天魂〜ふたつの魂〜

𦚰阪 リナ

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第一章 日出る者と闇落とす者

第四話 存在

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誰かに抱えられているような感覚がした。
(…私は、湖に落ちたのでは…?)
まだ意識がもうろうとしているが、誰かに抱えられている感覚だけははっきりとしている。
(朱色の上衣下裳…。まさか、珀理…?)
朱家当主である珀理がここにいるはずがない。だが、自分を抱えている者は珀理の声にとても似ていた。
「春月、もう大丈夫だ」
「珀…理…?」
この声と微笑みは、間違いなく珀理だ。
珀理は春月を抱えたまま陸に足をつける。
「霊力を半分失ったんだね?」
その問いに対し、春月は首を横に振った。
「すぐに戻る…」
「こんなに霊力を失ったんだ。すぐに戻るはずがない」
神獣の力とは違い、霊力は驚くほどすぐに戻る。しかし、今回の春月は半分以上の霊力を失ったのだ。すぐに戻るはずがない。
「あとの邪物は、私が倒すから安心しなさい。青家次期当主殿、春月を頼んだよ?」
「お任せください。朱家当主様」
珀理は左手に持っていたほこを右手に持ち替え、邪物がいるところへ向かった。



(二十匹くらいはいるが、この邪物たちに強力な邪力じゃりょくは感じない)
術を使い、邪物がいる方に向かって火をかけた。
炎火えんか術でも減らない…。とすると、あれを使うしかないのか?)
代々朱家に伝わる秘術を使うしかないと思ったが、珀理の強力な攻撃により、邪物たちは次々と倒れていく。
「春月、帰れるぞ」
邪物を倒し終えたあと、珀理は急いで春月と鳳珠がいるところに向かう。
「すまない。珀理」
「お互い様だろ?それに…」
友だから。そう言いたかったが、なぜか言えなかった。
「それに…なんだ?」
春月が不思議そうに自分を見つめる。
「い、いや。なんでもない。帰るぞ」
「寄りたいところがある。少しだけいいか?」
「春月についていくよ」
こんなにも、誰かと一緒にいたいと思ったことは生まれて初めてだ。
「俺も」
あとで鳳珠がそう言った。



その後、鳳珠たちは山道付近にある、飴細工あめざいくを売っている店に寄ことになった。
「これを七つください」
春月は龍の形をした飴細工を買っている。
「はいよ」
「ありがとうございます」
飴細工を買い終えた春月が、鳳珠と珀理の元に、小走りで帰ってくる。
「変えてよかったな。…じゃあ帰るか」
珀理そう言うと、春月は嬉しそうに頷いた。
「俺が送っていく」
「では私は帰ろう。ではまた」
鳳珠が行こうとすると、春月に止められる。
「鳳珠!」
「どうした?春月」
「今日は…その…すまなかった…」
春月は鳳珠に向かって、深く頭を下げた。
「春月が気にすることではない。それに、非があるのは俺だ。お前が倒れそうになる直前まで気づくことができなかった。俺の方こそすまない…」
「私は大丈夫だから、君は何も気にしないでくれ。…もしよければ、これからも君と一緒に戦いたい」
今日のうちに言おうとしていたことを、春月が全て言ってくれた。
「勿論だ!俺でよければ、これからもよろしく頼む」
ふたりは微笑みながら、手を交わした。



僑温きょうおん、ただいま!」
「おかえりなさい」
今日の修練を終えた僑温が、部屋の前まで鳳珠を迎えにいく。
「聞いてくれ、僑温。友ができたんだ」
「よかったな。兄上」
この厳しい世界で友ができるということは、嬉しく、ありがたいことだ。
「誰と友になったと思う?」
鳳珠が自慢げに言う。
「誰だ?」
「白 春月だ」
「白 春月だと…?」
僑温は驚きのあまり、椅子から勢いよくたった。





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