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整理するので

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「話はまとまりましたね。ポルン様と私、他二人はバドロフ子爵からアイラ様をお守りする、でよろしいですか?」
「はい。よろしく――」

 ドアが勢いよく開く音によって言葉は遮られてしまった。

 不審者が入ったのかと警戒しながら振り返る。

 一緒に汚染獣と戦った光教会の特別司祭テレサがいた。黒と黄色の修道服を着ており、鮮やかな長い青色の髪と垂れ目が印象的なのは変わらない。

 そういえば出会ったときも、こんな感じで警戒していたことを思い出す。

 ベラトリックスたちと別行動していたと思っていたのだが、どうやってここにいるって調べたんだ?

「ここにポルン様がいると聞いて!」

 俺と目が会うと瞳が輝き、片膝をついた。

「今回の任務、私も――ブベラッ」

 喋っている途中でトエーリエに殴られて吹き飛び、壁に衝突する。すごく痛そうだ。

「ちょっとお話ししてきますね~」

 おほほと手で口を隠しながら、意識を失っているテレサを連れて行ってしまう。残されたのは俺とアイラだけ。

 気まずい空気が流れている。

 これって事情を話さないとダメだよな。どこまで言うべきか、それが悩む。

「あのー」
「ちょっと待ってくれませんか。整理するので」
「は、はい」

 遠慮がちだけど突っ込んだ質問をされそうだったので、手のひらを向けて止めた。

 元勇者だってことがバレれば国中に知らせが回るだろうし、清貧を求められるので女遊びは難しくなる。別の国に行かなければいけない。

 それは面倒だ。

 また自国に囲い込もうとしてきて不自由な思いもするだろう。

 うん。隠そう。それがいい。

「えーとですね。さっきの方はテレサと言って一度、戦いを共にした知り合いです」
「あの服は司祭以上の身分でなければ着られませんよね? そんな立場の人が片膝をつくなんて……ポルン様、何者なんですか?」

 はぐらかそうとしたら追求されてしまった。

 言葉に詰まる。

 特別司祭は勇者と共に汚染獣と戦う身分であり、そんなテレサが敬う相手など決まっているのだ。納得してもらうには身分を明かすしかない。

「そうですね……不思議ですよね。あははは」

 笑って誤魔化そうとしたら半目で見られてしまった。

「私のことは全部話したのにポルンさんは隠し事するんですね」
「これには私にも事情があって……」

 女遊びのためですとは言えず笑顔で誤魔化そうとすると、頬を小さく膨らませて不満ですとアピールされてしまった。

 だがふと、何かを思い出したようで、すぐ口を開く。

「あ、そういえば国王から身分を保障されていましたよね。ということは、元上位貴族でしょうか。ううん。それだけじゃテレサさんがあんな態度を取った理由にはならない。そういえばポエーハイム王国には光教会の枢機卿と再婚した女貴族がいました。確か伯爵で家名は……ゴルベル家、だったような。たしか二番目か三番目の子ですよね。もしかしてポルン様は、その家系の方じゃないでしょうかっ!」

 他国の情報までしっかりと覚えているのは素晴らしい。

 しかも情報は正しい。確かに光教会の枢機卿の孫はいる。かわいがられているし、光教会も大切にしている。特別司教がかしずく相手としては妥当だが、重要な情報が欠如している。

 性別だ。

 その孫とはトエーリエだったのだ。

 聖女と呼ばれるのは能力だけでなく、血筋も関係があったのである。

「ご想像にお任せします、で許してもらえませんか?」
「そうですよね。他国の上級貴族が身分を隠して旅をしているなんて分かったら、連れ戻されるか良いように利用されるかもしれませんからね。ポルンさんが隠したがる気持ちはわかります。あ、ポルン様と言った方が良いでしょうか?」

 早口で言い切った。一呼吸せずにだ。体温が上がっているように感じる。興奮しているようだ。

 貴族だと気づいた途端に、だ。理由は思い浮かばないがアイラにとっては嬉しいことだったのだろう。

「今まで通りで大丈夫です……」
「はい! ではこれからもポルンさんと呼ばしてもらいますね」

 満面の笑顔だ。なぜそうなるのかやはり分からないが、俺に都合の良い勘違いをしてくれたので訂正はしないでおこう。

 余計なことは言わず、ポエーハイム王国について当たり障りのないことを教えていると、トエーリエたちが戻ってきた。

「お待たせしました」

 何事もなかったかのように椅子に座る。少し遅れてテレサも戻ってきた。

 大きなケガをしている様子はないが、しょぼんと肩を落としている。一体、どんな話し合いをしたのだろう。

 気になるが聞ける雰囲気ではなかった。

「光教会から特別司教のテレサさんを貸してもらえるようです。護衛として側に置いてもよろしいでしょうか?」
「ポルンさんのお知り合いであれば問題ありません」

 俺の方を向いてアイラがウィンクした。

 あれか、俺の教育係か使用人みたいな存在だと勘違いしていそう。

 別にどう思われても不便はないので軽くうなずくと、なぜかトエーリエが口を曲げてむっとした。

「仲がよろしいことで」
「出会ったばかりですが濃い時間を過ごしましたので」
「濃さであれば私も負けませんよ」
「あら、そうなんですね」

 この場がピリッとしたような気がしたが、思い違いだろう。

 穏やかな声でトエーリエが話しているのだから。
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