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或いは夢のようなはじまり
43 会敵
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「く…っ!」
香月の言葉に注意を促されなければ、間に合わなかったかもしれない。
闇の中に見た光は、獣の眼光だと直感で悟った。
その粗雑で本能を隠そうともしない眼光は、直樹だけを見据えていた。
直樹は右腕を立てて頭を庇いつつ、左腕で胴体を守る。
声を発した香月に目もくれなかったのは、直樹にとっては幸いだった。
香月を突き飛ばすだけの余裕はなかったが、香月に出来る限り余波が及ばないように倉庫の中へと身体を潜り込ませる。
防御の姿勢を固めた瞬間、両腕、次いで背に強い衝撃が奔った。
「ぐは――っ!」
両腕に重い一撃を受け、吹き飛ばされた直樹は倉庫内の壁に背を強く打ち付けた。
呼吸が瞬間的に止まるが、なんとか意識を手放す事態は避けられた。防御態勢が取れていなかったならば、頭を強く打ってそこで一巻の終りだったに違いない。
そして視界が数回瞬き、倉庫内が光で満たされた。
電灯のスイッチを入れてから点くまで僅か1秒にも満たない時間が、直樹にはとんでもなく長い時間に感じられた。
しかし、待望していた筈の光だったが、暗がりに慣れていた目には眩しすぎるものだった。
(なんてタイミングの悪さ!)
触れたスイッチを咄嗟に押してしまったが、いきなり戦闘に入るのならば電灯は無いままの方が良かったかもしれない。
目が慣れるまでは迂闊にガードを解く訳にもいかず、逃げ出そうにも雑多な備品に囲まれている倉庫の中では余計な怪我を負う可能性も高い。
結果として攻撃を仕掛けてきた相手の姿を視認するどころか、容易く追撃を許してしまう状況となってしまった。
もちろんここで攻撃の手を緩めてくれる程、慈悲に溢れている敵でもなく――
「――っ、ぐふぁっ!!」
痺れもあった両腕に受けた衝撃はあまり感じなかったが、またしても吹き飛ばされて強く背を打ち付ける。
二度目の攻撃で背を打ったのは壁ではなく、倉庫内の反対側の鉄扉だった。そして叩き付けられた直樹の衝撃を受け止めきれず、鉄扉の接合部は瓦解し吹き飛んだ。
鉄扉の向こう側は第一体育室。
重量のある鉄扉が木製の床を派手に削り、薄暗く広い空間に直樹の身体がバウンドし転がる。
(い…いってぇ……!)
靴同様に着衣にも戦闘用の改造を施していなければ、痛いどころの話ではない。
頭だけはしっかり守ったので意識は明瞭であり、直樹は転がり出てきた倉庫から離れるように起き上がる。
低い姿勢を保ったまま倉庫の方を睨めつけると、のそりと出てきた何かがひらりと跳んだ。
直樹の頭上を大きく越え、舞台上へと降り立つ。
倉庫の光が逆光となってシルエットしか見えなかったが、一瞬だけ見えたそれは四肢の獣だった。
(獣か。話は通じなさそうだな)
学園敷地を覆っていた気配の粗雑さから、黒幕は人間ではないかもしれないという予感が当たっただけの話である。
どちらにしろ、穏便に済むなどと最初から思ってはいない。
露骨なまでに自分らを招き込んでいるのだ。相応に痛い目を見せねば終わりなどしないだろう。
戦意を喪失して逃げ出すまでボコボコにするか、最期まで抵抗されたために殺す事になるか、それとも逆に殺されてしまうか。
(とはいえ、どうするか…)
相手が獣である以上、肉体的な瞬発力では直樹に分はない。
しかし、勝てない相手でもないと直樹は考えている。
この空間の主だと考えれば霊的な要因を強く持った存在であり、そんな相手であれば直樹の持つ戦術は有効打になり得る。
相性の良い武器――刀剣の類があれば尚良しだが、差し当たっては木刀を入手したいところだ。
「ん…?」
直樹の頭上の高い位置で、室内照明灯が大きく瞬いた。
既に倉庫からの光で慣れていたので、眩しく感じる程ではない。
「直樹ーぃ! だいじょうぶ~~っ!?」
第一体育室の入り口に回った香月が照明を点けたのだ。
気が利くのはありがたいが、香月が襲われる事も考えると直樹は気が気でない。
「いいから、下がってろ!」
全身に痛みはあるが、大丈夫だと身振りで示す。
香月自身、戦闘に参加できるほどの能力が無いのは理解している筈だし、そんな事は直樹が許さない。
口調を荒くしてしまうのは心苦しい直樹だったが、これでおとなしく隠れてくれるのならば必要悪だと割り切ろう。
不満そうな表情をしつつも香月は姿を引っ込め、意識のみ向けていた舞台へと視線を飛ばす直樹。
直樹が動くのを待っていた訳でもなかったろうが、その獣は微動だにせず、仁王立ちよろしくどっしりと構えていた。
「……は?」
その姿を見た直樹は、我が目を疑った。
そこに居たのは、確かに四肢の獣だった。シルエットの印象と違わない。
その大きさから虎かライオンのような猛獣を想像していた直樹であったが、細かい部分は予想を大きくかけ離れていた。
四肢は太く逞しい虎縞模様。
胴は茶色い剛毛に覆われ、四肢の虎縞とはいかにもミスマッチであり。
長い尾は鈍い光沢を放ち、その先には細長い舌をチロチロと出す蛇の頭。
そして直樹を凝視する丸い目が乗った顔は、相手を小馬鹿にするような愛嬌のある――猿。
異なる素材が寄り集まっている獣だが、ごく自然に一体化されていた。
少なくとも直樹の目には、継ぎ接ぎのような不自然な箇所は見えなかった。
(合成獣……いや、これは)
「鵺……?」
直樹の呟きを拾ったのか、猿の顔が にたり と笑った。
香月の言葉に注意を促されなければ、間に合わなかったかもしれない。
闇の中に見た光は、獣の眼光だと直感で悟った。
その粗雑で本能を隠そうともしない眼光は、直樹だけを見据えていた。
直樹は右腕を立てて頭を庇いつつ、左腕で胴体を守る。
声を発した香月に目もくれなかったのは、直樹にとっては幸いだった。
香月を突き飛ばすだけの余裕はなかったが、香月に出来る限り余波が及ばないように倉庫の中へと身体を潜り込ませる。
防御の姿勢を固めた瞬間、両腕、次いで背に強い衝撃が奔った。
「ぐは――っ!」
両腕に重い一撃を受け、吹き飛ばされた直樹は倉庫内の壁に背を強く打ち付けた。
呼吸が瞬間的に止まるが、なんとか意識を手放す事態は避けられた。防御態勢が取れていなかったならば、頭を強く打ってそこで一巻の終りだったに違いない。
そして視界が数回瞬き、倉庫内が光で満たされた。
電灯のスイッチを入れてから点くまで僅か1秒にも満たない時間が、直樹にはとんでもなく長い時間に感じられた。
しかし、待望していた筈の光だったが、暗がりに慣れていた目には眩しすぎるものだった。
(なんてタイミングの悪さ!)
触れたスイッチを咄嗟に押してしまったが、いきなり戦闘に入るのならば電灯は無いままの方が良かったかもしれない。
目が慣れるまでは迂闊にガードを解く訳にもいかず、逃げ出そうにも雑多な備品に囲まれている倉庫の中では余計な怪我を負う可能性も高い。
結果として攻撃を仕掛けてきた相手の姿を視認するどころか、容易く追撃を許してしまう状況となってしまった。
もちろんここで攻撃の手を緩めてくれる程、慈悲に溢れている敵でもなく――
「――っ、ぐふぁっ!!」
痺れもあった両腕に受けた衝撃はあまり感じなかったが、またしても吹き飛ばされて強く背を打ち付ける。
二度目の攻撃で背を打ったのは壁ではなく、倉庫内の反対側の鉄扉だった。そして叩き付けられた直樹の衝撃を受け止めきれず、鉄扉の接合部は瓦解し吹き飛んだ。
鉄扉の向こう側は第一体育室。
重量のある鉄扉が木製の床を派手に削り、薄暗く広い空間に直樹の身体がバウンドし転がる。
(い…いってぇ……!)
靴同様に着衣にも戦闘用の改造を施していなければ、痛いどころの話ではない。
頭だけはしっかり守ったので意識は明瞭であり、直樹は転がり出てきた倉庫から離れるように起き上がる。
低い姿勢を保ったまま倉庫の方を睨めつけると、のそりと出てきた何かがひらりと跳んだ。
直樹の頭上を大きく越え、舞台上へと降り立つ。
倉庫の光が逆光となってシルエットしか見えなかったが、一瞬だけ見えたそれは四肢の獣だった。
(獣か。話は通じなさそうだな)
学園敷地を覆っていた気配の粗雑さから、黒幕は人間ではないかもしれないという予感が当たっただけの話である。
どちらにしろ、穏便に済むなどと最初から思ってはいない。
露骨なまでに自分らを招き込んでいるのだ。相応に痛い目を見せねば終わりなどしないだろう。
戦意を喪失して逃げ出すまでボコボコにするか、最期まで抵抗されたために殺す事になるか、それとも逆に殺されてしまうか。
(とはいえ、どうするか…)
相手が獣である以上、肉体的な瞬発力では直樹に分はない。
しかし、勝てない相手でもないと直樹は考えている。
この空間の主だと考えれば霊的な要因を強く持った存在であり、そんな相手であれば直樹の持つ戦術は有効打になり得る。
相性の良い武器――刀剣の類があれば尚良しだが、差し当たっては木刀を入手したいところだ。
「ん…?」
直樹の頭上の高い位置で、室内照明灯が大きく瞬いた。
既に倉庫からの光で慣れていたので、眩しく感じる程ではない。
「直樹ーぃ! だいじょうぶ~~っ!?」
第一体育室の入り口に回った香月が照明を点けたのだ。
気が利くのはありがたいが、香月が襲われる事も考えると直樹は気が気でない。
「いいから、下がってろ!」
全身に痛みはあるが、大丈夫だと身振りで示す。
香月自身、戦闘に参加できるほどの能力が無いのは理解している筈だし、そんな事は直樹が許さない。
口調を荒くしてしまうのは心苦しい直樹だったが、これでおとなしく隠れてくれるのならば必要悪だと割り切ろう。
不満そうな表情をしつつも香月は姿を引っ込め、意識のみ向けていた舞台へと視線を飛ばす直樹。
直樹が動くのを待っていた訳でもなかったろうが、その獣は微動だにせず、仁王立ちよろしくどっしりと構えていた。
「……は?」
その姿を見た直樹は、我が目を疑った。
そこに居たのは、確かに四肢の獣だった。シルエットの印象と違わない。
その大きさから虎かライオンのような猛獣を想像していた直樹であったが、細かい部分は予想を大きくかけ離れていた。
四肢は太く逞しい虎縞模様。
胴は茶色い剛毛に覆われ、四肢の虎縞とはいかにもミスマッチであり。
長い尾は鈍い光沢を放ち、その先には細長い舌をチロチロと出す蛇の頭。
そして直樹を凝視する丸い目が乗った顔は、相手を小馬鹿にするような愛嬌のある――猿。
異なる素材が寄り集まっている獣だが、ごく自然に一体化されていた。
少なくとも直樹の目には、継ぎ接ぎのような不自然な箇所は見えなかった。
(合成獣……いや、これは)
「鵺……?」
直樹の呟きを拾ったのか、猿の顔が にたり と笑った。
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