上 下
70 / 106

一緒に食べますか?

しおりを挟む
 情報共有が終わった後、光教会を出て当初の予定通り町の地理を把握するために散策している。

 トエーリエも一緒に来たがっていたが、ベラトリックスたちと合流しなければいけないため涙を流しながら離れていったのが印象的だった。

 俺の左側には帽子で顔を隠しているアイラがいて、平民っぽい服装をしているので違和感はない。気になるのは右側にいるテレサだ。修道服が非常に目立っている。特に弓を背負っていて、特別な存在だというのが一目で分かる。注目を集めていた。

 この町の中心にヴォルデンク家の屋敷があり、上下左右にメインストリートが作られている。自然と四つのブロックができるので、鍛冶等をする職人エリアが一つ、住民と市場が使うエリアが二つ、冒険者や傭兵といった粗暴な人の集まるエリアが一つといった用途別に棲み分けされている。

 今は住民たちが使うエリアのメインストリートに来ていた。左右には飲食や服、雑貨などを売っている店が多い。他にも奴隷販売所らしきものまであった。

「この先に、有名なレストランがあるんです。一緒に食べますか?」

 領地をよく知ってもらいたいという気持ちがあるのだろう。

 有名なスポットに着くとアイラは積極的に教えてくれている。

「味は気になりますが、先に仕事を終わらせましょう」

 興味ある話ではあるが先に住民たちの様子を確認したい。

 店には入らずメインストリートを歩き続ける。

 特にトラブルが起きているような気配はなく、裏通りを見ても不審者はいない。

 前回バドロフ子爵が攻撃を仕掛けてきたとき真っ先にこのエリアの治安が悪化したらしいので、今のところは手を出されてないと見て良いだろう。

 だがまったく問題ない、というわけではない。

 露天商で果実を買うついでに雑談をしたのだが、治安を維持するために巡回している兵の評判がすこぶるわるいのだ。

 横柄な態度をとり、時には暴力を振るうこともあるらしい。住民には嫌われている。

 この事実にアイラは気づいてなかったようで大きなショックを受けていたようだ。

 隠し事の多い父親だな。せめて娘には正直に話せよ。
 
「それ以上、文句を言うなら牢屋にぶち込むぞ!!」

 声がした方を見る。屋台の前に兵士が二人いた。金がない時代の装備を続けているのか革鎧にショートソードという貧素な見た目だ。

 彼らは店主である気が強そうな女性を囲んでいる。

 話を聞いたばかりで兵の横暴を目にするとは……。

 不正した人たちの処罰を断念したことで、この程度は許されるとか思っているのだろう。穏便に済まそうとして俺たちの気持ちを踏みにじりやがって。

 メイド一人だけでは、見せしめとしては足りなかったようだ。

「金を払わずに飯を食べようとしたあんたらが悪いっ! そんなこと許されるわけないだろ!」
「俺たちはな、町の治安を守ってるんだよ! その見返りをもらっているだけだ! これ以上文句を言うなら牢へぶちこむぞ!」

 賭け事をしているだけじゃなく、無実の民を牢に入れるようなことまでしているのか。

 さすがにこれはヤバイ。思っていた以上に状況は悪く、バドロフ子爵が手を出さなくても自滅してしまいそうだ。

「昔からそんなこと言っているけど、いざってときには逃げ出したじゃないか! 役立たずが!」
「お前ーーーーッ!」

 腰にぶら下がっている剣に手を乗せた。

 激高していて周囲が見えないようだ。

「止めに行きます」

 帽子をかぶったままのアイラがうなずいた。

 手遅れになる直前で飛び出し、剣を抜きかけている兵の手を押さえ、足をかけて転倒させる。

「てめぇ! 俺たちが……がはッ」

 残った兵が叫んでいる途中で喉をつく。相手は油断していたので指一本でもかなり痛みを感じているようだ。

 目に涙を溜め、手で抑えている。

 倒れている兵の胸を踏みつけ、もう一方に槍を突きつける。

「お前は……あの護衛か……」

 俺の顔を知っているようで余計な自己紹介はせずにすんだ。

「町を守る兵が住民を攻撃しようとしてどうする? この件は報告するぞ」
「俺たちは正しいことをしている。報告をしてもお前が投獄されるだけだ。今なら見逃すから手を引け」

 言い分を信じるのであれば、ヴォルデンク男爵も認めている行為なのか?

 不正が当然の権利だと考えていることに腹が立ってきた。

「腐っていやがる」

 守るべき者を虐げるなんて許せない。

 腹の底から怒りが湧いてくる。

「ひぃ……」

 抑えきれなかった殺気が漏れてしまったようだ。

 槍を突きつけていた兵の顔が青ざめている。

「ヴォルデンク家が兵士の横暴を認めていると言いたいんですか? それは聞き捨てなりませんね」

 見守っていたアイラが俺の後ろに立った。

 帽子を取って素顔を露わにすると、兵士は息を呑んだ。顔色がさらに悪くなっていく。

「どうやら、あなたたちには正しい教育が必要なようですね」
「待ってください! 誤解されております!」
「言い訳は屋敷で聞きましょう」

 冷たく拒絶すると、アイラは俺を見た。

「ヴォルデンク当主代理として宣言します。罪のない住民に無法を働く者は誰であっても許しません。二人を無力化して、屋敷に連れて行きなさい」
「かしこまりました」

 こうなったらもう抵抗しないだろう。足をどけてアイラを後ろに下げる。

 倒れていた兵が起き上がった。

「屋敷に戻るぞ」

 俺の言葉には従わずに剣を抜きやがった。

 自暴自棄になったのだろう。

 馬鹿な選択をしたものだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...