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”エレオノーラ”という名前がゴードン男爵の頭を駆け巡った。そして、電撃が走るようにその名前を思い出した。

(エレオノーラ! 思い出したぞ! 三年前にナタリエル男爵と王都へ遊びに行ったとき、絶世の美女がいると広場が大騒ぎになっていたことがあった。あのとき異国土産を売っていた美女が確か……エレオノーラだった!)



ゴードン男爵はちらと彼女を見ただけだったが、その美貌に鮮烈な印象を持っていた。彼女の異国風な流行服や、品のよさ、青白い物憂げな顔つき、カールした髪、女性らしいしなやかな腰つきなどがゴードン男爵の記憶を呼び覚ました。



……。



夫が気乗りしていないと見たカチェリーナは肩を落とし、「では……残念ですがお断りしておきますね……」と言い、その場を離れようとした。


「ちょっと待ってくれ!」


鼻の穴を膨らませたゴードン男爵がカチェリーナを焦って呼び止めた。彼女は恨めしそうな目つきで振り返った。


「どうかなさいましたか?」


「カチェリーナ。すまんかった。ナタリエル男爵との会話も思い出したし、それにわしは……ずっと昔からフランス語が憧れだった! 年を取れば取るほど新しいことが億劫になっていかんな……。どうかその家庭教師を屋敷に招いてくれ」


カチェリーナの顔がぱっと明るくなる。


「ということは……フランス語を勉強なさるのですね! あぁ……よかった……一生懸命探したかいがありましたわ」


「そうだろう、そうだろう。お前がわしのためにいつも尽くしてくれているのは知っておる。どうして妻の健気な気持ちをむげにすることができようか」


「あら、嬉しいことをおっしゃってくれますね。鉄は熱いうちに打てと言いますし、何事もやりたいと思ったときにすぐに行動に移すのがよいですわ。もう心変わりしないでくださいよ、嫌ですからね」


「わかっておる、信じてくれ。必ずやフランス語をものにする! もしかしたら語学の能力を買われて、他国の外交に遣わしてもらえるかもしれんな。国王陛下にアピールするぞ!」


そうして、太陽がうららかに照る昼下がり、家庭教師エレオノーラはゴードン男爵邸にやって来た。領内は子どもたちが落ち葉をかき集めて乗り遊ぶような秋となっていた。
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