されている団扇を口元を隠すようにもっている。この者は貴妃である姚 秋思だ。
「ご機嫌麗しゅうございます。姚貴妃様」
「わたくしの前では、そのように畏まらなくて結構よ。みんなそうしているもの。後宮に来たからには、帝の寵を得なければならないけれど、後宮にいる者はみんな、姉妹みたいなものよ?あなたも、そう思うでしょ?」
秋思と話していると、徳妃である周恩がふたりを睨みつける。
「姉妹だって?図々しい。後宮は姉妹ごっこをするところじゃない。互いを沈め合い、互いを殺し合う場所だ。…はっ。そんなこともわからないのかい。可哀想な方たちだなあ…」
「何を仰っているの?後宮でそのようなことを仰っていたら、あなた…確実に死ぬわよ」
だんだんと口喧嘩が激しくなっていく。すると、皇帝と一緒に来た淑栄がふたりの口喧嘩を止めた。
「あなたたち、いい加減になさって。陛下がおいでです。跪かれては?」
ふたりでいたときの淑栄とは全く違う。後宮の主人と勘違いしてしまうほど、その口調は凛々しかった。その口調に負け、ふたりは口喧嘩をやめる。ー流石だ。
「まあ良い。初日で妃たちの首を斬るとなると、余の評判が悪くなる一方だ。今日は特別に赦してやろう」
本当はこのようなことは言いたくないが、妃嬪は口が荒い者が多いので、多少脅さないと言うことを聞かない。
「…感謝いたします」
怯える妃嬪たち。こんなことになるとわかっていながら、口喧嘩をしたのだろう。ある意味、愚かだ。
「僭越ながら陛下。喧嘩を売ってきたのは周徳妃ですわ。わたくしはただ…」
「もう良い。黙らぬか、姚貴妃」
志永は園庭に置かれた金色の椅子に気怠げに腰をかける。
(あれは…任命式の際にいた妃嬪か?)
一際美しい妃嬪が長机の片隅に座っている。自分に話しかけられたくないのだろうか。その妃嬪はずっと下を向いているだけだ。
「ーそなた。名を申せ」
気になって、話しかけてしまった。これはどういう感情なのだろう。その妃嬪を見ていると、胸がかっと熱くなる。このときの志永はまだ全く気づいていなかった。この感情が、禁忌となってしまうことにー
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