年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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 料理は得意というわけではないけれど、嫌いなわけでもない。ただ、実家暮らしだと、母の城である台所に立つ機会はあまりないから、場数を踏んでいないのだ。そうなると、いざという時に不安しかない。
 けれど、幸いなことに葉一の家の冷蔵庫は程よく食材が残されていた。人様の家の台所を勝手に弄るのは気が引けるけど、何かしてないと落ち着かないのだ。
 冷蔵庫から見つけた玉子は少し甘めの玉子焼きに。玉ねぎと豆腐は味噌汁に入れ、ほうれん草をお浸しにする。魚は買い置きがないようだったので、諦めた。茉歩はこれでも十分だが、葉一は物足りないかもしれない。そう思って考え込んでいると、ドタバタと階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。

「お、はよ……」
「おはよう……どうしたの、そんな慌てて」

 時計を見ると七時を指そうとしているところだった。もっと早くに起こさなければいけなかっただろうか。
 すると、茉歩が視線を戻す前に、葉一が彼女を背後から抱きしめた。

「ちょっ……何⁈」
「ごめん。でも、いなかったから……焦った」

 葉一はよほど急いでいたのか、未だ下着しか身につけていない。ホッとしたように息を吐く彼が大型犬のように見えて、茉歩は笑いながら寝癖のついた髪を撫でる。

「先に目が覚めたから、ご飯作ってたの。葉ちゃん、時間は?」
「ん、ありがとう。時間もまだ平気」
「じゃあ、とりあえず着替えて……っ」

 言いかけた茉歩の言葉は、葉一の唇によって遮られる。遠慮なく舌を挿し入れてくる葉一に、びっくりしながらも茉歩は応える。
 優しく舌を絡められたら堪らない。思わず鼻から甘い吐息が抜けて、それを聞いた葉一の腕に力が籠もった。腰を強く抱き寄せられ、昨夜の熱が再び身体に灯りそうになった。けれど。

「ダメ……っ」

 クラクラする頭で、茉歩は冷静を保とうと必死になる。葉一の胸板を押す力も弱々しい。だが、彼には伝わったようで、少しだけ身体を離される。

「遅刻、する。仕事でしょ?」
「ん……行きたくねぇ……」

 真っ赤になった茉歩の頬を撫でる葉一は、盛大なため息をついた。そして、茉歩の後頭部に手をやるとそっと自分の胸に抱く。
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