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10 兄弟のために
しおりを挟むそうしてかなえが高校生になった頃、弟たちは小学生。しっかりと物心もついている。
父親と母親のこと、家族のこと、自分たちのこと、様々なことが分かり始めていく年齢になり、小学生ながらに自分たちの生活が世間一般とはかけ離れていることに気が付いてゆく。
しかし、かなえという存在が優人と義人を支えていることを理解していたため、二人はどうにか幸せというものを感じながら生きていくことができた。
かなえが高校三年生の頃、事件が起きた。
父親が警察につかまったのだ。覚せい剤をしていたらしい。
家に家宅捜索が入り、母親も取り調べを受けた。既に夫婦仲は悪く、ほとんど家に帰らなくなった母親は父親とは話もしていなかったため、覚せい剤のことなど知らなかったのですぐに家に戻ってきた。
そしてすぐに母親は二度目の離婚をした。
しかし、そのことでかなえの学友たちはあらぬ噂を立てるようになり、あと数か月で卒業というところで自主退学をすることになってしまう。
かなえの心にひび割れが出来てしまったのだ。
辛い生活のなかでも、どうにか高校を卒業するために勉強を頑張っていたというのに、父親のせいでかなえに嘘の噂ばかりが学校に広まり、陰湿ないじめを受けるようになった。
相変わらず母親は家には戻らず、弟二人の面倒を見ながら自分の生活まで不便が出るようになり、いじめに対抗するほどの精神も体力もかなえには残っていなかったのだ。
かなえの心の支えになる人など、一人もいなかった。
あと数か月の辛抱だという教師の説得も、かなえには耐えることなどできるはずもなく、学校を辞めた。
その頃から母親はかなえに生活費を渡す頻度が少なくなり始め、支援してくれる親戚もいないため、かなえはアルバイトをすることにした。
中卒であるかなえを雇ってくれる場所は少なく、職を選り好みしている場合ではなかった。
朝は新聞配達をし、弟二人が学校に行くと朝から夕方までスーパーで働く。夕方になればまた弟二人が帰ってくるので食事と風呂の準備をし、寝かしつかせて夜明けまで内職をした。
そこまでしても、かなえが稼げる金額はそこまで多くないため必死に節約し、どうにか三人で生活していくことができていた。
しかし、弟の優人が中学生になり、かなえが二十歳を過ぎた頃、生活が再び一変する出来事が起きた。
母親が再々婚したのだ。
久しぶりに見た母親は相変わらず派手な化粧をし、男遊びをしていたらしい。
既に母親の腹の中には新しい命が宿っており、臨月を迎えていた。
新しい父親は母親と同じ夜の世界の人でホストをしているという。母親よりもかなり若く、かなえよりも少し年上くらいの男だ。
遊んでいたら子供が出来た、という印象である。
そして生まれた子供の名前は孝人。かなえの末の弟の孝人だ。
予想通り、一年ほど経った頃、母親は自身の息子である孝人を保育園に預けたまま、姿を消した。ある日、保育園から連絡がありかなえが孝人を迎えに行ったが、それきり母親は姿を消した。
かなえは文句を言うこともなく、可愛い弟である孝人の世話をしている。
弟の義人が中学生に上がった頃、夜も留守番が出来るくらいの年齢になり、かなえは内職を辞めて夜も働きに出ることにした。
内職では微々たる金額しか稼げないため、弟二人が中学生になって、夜だけでも孝人の世話を任せられるようになったらそうしようと決めていたのだ。
どうにか面接に受かった仕事は工場での倉庫内作業だった。重い荷物を運ぶのはかなえの体力をかなり奪い、家に帰る頃には疲れ果てていた。
しかし、決して弟たちの前では弱音は吐かなかった。
そこからまた数年経ち、弟二人は高校生になる。
高校生の男二人、そして幼い弟の孝人を養うとなれば生活費はもっと必要になってくるため、かなえは朝の新聞配達を辞め、昼はスーパーではたらき、夜の工場での倉庫内作業の時間帯を変更して勤務時間を増やすことにした。
朝から深夜を過ぎ明け方まで肉体労働が続き、かなえの体は今まで以上に痩せ細っていく。
心配した優人と義人はアルバイトをするとかなえに言ったが、かなえは心配ないから幼い孝人の面倒を自分の代わりに見て欲しいと二人に頼んだ。
そう言われてしまい、二人には何も言い返す言葉が出なかった。
優人が高校を卒業して就職し、二年後には義人も無事に卒業をして会社員となる。末の弟の孝人はまだ園児で、兄の三人は愛情を持って孝人の成長を見守っていた。
孝人が保育園を卒業する頃、問題が起こる。
音信不通になっていた母親が、父親と一緒に兄弟の暮らす家にやって来たのだ。
確か、噂によると母親は父親とマンション人住んでいると聞いていたが、どうしたことだろう。
話を聞くと、ホストをしていた父親がクビになり、高い家賃が払えなくなったためマンションを出たが、住む場所がないのでしばらく置いてほしいということだ。
何とも情けない話だと優人と義人は思ったが、かなえは同情してしばらくならいいと了承した。
だが、それが大きな間違いだった。
かなえの心と体に大きな傷を作り、これが原因でかなえの感情はなくなってしまった。
四人の兄弟とあとからやってきた両親は、古い一軒家で暮らしていた。
孝人が生まれてから、今まで住んでいたアパートでは生活をするのには狭すぎたため、義人の仕事が決まったタイミングでかなえたちは引っ越しをした。
アパートでは部屋数が少ないため、古い一軒家を借りることにしたのだ。
年季はあるが部屋数はあるし、他よりも家賃も安いのですぐにそこに決めて引っ越しをした。
どうやって調べたのか走らないが、母親は年下の夫を連れて兄弟の住み始めた家に押しかけ、しばらく居候することになった。
母親は自身で産んだ孝人の世話をすることもなく、昼間は無職になった夫とゴロゴロしており、夜になると仕事のために派手なメイクと衣装を身に纏い出かける生活である。
かなえと優人と義人はいつものように仕事に行き、孝人は保育園だ。
ある日、かなえの仕事が早く終わり、夜の工場での仕事が休みの時のことだった。
その日はタイミング悪く優人も義人も残業で、家に帰るのは深夜になるとの知らせがあり、母親は仕事に出たばかりだったらしく、保育園に孝人を迎えに行ってかなえは家に帰った。
すると、未だに無職であった母親の夫、かなえより少しだけ年上である父親がいつものようにゴロゴロとしていたのだ。
歳が近いせいか、なかなか父親と思えずにいるかなえは、あまりその男とは話をしないように避けていた。
男の方もそれをわかっているのか、普段からあまりかなえとは顔も合わせない。
軽く挨拶をしてその場を去り、かなえは忙しそうに夕食の準備を始めた。
幼い孝人を風呂に入れて食事をさせ、寝かしつけをする。
そうしてようやく一息ついた時、珍しく背後から男がかなえに声をかけてきた。
「なあ、かなえ、ちょっといいか?」
「…何しょうか、お義父さん」
「そんな他人礼儀な言い方するなよ。当真でいいぜ。それよりちょっと話があるから、来てくれないか?」
「?…わかりました、当真さん」
母親の新しい夫の名前は当真と言った。
当真に促されるまま、かなえは孝人が眠っているのを確認し、静かにその場から離れた。
部屋を移り、何故か当真はかなえを母親と男が使っている部屋へと誘導する。
不思議に思ったかなえは首を傾げ、当真を見た。
すると突然、当真はかなえの目の前に素早く移動し、かなえの口にガムテープを貼りつけたのだ。
驚いたかなえはすぐにその場を立ち去ろうとしたが、その力は思いのほか強く、抵抗することが出来ない。
体を押し倒され、どこに用意していたのか、持っていた紐でかなえの両手を拘束した。
「んんんーーーっ」
「しっ、ほら、孝人が起きるだろ。静かにしろって」
「んううっ!!んうーっ!!」
「暴れるなって。そんな細い体でいくら抵抗しても無駄だろ」
「うううううっ!!」
当真の顔が近付き、鳥肌が立つ。
恐怖を感じ、かなえは力の限り抵抗しようとするが、働き詰めで弱り切った体では力で敵うはずもない。
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