9 / 11
9
しおりを挟む
アキラが翠の自宅に来て二週間が経った。毎日が楽しくて充実しているのを二人は感じていた。癒やされていくのをひしひしと身に染みているアキラは翠と幸せになるんだといつしか心で強く思うようになった。
いつも通り手を繋いで帰っていると自宅の前に髪の長い女性が時計を見ながら苛立たしげに立っていた。
アキラの眉間にしわが寄り、翠の手をぎゅっと握った。
意を決して近づいて行くアキラに引っ張られる翠。
彼女がアキラに気づくと表情を緩めると共に翠の存在を無視した。
「アキラくん、ごめんなさい。ワガママもう言わないから会社に戻ってきて。パパには私からお願いするから」
彼女が誰かわからない翠だったが綺麗な身なりに派手な化粧。会社に戻ってきてという言葉。社長令嬢だろうかと目星をつけた。
「好きな人と結ばれたのでお構い無く。新しい就職先で楽しくやってますから」
固い口調で喋るのも嫌々な態度のアキラに翠は珍しいと落ち着かせるためにアキラの肩を撫でた。
翠を見たアキラに微笑んでみせる。アキラも翠を見て頷くと肩の力を抜いた。
「その男の人が相手だって言うの?」
「ええ。俺がずっと片思いしていた相手です」
「男よ?!馬鹿にしてるの!?子供も産めない男に価値なんてないわ。アキラくんに似た子供を産むのは私よ。きっと綺麗な顔の子供よ」
翠は学生時代の嫌な思い出を思い出して顔をしかめる。
どうしてこの女は子供が産めることだけを自慢するのだろう。
アキラが子供を望んでいるかなんて関係ない態度で自分勝手なことを言うのだろう。
「顔は関係ありますか?」
「あなたの武器は顔でしょ。顔しかいいところないじゃない」
「は?」
翠は黙って見ているだけのつもりだったが、一言目には顔、二言目にも顔。アキラを顔でしか見てない女に腹立たしくなり一歩前に出ると戦いの土俵に上がった。
「俺の婿に失礼なこと言うな。アキラは見た目より中身がいいんだよ」
「顔でしょ?あなただって最初は顔から好きになったんでしょう?」
「この人にふられること四十三回。俺の顔なんて相手にされなかった」
女は唖然として、苦し紛れに高笑いをしたが、それにつられて笑う者は誰も居ない。
「アキラは見た目で損してる。本当は中身がいい奴だって、俺だって知ってる」
翠たちの後ろから援護の言葉がかかり驚く。
振り向くとアキラの元同僚で翠とは学生時代にサークルが一緒だった西野がいた。
「俺は謝りにきた。ごめん、アキラ」
学生時代は仲良くしていた西野も会社に入ったら変わってしまった。だけど、今の西野は会社にいたときと違い、生き生きとしている。
「アキラが仕事上手くいっててうらやましかった。仕事が上手くいかないのを妬んで酷いこと言ったり、無視した。全部八つ当たりだな。もう俺も会社やめたよ。居場所が見つけられなかったから。今は英二さんのラーメン屋で弟子にしてもらった」
「……今は、なんて言っていいかわからない」
「だよな。都合よすぎるもんな」
「…………」
「俺がお前にしてきたことを考えれば仕方ない。できるなら、英二さんのラーメン屋にたまに来てくれよ。奢るから。もちろん翠先輩もね」
それが自分に出来る精一杯の謝罪だと西野は思っている。いつかは自分で作ったラーメンを食べて貰いたい。アキラを裏切ってしまったことへの懺悔だ。
「何よ、男が群れて。恥を知りなさい」
「恥を知るのはあんただよ。顔が一番っていうならあんたの顔は綺麗なわけ?化粧がなきゃ見られないぐらい醜いんじゃないの?」
西野の辛辣な言葉に女は反論を失い、唇を噛みしめる。大きく手を振り上げて西野に平手打ちをすると、ヒールの音を鳴らして怒って帰っていった。
女が二度と来ることはないだろう。ちやほやされてつけ上がっていた人間は地に落とされたときのダメージが大きいものだ。
「しかし、タイミングがまさかお嬢様と一緒になるとはな」
「西野、英二のとこで働いてるって本当?」
「手に職が欲しくて。毎日楽しく働いてます」
清々しい顔つきで会社にいた西野とは別人のようでアキラは今の西野なら学生の時と同じように接してくれる気がして少し安心した。
「アキラ、俺のこと許せないと思う。俺だったら許さないからな。それでもいい。間違えたのは俺だから」
西野は深々と頭を下げると、帰って行った。
「翠さん、意味わからないですよね」
「うん、まあ。だけど話たくないなら聞かないぞ」
「いいえ。聞いてください。全部話すので」
夕飯食べながら話します、と言ったアキラに翠は頷く。
考え込んでるアキラをそのままにして翠は夕飯の用意をした。
今晩はシチューをもらってきているのでフライパンで温め直して、グラタン皿にバケットを一口サイズに切って並べるとシチューを上からかける。シチューはシーフードなのでじゃがいもなどは入っていない。
最後にパルメザンチーズを振りかけてパン粉を乗せて焼けば即席シチューグラタンの出来上がり。
焼いている間に玉ねぎとベーコンを切って、コンソメの素でスープを作り、実家からもらってきた大根の梅肉和えを皿に移す。
「アキラ、ご飯できたぞ。食べよう」
翠の言葉でやっと思考から現実に戻って来たアキラは即席グラタンを机に運んでくれた。
「すいません、手伝いもせずに」
「いいよ、殆どなんもしてない。皿に移し替えただけだもん」
火傷気をつけろよ、と翠が言って二人で夕飯を食べ始めた。
いつも通り手を繋いで帰っていると自宅の前に髪の長い女性が時計を見ながら苛立たしげに立っていた。
アキラの眉間にしわが寄り、翠の手をぎゅっと握った。
意を決して近づいて行くアキラに引っ張られる翠。
彼女がアキラに気づくと表情を緩めると共に翠の存在を無視した。
「アキラくん、ごめんなさい。ワガママもう言わないから会社に戻ってきて。パパには私からお願いするから」
彼女が誰かわからない翠だったが綺麗な身なりに派手な化粧。会社に戻ってきてという言葉。社長令嬢だろうかと目星をつけた。
「好きな人と結ばれたのでお構い無く。新しい就職先で楽しくやってますから」
固い口調で喋るのも嫌々な態度のアキラに翠は珍しいと落ち着かせるためにアキラの肩を撫でた。
翠を見たアキラに微笑んでみせる。アキラも翠を見て頷くと肩の力を抜いた。
「その男の人が相手だって言うの?」
「ええ。俺がずっと片思いしていた相手です」
「男よ?!馬鹿にしてるの!?子供も産めない男に価値なんてないわ。アキラくんに似た子供を産むのは私よ。きっと綺麗な顔の子供よ」
翠は学生時代の嫌な思い出を思い出して顔をしかめる。
どうしてこの女は子供が産めることだけを自慢するのだろう。
アキラが子供を望んでいるかなんて関係ない態度で自分勝手なことを言うのだろう。
「顔は関係ありますか?」
「あなたの武器は顔でしょ。顔しかいいところないじゃない」
「は?」
翠は黙って見ているだけのつもりだったが、一言目には顔、二言目にも顔。アキラを顔でしか見てない女に腹立たしくなり一歩前に出ると戦いの土俵に上がった。
「俺の婿に失礼なこと言うな。アキラは見た目より中身がいいんだよ」
「顔でしょ?あなただって最初は顔から好きになったんでしょう?」
「この人にふられること四十三回。俺の顔なんて相手にされなかった」
女は唖然として、苦し紛れに高笑いをしたが、それにつられて笑う者は誰も居ない。
「アキラは見た目で損してる。本当は中身がいい奴だって、俺だって知ってる」
翠たちの後ろから援護の言葉がかかり驚く。
振り向くとアキラの元同僚で翠とは学生時代にサークルが一緒だった西野がいた。
「俺は謝りにきた。ごめん、アキラ」
学生時代は仲良くしていた西野も会社に入ったら変わってしまった。だけど、今の西野は会社にいたときと違い、生き生きとしている。
「アキラが仕事上手くいっててうらやましかった。仕事が上手くいかないのを妬んで酷いこと言ったり、無視した。全部八つ当たりだな。もう俺も会社やめたよ。居場所が見つけられなかったから。今は英二さんのラーメン屋で弟子にしてもらった」
「……今は、なんて言っていいかわからない」
「だよな。都合よすぎるもんな」
「…………」
「俺がお前にしてきたことを考えれば仕方ない。できるなら、英二さんのラーメン屋にたまに来てくれよ。奢るから。もちろん翠先輩もね」
それが自分に出来る精一杯の謝罪だと西野は思っている。いつかは自分で作ったラーメンを食べて貰いたい。アキラを裏切ってしまったことへの懺悔だ。
「何よ、男が群れて。恥を知りなさい」
「恥を知るのはあんただよ。顔が一番っていうならあんたの顔は綺麗なわけ?化粧がなきゃ見られないぐらい醜いんじゃないの?」
西野の辛辣な言葉に女は反論を失い、唇を噛みしめる。大きく手を振り上げて西野に平手打ちをすると、ヒールの音を鳴らして怒って帰っていった。
女が二度と来ることはないだろう。ちやほやされてつけ上がっていた人間は地に落とされたときのダメージが大きいものだ。
「しかし、タイミングがまさかお嬢様と一緒になるとはな」
「西野、英二のとこで働いてるって本当?」
「手に職が欲しくて。毎日楽しく働いてます」
清々しい顔つきで会社にいた西野とは別人のようでアキラは今の西野なら学生の時と同じように接してくれる気がして少し安心した。
「アキラ、俺のこと許せないと思う。俺だったら許さないからな。それでもいい。間違えたのは俺だから」
西野は深々と頭を下げると、帰って行った。
「翠さん、意味わからないですよね」
「うん、まあ。だけど話たくないなら聞かないぞ」
「いいえ。聞いてください。全部話すので」
夕飯食べながら話します、と言ったアキラに翠は頷く。
考え込んでるアキラをそのままにして翠は夕飯の用意をした。
今晩はシチューをもらってきているのでフライパンで温め直して、グラタン皿にバケットを一口サイズに切って並べるとシチューを上からかける。シチューはシーフードなのでじゃがいもなどは入っていない。
最後にパルメザンチーズを振りかけてパン粉を乗せて焼けば即席シチューグラタンの出来上がり。
焼いている間に玉ねぎとベーコンを切って、コンソメの素でスープを作り、実家からもらってきた大根の梅肉和えを皿に移す。
「アキラ、ご飯できたぞ。食べよう」
翠の言葉でやっと思考から現実に戻って来たアキラは即席グラタンを机に運んでくれた。
「すいません、手伝いもせずに」
「いいよ、殆どなんもしてない。皿に移し替えただけだもん」
火傷気をつけろよ、と翠が言って二人で夕飯を食べ始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる