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母が用意した朱色の振袖に、ちりめんで出来た桜の簪。薄付きのファンデーションと控えめなコーラルピンクのリップで化粧は最低限なものに仕上げた。シルバーグレーの草履に、いつも手伝いの時に持っていく荷物をまとめている小さめのポストバックを抱えて家を出た。
そして、ホテルの目の前で母に電話を入れる。ワンコールで出た母は、こちらが文句を言う前に用件だけ捲し立ててくる。
『来たわね。三階よ、紅葉の間ってとこだから』
言うことだけ言って、こちらの返答も待たずに切られた。腹は立ったが、もしかしたら手伝いで忙しいのかもしれない。そう思い返し、バックを持ち直してホテルのエントランスへと入った。
この大手ホテルは何度か来てはいるが、頻繁に来ているわけでもない。とりあえずエレベーターに向かっていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「落としましたよ」
「あっ、すみません」
訝りながら振り返った茉歩の前に差し出されたのは、見覚えのあるハンカチだった。カバンのポケットに突っ込んでいたはずだったのだが、いつの間にか落ちていたらしい。
慌ててハンカチを受け取ろうとしたが、何故か拾ってくれた親切な人はハンカチを離してくれなかった。
「……あれ? 葉ちゃん?」
「やっぱり……茉歩姉ちゃんだ」
不親切な人だ、と半ば不審者を見る目で見た茉歩は、どことなく見覚えのある顔に目を丸くした。
そして、ホテルの目の前で母に電話を入れる。ワンコールで出た母は、こちらが文句を言う前に用件だけ捲し立ててくる。
『来たわね。三階よ、紅葉の間ってとこだから』
言うことだけ言って、こちらの返答も待たずに切られた。腹は立ったが、もしかしたら手伝いで忙しいのかもしれない。そう思い返し、バックを持ち直してホテルのエントランスへと入った。
この大手ホテルは何度か来てはいるが、頻繁に来ているわけでもない。とりあえずエレベーターに向かっていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「落としましたよ」
「あっ、すみません」
訝りながら振り返った茉歩の前に差し出されたのは、見覚えのあるハンカチだった。カバンのポケットに突っ込んでいたはずだったのだが、いつの間にか落ちていたらしい。
慌ててハンカチを受け取ろうとしたが、何故か拾ってくれた親切な人はハンカチを離してくれなかった。
「……あれ? 葉ちゃん?」
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