年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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 これまで男性と付き合ったことが全くなかったわけじゃない。でも、ちゃんとした付き合いをした人というのは正直いなかった。
 みんな身体目当ての男ばかり。ひどい時には最初のデートですぐホテルに連れ込まれそうになり、バックで引っ叩いて逃げた。
 中には長く付き合った人もいるが、そういう雰囲気になると怖気付き、逃げる茉歩に向こうが先に愛想を尽かし、浮気されて別れるに至った。
 二十代半ばを過ぎると、恋愛をすることにすら臆病になっていた。彼氏ができなければ結婚なんてできないだろう。だから、半ば結婚は諦めていた矢先に現れた年下の幼馴染。そんな彼にデートに誘われるなんて、思ってもみなかった。

『好きな人しか、デートになんて誘いませんよ』

 車の中で聞いた彼の言葉に、心が揺さぶられた。まさか、と打ち消しながら、心のどこかで本当だったらどんなにいいだろうか、と。

『俺は今日、茉歩姉とデートに来てる。なのに、何で他の女のとこに行かなきゃなんだ』

 怒った様な言葉が、胸に刺さる。彼が嘘をついたことなど一度もない。それを昔から分かっていたはずなのに、臆病な自分は怖気付いて彼を傷付けた。
 だけど、抽象的な言葉ではまだ信じられない。ちゃんと言葉にして聞かせて欲しい。わがままかもしれないけれど、葉一の本心を。

「葉ちゃんには、何あの人みたいな女の子がお似合いだと思う……でも……一つだけ聞かせて」
「……何?」

 振り向いて茉歩を見つめる葉一の瞳は、どこか不安げだ。茉歩自身も不安でいっぱいだ。だから、彼のジャケットを握る手に、自然と力がこもる。

「車の中で言ってたこと……どういう意味か、ちゃんと教えて欲しい」

 何となく分かっている。でも、万が一勘違いだったら……。そう思うと、やっぱり言葉が欲しい。これは女のわがままだろうか。
 茉歩を見つめる葉一が、ため息を吐く。そして一度目を逸らし、チラリと茉歩を見た後、困った様に笑った。

「あれじゃ、分からない?」
「うん」
「本当に? 分かってるんじゃない?」
「分からない……」

 頑なな茉歩の様子に葉一は笑う。きっと茉歩の顔が真っ赤だからだ。さっきから頬が熱く、火照っている。
 ジャケットを掴んでいた茉歩の手を、葉一が外す。そのまま手を繋ぎ、彼は茉歩に真っ直ぐ向き合った。

「俺の好きな人は茉歩姉だよ。だからお見合いだって受けたし、デートにも誘った。俺を弟じゃなく、男として見てもらうチャンスだと思って」

 繋がれた手にも熱が宿る。茉歩の瞳から溢れた涙が頬を伝う。その滴を指の腹で拭い、葉一は優しい口調で囁いた。

「茉歩姉が好きだ。俺と結婚してください」
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