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アランの発言を聞き、ヴァネッサは躊躇した。惚れた男にとことん尽くすヴァネッサだったが、さすがに難しいのではないかと思った。


「180フラン!? そんなにコルテオから取れるかしら……。これ以上追い詰めると、王国学生支援機構とかから借り始めるかもしれないわよ? そうしたら日々の出費を調査されるし、かわいそうすぎるわ」ヴァネッサは無意識にコルテオをかばっていた。


「お前は知らないかもしれないが、王国学生支援機構っていうのは血も涙もない鬼のような高利貸しだ。支援という名目で思慮の浅い若造に借金を与え、翼の半分をもぎ取る。もし借金を返さなかった場合にはブラックリストに入れ、社会的信用を地に落とさせる。もしあの男があそこから金を借りれたとしても、あいつらは金にしか興味ないんだから、俺たちに影響はないさ」


「だといいんだけど……」


自信なさげにうつむくヴァネッサに対し、アランは彼女の手を握り、笑顔を見せた。


「お前が稼ぐ金は、俺たちの将来のために必要なんだ。落ち着いたら結婚して、立派な家を建てよう。……こんな長屋じゃなくてな。お前にはたくさん子を産んでほしいから、養育費もかかる。今のうちに俺が貯めておいてやる。売れない画家が息をするのに遣うよりも、俺たちが子を増やすほうが社会のためにもなるだろう。あいつの金はもともと貴族の金なんだし、気に病むことはないぞ」


「アラン……あなたのこと、信じてもいいのよね……? すべては愛し合うわたしたちの未来のためなのよね?」自信のないヴァネッサの弱々しい声。


疑われたと感じたアランは、カッとなった。というより、わざと怒ってみせて、ヴァネッサをコントロールしようとするのが彼の常だった。


「ああん? 信じられねえってんのか? いつからお前はそんなに偉そうに言うようになった? はーあ、ショックだわー。……じゃあな!」


そう言うとアランはヴァネッサの手を放り投げ、見捨てるようにして玄関のほうへ歩き始めた。

怯えた子犬のような表情のヴァネッサは、急いでアランを引き止める。


「そんな! 今晩はゆっくり二人の時間を過ごすって約束してたじゃないの! 楽しみにしてたのよ!」


「離せ! 俺はな、お前に疑われて傷ついたよ!」


アランはヴァネッサを怒鳴りつけると、殴る蹴るの暴行を加えた。ヴァネッサは泣きながら「ごめんなさい、ごめんなさい。もう二度と言いません」と謝り、両手で頭を守っていた。最後にアランからの蹴りがヴァネッサの背中に入ったところで、息を切らしたアランは「白けたから、もう一度酒を呑みに行ってくるわ」と吐き捨て、家を出て行った。
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