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帝国第三皇子視点6 班分けでマチルダのせいでパティと同じ班にはなれませんでした。

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俺は夢を見ていた。

子供の時に古代竜の卵を抱えて転移した時だ。
「殿下。逃げて下さい」
そう叫んで俺の盾となって辺境伯は古代竜にやられたのだ。

俺は必死に転移した。

でも俺も傷ついていて、もう虫の息だったのだ。

古代竜の子供に刷り込みをするなど兄の思惑にのって本当に馬鹿なことをしてしまった……

こんなところで死ぬのかと絶望が俺を包んでいた時だ。

かすかな人の気配がした。敵か味方か判らない。
でも、小さい少女のような気がした。

でも、その子は大声で笑っていたような気がする。
俺はこんな子に笑われて死ぬのか、と死にかけの頭で考えたのだ。

でも、その時だ。少女が光り輝いたのだ。
そこにはピンク色の衣を纏った美しい少女がいた。


「チチンプイプイのプイ」
ピンクの少女がほほえみながら、異国のきれいな言葉で呪文を唱えると、光が彼女を包んだ。

そして、その光が俺の方に飛んできたのだ。その光が俺を包んでくれた。

その光は暖かくて、母の腕の中にいるような幸せを感じたのだ。

俺は幸せだった。

そして、ぱっと目が覚めた。

とてもいい目覚めだった。




俺はそのままさっさと学園に通学したのだ。
今日こそ、パティにお礼を言うために。

そして、馬車溜まりで待っているとマチルダの家のどでかい馬車がやってきた。

こんな目立つ大きな馬車なんかどこの子爵家が乗っているんだ! 侯爵家より立派だ。
俺は頭が痛くなった。

そして、馬車からマチルダが降りてきて、周りをつまらなそうに見下す。その後ろから可憐なパティが降りてきた。

「ぱ」
「パティ、大丈夫だったか」
俺が声をかけようとしたら横からやってきたブラッドに先を越されたのだ。

「お待ち下さい」
でも、駆け寄ろうとしたブラッドはマチルダの騎士たちに邪魔された。

「ちょっと何をする」
「危険ですからお下がり下さい」
「パティ、マチルダに酷いことをされなかったか?」
ブラッドは叫ぶが、騎士たちはびくともしない。

「ブラッド、大丈夫だから」
パティが首を振るが、
「パティ、さっさと行くわよ」
マチルダがまだいい足りないブラッドを放っておいて、強引にパティを連れて行った。

ブラッドは呆然とそれを見ていた。まあ、俺も同じだったが。


教室に入ってもマチルダのガードが強くて中々パティには近づけなかった。



その日のホームルームは遠足の班分けだった。

こうなったら、ここでパティと一緒の班になるしか無い。

班の数は5班。8人で5つだ。

一緒の班になれる確率は5分の1だ。
普通に好きなものとかやると、俺とブラッドがパティを取り合ってつぶしあいになる可能性が高い。それに俺たちを目指して女どもが殺到して、収集がつかなくなる可能性があった。
ここは少し考えないといけない。俺は頭をひねったのだ。

俺の席はパティの隣の列だった。前から順番に8人ずつ分けるとちょうど俺はパティと同じ班になるのだ。その上、邪魔するマチルダは別の班になる。これがとても好都合だ。

「先生。好きなもの同士だと、決めるのに混乱したりしますし、話したことの無い者との交流も難しいと思います。ここは名簿順に前から順番に8人ずつに分けたら良いのでは無いでしょうか」
俺はいかにも自然に言ったのだ。
決まったと俺は思った。

「何を言っている。それなら、横に8人ずつ一組にすればいいのではないですか?」
ブラッドが余計な事を言ってくれた。

何だと! そうすればブラッドとパティは同じ班だが、俺はマチルダと同じ班になってしまう。それだけは絶対に嫌だ。

「何言っている、ブラッド、縦に順番に分けるのが良いに決まっているだろう」
「いや、横に分けるのが良いと思うぞ」
俺たちは二人でにらみ合ったのだ。

「先生。せっかくの遠足の班決めです。私は出来たら皆と仲良くしたいです」
そこへ、マチルダが、さりげなく言い出したが、絶対に何か企んでいる。こいつは仲良くとは正反対の位置にいるのだ。帝国では全ての争いのもととか噂されている。

いつも問題を起こしているやつが何を言い出すんだ。俺はマチルダを睨んだが、マチルダはびくともしなかった。

「私はこの前喧嘩して、先生に罰を受けた皆で班を作って回りたいです」
でも、マチルダは一見していかにもまともなことを言ってくれるんだけど。
何か変だ。

「そんなの嫌です」
確かローズ嬢の取り巻きの一人のオードリーが勇気ある発言をした。良く言った。俺は思わず拍手しそうになった。

「ああああら、先生の、学園に在学する間は身分の上下関係無く親しくするという、ご意見にあなたは反対なさるというのですね」
笑って言う、そのマチルダの発言にギロリとストラシー先生が黒縁メガネの奥を光らせた。
これはまずい。絶対にマチルダの意見が通りそうだ。

「いえ、そうとは申しませんが……」
いや、そこはもっと逆らえよ!

その横にさり気なくマチルダは近づくと
何かささやいたのだ。マチルダめ、絶対にこの女の何か弱みを握ったんだ。
俺は呆然とした。

「すみません。先生。マチルダさんの意見に賛成します」

そんな馬鹿な。
オードリーの突然の豹変で、そのままマチルダの意見が通ってしまった。

マチルダの班は女ばかりになってしまった。それでなくても女の子は少ないのに。
俺の入る隙間もなかった。

俺はマチルダとは一緒の班にはなりたくはない。でも、そこにはパティがいるのだ。

本当にマチルダは余計なことをしてくれた。

結局、俺とブラッドは痛み分けで一緒の班にすることにした。ローズら高位貴族の女どもを入れてカムフラージュすることにしたのだ。

そして、パティを守ることにした。

男だけだとマチルダの班に付いて行ったらストーカーとか言われかねないが、女が一緒にいるから問題はないだろう!

俺たちはマチルダからパティを守ることにしたのだ。

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