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ゴードン男爵は花束を背に持って、エレオノーラの家の門番に話しかけた。


「わしはゴードン男爵。貴家のエレオノーラさんにフランス語を教わっている者です。本日はエレオノーラさんに用があって参りました。お通し願いたい」


門番Aは門扉にかけてあるバインダーを手に取り、紙をパラパラとめくった。


「少々お待ち下さいね……ゴードン男爵……ゴードン男爵……本日エレオノーラ様とのアポイントメントはありますか?」


「いや、ない。謝罪に来たのだ。謝ればすぐに帰るから、通してくれ」


「うーん、すみませんがアポがないとお通しできないんですよ。帰ってください」


「はるばるやって来たのに帰れだと!? そうかたいことを言うなよ。わしはエレオノーラさんの生徒だぞ。怪しい者じゃないから」


「何度も言わせるな! 帰れって言ったら帰れ! そもそも男爵だと? どうして男爵様が平民の服を来てここにいる? 生徒なのだとしたら堂々と来ればいいだろう?」


「ぐぬぬ……平民街に来るからこそ、目立たないように粗末な服を着てやったのであろうが! まったく、想像力のないやつじゃ……。お前じゃ話にならんから、別のやつを呼んで来い!」


眉間にシワを寄せて怒るゴードン男爵に対し、門番Aは鼻で笑い、隣にいた門番Bに話しかけた。


「おいB、こいつもしかしてブラックリストにいるやつかもな。今持っているか?」


門番Bもまた自分のバインダーを手に取った。


「いや……せっかくの機会なのに持ってないぜ……。あっ! でもエレオノーラ様の生徒一覧は持ってるぞ」


そうして門番Aと門番Bはともに生徒一覧を覗き込んだ。



……そこにゴードン男爵の名前はなかった!



「お前! エレオノーラ様の生徒だっていうのも嘘だな!」門番Aがゴードン男爵に槍を突きつけた。ゴードン男爵はぱっと両手をあげ、そのとき花束が地面に落ちた。


「生徒一覧にいないはずがない! わしはつい最近まで生徒だったのだから!」


門番Bは犯罪者を見るような目でゴードン男爵をにらむ。ゴードン男爵は疑いが晴れないことに焦り、うろたえ始めた。


門番Bが「最近まで? てことは今は生徒じゃないんじゃねえか。やっぱり嘘つきジジイかよ」と言うと、門番Aが何かを思い出したような顔をした。


「そうだ。エレオノーラ様が変な男に付きまとわれているって話を聞いたぞ。名前はわからんが、年寄りだと……。もしかしてこいつか? 謝罪なのに花束を持って来ているし……やっぱり不審者だな」



そのときだった。



ピィィィィッッッッッッ!!!!!!



王都警察の警笛が鳴り響き、馬に乗った警官が2人駆けつけたのであった。
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