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 恋人になったからと言って何が変わることもなく。相変わらず遷都はフリマアプリで出品して稼ぎ、部屋の物が少しずつ減ってこんな模様の壁紙だったけ?と記憶を探るが思い出せない。

 今日は宮崎が新作の打ち合わせにやってくる。遷都にお茶出しを頼んで、仕事を続ける。

「やっぱり僕の作戦に間違いは無かったですね。遷都くんもありがとうございます、先生のお世話をしてくださり」
「世話?してないよ。してもらってる側だから。それに恋人になっちゃったもん」
「……は?」

 遷都、言わなくてもいいこと言うな。宮崎が来る前に最終確認していた新連載のプロットの入ったタブレットを持って居間に行く。データーで送ってもいいのだが、折り返し連絡するより会ってちゃんと話を聞いた方が早いとは宮崎の意見。

「先生、僕は恋人を作れなどとは一言も言ってません」
「成り行き?」
「いいですか。遷都くんは一ヶ月しか契約してないんです。一ヶ月後別れるんですか?彼は客と必ず寝るって有名なんですよ」
「は?してないし」
「僕と、日の浅い彼とどっちを信じますか?」

 そりゃあ、決まってない?

「遷都」
「なる~すき~だいすき~」
 ハートマークを飛ばして成也に抱きつく遷都を振り払い、宮崎にタブレットを渡す。

「僕への信頼感薄くないですか?前から思ってたけど、何でですか?」
「嘘つきだからです」
「あれ、嘘なのバレてました?」

 そう、この男はこういう男なのだ。平気で嘘をつくし、約束した話と違うことがよくある。だから信用ならないのだが、それが本人が無意識にやっているので質が悪い。思いついたら相手の都合など考えずに実行する男、宮崎がこいつだ。

 そんな宮崎にも弱みがある。奥さんと子供のことになると、良い格好したいらく、悪いことを言おうものなら何倍にもなった嫌味が返ってくる。成也は恐ろしくてそんなことしないが、先輩漫画家がやって目も当てられない状態になっていた。

 とにかく口が回るし、頭の回転も速い宮崎には関わらないことが一番なのだが、成也は編集長に頭を下げられて断れなかったが為に、二人三脚しなくてはいけない。

「はい、面白い設定ですね。テーマもしっかりしてます。これでいきましょう」

 成也が新連載として選んだのは探偵物。おじいさんの所長、ゲイカップルに育てられた女性調査員と父親が犯罪者の男性調査員がバディを組んで距離を縮めながら、事件を解決していく話。

 事件にもそれぞれ、セクシャルマイノリティのことや犯罪の被害者など、出てくるキャラクターに一つずつ何かを付属するつもり。

 決まった宮崎はお茶を飲み干して、立ち上がると遷都を振り返った。

「くれぐれも先生の邪魔だけはしないでくださいね。それ以外は蝋燭プレイだろうが、四十八手だろうが、好きにしてください」

 先生も程ほどに、と付け加えて帰って行った。

「あそこに指輪貰ったなんて言えない」
「あの人なら言っても早漏なんですか?って聞き返しそうだけど」
「お前、宮崎さんのことをこんな短時間でわかるなんて」
「誰でもわかると思うよ。あの人、特徴ありすぎだもん」

 それもそうか。成也はお茶を飲んで、仕事に戻ろうとした。

「ちゅ、苦い」

 キスをしてきた遷都が渋くなっていたお茶の味に文句を言いながら、何か言いたいことがあるみたいだ。いちゃいちゃする時間でも無いときにいきなりキスするのは何か聞いて欲しい証拠なのだ。

「どうした?」
「抱きたいとは思わない?」
「気分ではあるな。遷都なら抱けるけど」

 元々男役をやっていた成也だったから、たまには入れたいと思うこともある。イワンには拒絶されたから遷都にも聞かなかったが、本人から聞かれるとは思わなかった。

「抱きたいときは言ってくれれば抱かれるから、いつでも言ってよ」
「いいのか?お前したことないだろ」
「な、ななな、なんで、わかったの?」

 軽い調子で抱かれてあげると言っているが、緊張して顔が引きつっているし、男役の慣れた手つきは女役をやったことのある人間のものとは違った。
 女役をやったことがあれば、あんなに丁寧にしなくても壊れたりしないことぐらいわかるだろう。

 イワンも経験者だったから強引な一面があった。彼の場合は合意ではなかったみたいだが。たまに男役の人間を襲いたい人間というのがいる。少数派だが征服感がたまらないとかで、腕を縛り、薬物を使ったりして無理矢理抱く悪質な人間もいるとイワンは言っていた。

「俺、なるになら抱かれたい」
「嬉しいけど、俺のセックスは普通だぞ」
「いいよ。俺もね勉強してるから。期待してて」

 どうやら初めてを成也に捧げたい遷都はゲイの動画を見て勉強中らしい。恋人がこんなに熱心な男だとは思わなかった。今までどちらかというと、好き好きと追いかけていたのは成也の方だった。それが、追われる立場になって、付いてきてくれているか不安になり振り向いていたら、いつしか、好きの矢印はお互いに同じ量になっていると成也は気付いた。まだ気付いていない遷都には内緒にして。

「あ、なる。時間だよ」

 一日一回、十五分散歩するのが昼食前の日課になっている。近所に大きな公園があるからそこまで歩いてぐるりと植わっている植物や運動している人を見ながらリフレッシュも兼ねて。最初こそ成也は渋ったがお腹も空いて昼寝をするとスッキリすることに気がついた。

 遷都が来てから規則正しい生活が続いている。それは自分のためではなく、誰かの為だからできているのを成也は気付いていた。遷都はこの先、何があるかわからないが、自分を思い出して成也が規則正しい生活が送れることを願っていた。




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