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第18話 パパよりも年上だね! おじさんじゃん!
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「おじさん何しているのーーー?」
無邪気な言葉が俺の心をえぐってきた。
ここはきちんと教育するべきか。
「俺はまだ二十歳。おじさんじゃない、お兄さんだ」
「パパよりも年上だね! おじさんじゃん!」
別の子供がさらに俺の心をえぐった。
推定四歳児の父親よりも年上だと!?
成人は十五歳で田舎の方だとすぐに結婚するケースも珍しくないが、王都だと二十三ぐらいまでは独身であることの方が多い。都会基準だと俺はまだ若い部類に入るのだ。
父親が若すぎるだけで、断じて、俺はおじさんと呼ばれる年齢ではない!
暴言を吐いた少女の頭を軽く掴んで顔を近づける。
「お嬢ちゃん。違うぞ。俺はお兄さんだ」
少女は涙目になってしまった。もうすぐ泣いてしまいそうだ。
周囲の子供たちが俺を責めるような目をしている。
気まずい。
やり過ぎてしまったと反省した。
「……すまん。俺は……おじさんでいい」
頭から手を離すとポケットに手を突っ込む。
非常食として取っておいた物があったんだけど、どこにしまったっけな。
ゴソゴソとポケットを漁っていると小さいボール状の物が入った袋を見つけた。
一つ取り出して手のひらにのせる。
「これは砂糖を溶かして固めた飴というものだ。美味いぞ」
高級品で王都でも買える人は少ない。村では絶対に手に入らない逸品だ。
「食べて良いの?」
「もちろん」
恐る恐るといった感じで飴をつまむと少女は口に入れた。
すると満面の笑みに変わる。
「甘いっ! おじさんこれ美味しいっ!」
この言葉が呼び水となったのか、他の子供たちが集まってきた。十人ぐらい居るだろう。飢えた獣のようだ。
「僕も食べたい!」
「カナちゃんだけずるい! 私もーーー!」
「ちょーだい!」
みんな期待した顔をしている。手を出して待っているのだ。
世の中は理不尽で不平等なことが多い。せめてこの場だけは平等に扱ってあげたいと思うので要望に応えると決めた。
「一人一個だからな。ズルするなよ」
袋から取り出して飴を渡していく。
全員行き渡ると子供たちは口に入れた。
袋に沢山あった飴は数個しか残っていない。
「美味しい~~~!!」
ほっぺたに手を当てて、とろけそうな笑みをしている。
見ているだけで俺も幸せな気分になる。
この時間が少しでも長く続けばいいななんて思っていた。
「おじさんは石を綺麗にしてたの?」
最初に飴をあげた少女が聞いてきた。
食べ終わって暇になったのだろう。
「これは大昔に活躍した勇者の偉業を讃える文字が書かれている石碑だ。ただの石じゃないんだよ」
「へ~。これ文字なんだぁ~」
石碑の前に立った少女は彫られた文字を指でなぞった。
村から忘れられてしまった理由がわかったぞ。
まともな教育は受けられず十歳になる前には畑仕事を手伝わされる村人たちは、文字が読めない。伝承が途絶えてしまい、変な模様のある石だと忘れ去られてしまったのだ。
「なんて書いてあるの?」
俺のわがままではあるのだが、この地で活躍した勇者の存在ぐらい覚えておいて欲しい。
子供は興味を示さないかもしれないが、後輩だった俺が教えよう。
「そうだな……まずこの地に大型の汚染獣がいたらしい。空まで黒く染めるほどの瘴気を垂れ流して、住んでいた生命はほぼ死滅したようだ」
五代前のソーブザが活躍した時代だから150年ぐらい前の話か?
ここは昔、今よりももっと状況が悪くて不毛の地だったみたいだ。
「汚染の範囲は急速に広がっていったので、当時の勇者だったソーブザが討伐に出たと書いてある」
「それでどうなったの!?」
「四人の仲間を連れて、あそこまで行ったらしい」
指さしたのは黒く変色した山脈だ。
皮肉なことに小型の汚染獣が住み着いている場所にいたらしい。
「なんでそんな少ないの? 大勢で戦った方が良いのにー!」
別の子供が疑問を口にした。
飴をなめ終わったみたいで、集まっている子供たちは俺の話を聞きに来たようだ。
「汚染獣と戦うには光属性の浄化が必要だ。しかし勇者の魔力には限りがある。少数にしか使えない。だから同行した仲間は四人だけだったんだよ」
特に大型であれば瘴気は非常に濃かったはずだ。光属性を付与してもすぐに効果が切れてしまうので何度もかけ直す必要がある。
一般的な勇者であれば数人が限界だ。ソーブザは偉大な勇者ではあるが魔力の保有量は普通か、それよりも少ないと聞いているので、大軍を率いるなんて無理だったのだろう。
「へー。色々と大変なんだねぇ~~!」
少女が腕を組んでうなずいていた。可愛らしい姿だったので温かい気持ちになった。
「そうだな。汚染獣との戦いは厳しい。何度も死にそうな目にあう」
小型でも気を抜けば死んでしまう。勇者といえども光属性以外は普通の人間と変わりないので、英雄みたいな強さはない。
常に死と隣り合わせなのだ。
だからこそやはり、その活躍は覚えていて欲しいと願ってしまう。
「でだ、話を戻すぞ。大型の汚染獣は高い知能を持っていて様々な魔法を使って攻撃してきたらしい。偉大な勇者ソーブザは三日三晩戦い続け、最後は討ち滅ぼしてこの地を解放した」
汚染獣が魔法を使う、か。ベラトリックスのように魔法名すら言わずに発動させるのであれば脅威である。
具体的な姿や攻撃方法が残されてないので、文字を読み進めてみたが何も書かれてない。村人が覚えられるよう内容を短くまとめた影響だろう。残念だ。
「汚染獣討伐後に、この村は作られたらしいが、何か聞いているか?」
「知らないーー!」
村には何も伝わってないらしい。
石碑すらこの扱いなのだから驚きはしないが、非常に悲しかった。
長い間続いている制度だから、きっと勇者が活躍するのは当たり前で、みんなにとっては特別なことではないのだろう。
俺が残してきた成果もいつか忘れ去られるのかな。
それが少し寂しかった。
無邪気な言葉が俺の心をえぐってきた。
ここはきちんと教育するべきか。
「俺はまだ二十歳。おじさんじゃない、お兄さんだ」
「パパよりも年上だね! おじさんじゃん!」
別の子供がさらに俺の心をえぐった。
推定四歳児の父親よりも年上だと!?
成人は十五歳で田舎の方だとすぐに結婚するケースも珍しくないが、王都だと二十三ぐらいまでは独身であることの方が多い。都会基準だと俺はまだ若い部類に入るのだ。
父親が若すぎるだけで、断じて、俺はおじさんと呼ばれる年齢ではない!
暴言を吐いた少女の頭を軽く掴んで顔を近づける。
「お嬢ちゃん。違うぞ。俺はお兄さんだ」
少女は涙目になってしまった。もうすぐ泣いてしまいそうだ。
周囲の子供たちが俺を責めるような目をしている。
気まずい。
やり過ぎてしまったと反省した。
「……すまん。俺は……おじさんでいい」
頭から手を離すとポケットに手を突っ込む。
非常食として取っておいた物があったんだけど、どこにしまったっけな。
ゴソゴソとポケットを漁っていると小さいボール状の物が入った袋を見つけた。
一つ取り出して手のひらにのせる。
「これは砂糖を溶かして固めた飴というものだ。美味いぞ」
高級品で王都でも買える人は少ない。村では絶対に手に入らない逸品だ。
「食べて良いの?」
「もちろん」
恐る恐るといった感じで飴をつまむと少女は口に入れた。
すると満面の笑みに変わる。
「甘いっ! おじさんこれ美味しいっ!」
この言葉が呼び水となったのか、他の子供たちが集まってきた。十人ぐらい居るだろう。飢えた獣のようだ。
「僕も食べたい!」
「カナちゃんだけずるい! 私もーーー!」
「ちょーだい!」
みんな期待した顔をしている。手を出して待っているのだ。
世の中は理不尽で不平等なことが多い。せめてこの場だけは平等に扱ってあげたいと思うので要望に応えると決めた。
「一人一個だからな。ズルするなよ」
袋から取り出して飴を渡していく。
全員行き渡ると子供たちは口に入れた。
袋に沢山あった飴は数個しか残っていない。
「美味しい~~~!!」
ほっぺたに手を当てて、とろけそうな笑みをしている。
見ているだけで俺も幸せな気分になる。
この時間が少しでも長く続けばいいななんて思っていた。
「おじさんは石を綺麗にしてたの?」
最初に飴をあげた少女が聞いてきた。
食べ終わって暇になったのだろう。
「これは大昔に活躍した勇者の偉業を讃える文字が書かれている石碑だ。ただの石じゃないんだよ」
「へ~。これ文字なんだぁ~」
石碑の前に立った少女は彫られた文字を指でなぞった。
村から忘れられてしまった理由がわかったぞ。
まともな教育は受けられず十歳になる前には畑仕事を手伝わされる村人たちは、文字が読めない。伝承が途絶えてしまい、変な模様のある石だと忘れ去られてしまったのだ。
「なんて書いてあるの?」
俺のわがままではあるのだが、この地で活躍した勇者の存在ぐらい覚えておいて欲しい。
子供は興味を示さないかもしれないが、後輩だった俺が教えよう。
「そうだな……まずこの地に大型の汚染獣がいたらしい。空まで黒く染めるほどの瘴気を垂れ流して、住んでいた生命はほぼ死滅したようだ」
五代前のソーブザが活躍した時代だから150年ぐらい前の話か?
ここは昔、今よりももっと状況が悪くて不毛の地だったみたいだ。
「汚染の範囲は急速に広がっていったので、当時の勇者だったソーブザが討伐に出たと書いてある」
「それでどうなったの!?」
「四人の仲間を連れて、あそこまで行ったらしい」
指さしたのは黒く変色した山脈だ。
皮肉なことに小型の汚染獣が住み着いている場所にいたらしい。
「なんでそんな少ないの? 大勢で戦った方が良いのにー!」
別の子供が疑問を口にした。
飴をなめ終わったみたいで、集まっている子供たちは俺の話を聞きに来たようだ。
「汚染獣と戦うには光属性の浄化が必要だ。しかし勇者の魔力には限りがある。少数にしか使えない。だから同行した仲間は四人だけだったんだよ」
特に大型であれば瘴気は非常に濃かったはずだ。光属性を付与してもすぐに効果が切れてしまうので何度もかけ直す必要がある。
一般的な勇者であれば数人が限界だ。ソーブザは偉大な勇者ではあるが魔力の保有量は普通か、それよりも少ないと聞いているので、大軍を率いるなんて無理だったのだろう。
「へー。色々と大変なんだねぇ~~!」
少女が腕を組んでうなずいていた。可愛らしい姿だったので温かい気持ちになった。
「そうだな。汚染獣との戦いは厳しい。何度も死にそうな目にあう」
小型でも気を抜けば死んでしまう。勇者といえども光属性以外は普通の人間と変わりないので、英雄みたいな強さはない。
常に死と隣り合わせなのだ。
だからこそやはり、その活躍は覚えていて欲しいと願ってしまう。
「でだ、話を戻すぞ。大型の汚染獣は高い知能を持っていて様々な魔法を使って攻撃してきたらしい。偉大な勇者ソーブザは三日三晩戦い続け、最後は討ち滅ぼしてこの地を解放した」
汚染獣が魔法を使う、か。ベラトリックスのように魔法名すら言わずに発動させるのであれば脅威である。
具体的な姿や攻撃方法が残されてないので、文字を読み進めてみたが何も書かれてない。村人が覚えられるよう内容を短くまとめた影響だろう。残念だ。
「汚染獣討伐後に、この村は作られたらしいが、何か聞いているか?」
「知らないーー!」
村には何も伝わってないらしい。
石碑すらこの扱いなのだから驚きはしないが、非常に悲しかった。
長い間続いている制度だから、きっと勇者が活躍するのは当たり前で、みんなにとっては特別なことではないのだろう。
俺が残してきた成果もいつか忘れ去られるのかな。
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