喫茶店のかなえさん

まむら

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08 体に残されたモノ

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一時間ほど経った頃だろうか、休憩室でゴロゴロ寝転がって他愛無い話をしていたのだが、少しかなえの様子がおかしいことに気付いた。
 
やけに大人しく、どこか元気がない。
 
 
 
「かなえさん?」
 
「……うん?」
 
「どうしました?何だか顔色が…」
 
「?」
 
 
 
啓太はかなえの表情を観察しながら首を傾げる。
 
当の本人は特に何もないようで、ぼんやりとしていた。
 
しかし、啓太はようやくかなえの異変に気付いたのか、少し慌てて起き上がる。
 
 
 
「ちょっと失礼しますよっ」
 
「ん…」
 
 
 
啓太はかなえのおでこに手のひらをあてた。
 
かなえはずっとぼんやりしていて、横になったまま動かない。
 
というより、動けないのだ。
 
 
 
「やっぱり!かなえさん、熱があるじゃないですかっ」
 
「え?」
 
「おでこ、熱いです!」
 
「………ああ、それで、めまいが…」
 
「か、かなえさん!?」
 
「…」
 
 
 
眩暈を訴えたかなえは目を閉じ、気持ち悪そうに眉間に皺を寄せている。
 
本格的に具合が悪くなってきたようだ。
 
結構熱も高いようで、おでこはとても熱かった。このままでは益々悪くなるだろうと思い、啓太はかなえを横抱きに抱えて休憩室を出ることにした。
 
とにかくここにはベッドも薬もない。隣にあるかなえの自宅に連れて行って寝かせなければならないだろう。
 
 
 
「そういえば今日は誰も家にいないと言ってたような…、とりあえず優人に連絡しておこう。…病院に連れて行った方がいいのか?」
 
 
 
行きつけの病院でもあるならそこがいいと思い、啓太は同級生であるかなえの弟の優人にメールを入れた。
 
するとすぐに返事が来た。時間的に休憩時間だったのかもしれないが良かった。
 
メールの返事を読むと、忙しくて帰れないから出来れば診ていて欲しいと書いてある。
 
そして、解熱剤はストックがあることと、胃薬にその他にも数種類、毎日飲んでいる薬があるらしく、全て同じ場所に置いてあるとのことだ。
 
かなえには何か持病があり、通院していて毎日薬を飲んでいるということだろうか。
 
 
 
「…そんなこと考えてる場合じゃないな。とにかく早く薬を飲ませないと」
 
 
 
啓太はかなえを抱えて喫茶店を出て、すぐ隣の自宅へと連れて行った。 
 
かなえの部屋に入ると静かに寝かせ、優人から教えてもらった場所から数種類の薬の袋の束を見つける。
 
思っていたよりも多くの薬が入っており、頓服薬として頭痛薬や解熱剤、鎮痛薬に吐き気止めなどあったが、中には常用薬として精神安定剤が処方されていた。
 
 
 
「……」
 
 
  
そちらはそっと元の場所に戻し、解熱剤を手にコップに水を入れてかなえの部屋に向かう。
 
先程よりもまた少し熱が上がったのか、かなえの額に汗が滲んでいる。
 
そっとかなえの上半身を起こし、声をかけた。
 
 
 
「かなえさん、解熱剤持ってきたので飲んでください。ゆっくり…」
 
「…う、ん……」
 
 
 
コップを持つ力もないのか、かなえはじっとしている。
 
啓太はそっとかなえの口に薬を入れ、コップの水を飲ませてやった。
 
普段着のまま寝かせたため、少し苦しそうにしているかなえに気が付き、啓太が訪ねた。
 
 
 
「かなえさん着替えた方がいいです。寝間着はどこにありますか?」
 
「……ん、上の…」
 
 
 
かなえはチラリと部屋の隅にあるタンスを指差し、一番上の引き出しにあると小さな声で言った。
 
啓太は失礼しますと言い、タンスの引き出しからその寝間着を取り出した。
 
それをかなえに渡そうとしたが、本人はぐったりとしており、どう見ても自分で着替えは出来そうにない。
 
迷った挙句、啓太はかなえに尋ねてみた。
 
 
 
「かなえさん、自分で着替えが出来そうですか?」
 
「……できる」
 
「本当ですか?それなら俺、一度外に出てた方がいいですか?」
 
「……ん」
 
 
 
一度小さく頷いたかなえだが、意識が朦朧としているらしく、啓太の支えがなければ上半身を起こすことも難しそうだ。
 
どう考えても自分で着替えることは出来ないだろう。
 
気が付けばかなえの目は閉じており、熱で今の状況もよく理解できていないようだ。
 
啓太はどうしたものかとしばらく考え込んでいたが、汗をかいたまま寝かせる方がいけないと判断し、かなえの意識が朦朧としているうちにサッと着替えさせることにした。
 
濡らしたタオルを用意し、かなえに一言断りを入れる。
 
 
 
「着替えしましょうね」
 
「………」
 
 
 
意識が落ち、かなえは眠っていた。
 
解熱剤が効いてきたのか、呼吸は先程より落ち着いているようだ。しかし、まだ熱は高いようで汗が止まらない。
 
啓太はかなえの上着を脱がす。
 
 
 
「…これは…、……っ」
 
 
 
服の下から現れたのは骨の浮いた痩せた体だった。あばら骨も背骨も浮いており、栄養状態が心配になるほどだ。
 
しかし、それ以上に驚いたことがある。
 
叶えの背中には大きな痣が複数あり、どれも最近にできたものではなさそうで、色素沈着したようだった。それだけではなく、目を逸らしたくなるような傷もあった。
 
きっとこれも最近のものではないようだが、きっとこれは刃物でできた傷だ。背中に腹に腕に数か所、どれも大きい。縫ったあともあるが、放置されていたと思われる痕もある。
 
あまりにも痛々しい姿に啓太の表情が曇った。
 
 
 
(足首の手術根も関係しているんだろう…。精神安定剤を飲まなければいけないほどの何かが、かなえさんにあったんだ…)
 
 
 
ズボンを脱がせるとやはり複数の傷痕があった。やはりどれも古いものだったが、どれも消えない痕となっている。
 
さっと汗を拭いてやり、寝間着を着せて静かに寝かせた。
 

 
「どうしようか、優人はまだ帰ってこないだろうし、…義人くんか孝人くんが早く帰って来てくれたらいいけど…」
 
 
 
空は薄暗くなり始め、そろそろ夕方になろうとしている。
 
かなえに飲ませるための飲み物でも買って来たいところだが、眠っているからと放って出かけるわけにもいかず、どうしたものかと啓太は悩んでいた。
 
すると、玄関の扉が開く音が聞こえ、視線を向ける。
 
 
 
ガチャッ
 
 
 
「すみません、啓太さん。義人です。優人から連絡を貰いました」
 
「勝手にお邪魔して、ごめんね」
 
「いいえ、かなえが熱を出したそうで、看病してもらって…」
 
「気にしないでいいよ」
 
 
 
帰ってきたのは優人の弟の義人だった。
 
一番下の弟の孝人はアルバイトでまだ帰らないらしい。
 
義人の手にはコンビニの袋がぶら下がっていた。
 
 
 
「コンビニに寄って帰ってきました。水分補給のためのドリンクと、熱があっても食べられそうなものを買ってきたんです。かなえは熱があるとご飯を全く食べなくなるんですけど、プリンとかゼリーなら少しずつ食べられるようで、いつもこうして買って帰るんですよ」
 
「そうなんだね。かなえさんだけど、メールで優人に聞いてさっき解熱剤を飲ませたけど、今は寝てるよ。あと、申し訳ないけど、寝間着に着替えさせたから…」
 
「えっ…、あっ、そう、ですか…。ええ、ありがとうございます、助かります」
 
 
 
一瞬、義人が驚いた表情をした。もしかするとかなえの体の傷のことで何か思ったのかもしれないが、あのまま寝かせて汗が冷えて風邪でも引いたらそれこそ大変だ。
 
多少文句を言われても、必要だったのだから仕方ない。
 
義人を見ると、少し考え込むように視線を下げていたが、すぐに啓太に振り向いた。
 
やけに真剣にこちらを見ている義人に、啓太は黙って視線を向ける。
 
義人が口を開く。
 
 
 
「啓太さん、夕飯食べて行ってください。かなえの作り置きですけど、食べながらでいいので話を聞いてください」
 
「…うん」
 
 
 
啓太は静かに首を縦に振った。
 
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