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第17話 お力になれて良かったですっ!

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「そんな恥ずかしがらなくても!」

 俺が拒否していても無視されてしまい、三人の男に頭を撫でられ胸や腕を触られる。

「いや~。さすが勇者様。良い筋肉してますね~」
「カッチカチだ!」

 子供を助けたお礼から俺の筋肉に話題が移ってしまった。

 どっちがより優れているか男どもは盛り上がっている。農作業で体は鍛えられているようで、上着を脱いでポーズを取ると自慢しだした。

 そんなの自分の嫁に見せろよ。

 さっさと帰ってくれ。

「腕相撲で勝負だーーッ!」

 はぁ!?

 仕事に行けよ!

 三人の中で一番体格の良い男が俺の正面に座った。腕をテーブルに置いてキラキラとした目で見られてしまう。

 挑戦を待っているのだ。

 悪気はなく、ただ楽しそうだからって提案したんだろうな。

 とはい俺はもう男と触りたくない。頭でも殴って拒否するか?

 いや、そんなことをしたら乱闘騒ぎになる。戦って負けるとは思わないが、少しでも早く男を遠ざけたいので去るのを黙って待つべきかもしれない。

「客じゃないなら、出て行ってもらえない?」

 追い払うのを諦めかけていたら、料理を持ってきたエーリカが男どもを睨みつけてくれた。

 俺と会話しているときとは違って言い方がキツい。声は低く相手に対する嫌悪感を隠そうとしていない。

 これが彼女の素なのだろう。

「でもよぉ。俺たちだって勇者様と仲良くなりたいんだよ」
「だったら相手の状況をしっかりと確認しなさい。これから朝食を食べるというのに、あんたらは邪魔をしているんだよ? そんな相手と仲良くなりたいと思う?」
「…………思わねぇ」

 ようやく冷静になってくれたようだ。

 三人とも脱いだ服も着て先ほどの勢いはなくなくなった。

「わかったならさっさと働いてきなさい!」

 エーリカが男のケツを蹴ると、追い出されるようにして宿から出て行く。

 騒動が落ち着くとエーリカが俺を見た。先ほどまで険しい顔をしていたのに今は笑顔である。

「大丈夫でした?」
「ああ、助かったよ」
「お力になれて良かったですっ!」

 甘えるような声だ。あまりの豹変ぶりに驚いてしまった。

 今も死んだ男のことを大切に思っているなんて絶対に気づけない。

 女って怖いな……。

「朝食をお持ちしたのでしっかり食べて、力を付けてくださいね」

 ドンと勢いよくお椀がテーブルの中心に置かれた。

 中には透明のスープが入っていて、いつも通り木の実が入っている。

「ありがとう。いただくよ」

 エーリカはカウンターに戻っていったので、スプーンですくって木の実ごと食べる。

 うん。不味い。

 そもそも塩すらほとんど使われてないので、食材そのままの味しかしないのだ。料理の腕に関係なく、美味しくなる要素はゼロである。

 こんなんだからベラトリックスは朝食を拒否したのかもしれない。

 噛んだら苦みが増しそうなので、一気に飲み干す。

 味はともかく腹だけは満たされた。

「ごちそうさま」

 席を立つと二階に戻る。

 部屋に入ると手紙に封蝋をしているベラトリックスの姿があった。

「国王への手紙を書いたのか?」
「はい。現状を伝えて勇者の派遣を希望していることを書きました。情報が握りつぶされないよう光教会にも送ります」

 光教会とは名前の通り光属性の人間を保護、支援する組織だ。お願いすればタダで金をくれる便利なところで、資金が尽きかけたときに何度かお世話になった経験がある。常に俺たちが生きやすいように尽力してくれるのだ。

 しかも信者が多いので政治への影響力も強く、光教会のおかげで他国の救助も容易に行える。

 あの組織が動けばドルンダは無視できないだろう。

「俺も一言、書いておく」
「ありがとうございます」

 光教会宛の手紙にのみ、俺も勇者の派遣を望む、と書いておいた。

 これで実現する可能性はグッと上がったはず。

「これからポルン様はどうしますか?」
「俺はこの村を守るために残る。石碑を掃除しながら待っているさ」
「分かりました。私は王都に戻って手紙を渡して、ついでにトエーリエたちと他に懸念がないか新勇者のことを調べてきます」

 風で体が冷えないようローブをまとって、手紙を持ったベラトリックスは窓から飛び降りた。

 飛翔魔法の力によって宙に浮いている。

 気になる発言はあったが、この場で真意を確認するのは難しそうだ。

「行ってまいります」

 手を振るとフッとわらってから布で顔を隠し、ベラトリックスは空を飛んでいった。

 馬よりも早い。魔力も充分にあることだし一日もあれば王都に着くだろう。

 最低でも往復で二日。何かを調査するのであればもっと時間はかかる。

 ……ついに俺は、自由を手に入れたッッッッ!!

 早速、女遊び……はしない。エーリカはまだ旦那の影を引きずっていそうなので、深い関係になるのは気が引けてしまう。俺から行くことはないだろう。

 他の女性を探そうとも思ったが、汚染獣の存在がちらついてヤる気は削がれている。

 クビになっても勇者として活動していた時間がなくなるわけではないので、自らの欲望よりも他者を助けたい、守りたいと思ってしまうのだ。今も考えが変わらないなんて、職業病というよりかは呪いに近いな。

「汚染獣の排除が終わったら別の場所で遊べそうな女性を探す。それしかない」

 言葉にしたら優先順位が明確になり、気持ちはスッキリとした。

 よし行動開始だ。

 エーリカからぼろきれを買い取ってバケツを借りると、石碑の所まで向かう。

 忘れられかけている過去の偉大な勇者に対して敬意を込めながら、水につけた布で洗い落としていく。

 頑固な汚れもあったが、何度もこすれば綺麗になる。水が黒くなれば井戸で新しいのに変えて石碑を綺麗にしていると、いつのまにか子供たちに囲まれていた。
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