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第五部 小国フィーアネンの試練編

アド視点1 婚約者の母親に婚約者が5歳でやったという魔の森の試練をさせられました

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俺はアドルフ・エルグラン、このエルグラン王国の第一王子だ。
そして、俺の婚約者がフランソワーズ・ルブラン、我が国の武のルブラン公爵家の長女だ。

そして、彼女は武の公爵家の血をしっかりと受け継いでいた。
というか、彼女の母は世界最大国家の帝国の皇都に攻め込んで、かの皇帝に土下座をさせた女として世界的に有名になった破壊の魔女だ。元々ルブラン公爵家は武の名門で今の当主の剣技は我が国では剣聖と並んで二大双璧と呼ばれるほどなのに、それにプラスして、魔術師の頂点の母の血も引き継いでいるのだ。将来的には世界最強の戦士、騎士、魔術師になるのは確実だった。

でも、俺は彼女が世界最強だから惚れたわけではない。

確かに彼女は強引なところはある。俺の婚約者選定のお茶会で、いきなり俺を連れ出したのには驚いた。そこまで強引に俺に迫ってくるのかと警戒したら、せっかく王宮に来たのだから王宮の屋上に上りたいと言い出したのだ。まあ、6歳の女の子だ。多少の我儘は仕方があるまいと7歳の俺もそう思って連れて上がったら、その屋上で目を輝かせて、
「うわあ、凄い!」
大喜びしたのだ。まだまだおこちゃまだ。

「あれは何?」
「あれは大聖堂だ」
「上から見たらめちゃくちゃキレイね。中は退屈だけど」
「そうだよな。大司教の話は退屈だよな」
「本当よね。じゃああの川は?」
「あれはエルグラン川だ」
「あの向こうに見えている山は」
「エルグラン山だ」
「じゃああれは?」
次から次に質問してきたのだ。
屋上を散々歩き回らせられて説明させられたのだった。

でも、キラキラ目を輝かせて話す姿はとても可愛かった。

結局お茶会では他の女の子とはほとんど話せずに俺は時間の大半を王太子の前でもかしこまらないフランに決まってしまったのだ。

後で母には愚痴愚痴怒られたが。
「じゃあグレースの方が良かったのですか?」
と一言聞くと黙ってしまった。

この日は公爵家の令嬢は二人いたが、もう一人のラクロワ家のグレースの母と我が家の母は犬猿の仲なのだ。
そんなフランとの仲は王太子教育と王太子妃教育を一緒にしていくうちに戦友みたいな感じで培われてきたのだ。

最近はフランばかり目立ってきて俺としても忸怩たる物はあったが、男はドンと構えているものなのだ。

しかし、あの、フランのペットのギャオギャオは本当にムカつく。
俺を足蹴にしてくれて、怪我を負わせてくれたのだ。

俺の怪我は弟が連れてきた聖女が治してくれたそうだ。弟と聖女の組み合わせというのも今ひとつ俺には良く理解できないが。まあ、弟が、フランとの仲を邪魔してくれないに越したことはない。

そして、やっと歩けるようになった俺は、そこで初めてフランがまた礼儀作法マナーの補講を受けさせられているのを知ったのだ。

「母上! フランにいつまで礼儀作法の補講を受けさせるつもりなのです」
俺は即座に母の所に文句を言いに行ったのだ。まあ、フランが俺をほってクラスの面々と遊び回るのは俺もムカつくから、母の行動を容認していた面もあるが、それでもやり過ぎだ。
あまりフランのストレスを貯めさせると被害は全て俺に来るのだ。

「いや、でも、アドルフ。あの子のペットのせいであなたが怪我を負ったのよ。フランの管理が悪いのでは無くて」
「あれは私の責任です。フランは関係ありません。
それに、それと礼儀作法は全く関係ないでしょ。おばあさまもフランの礼儀作法は完璧だとおっしゃっていらっしゃったんだからいい加減にして下さい」
俺の文句に母は渋々、フランを開放してくれることになったのだ。
これでフランの俺に対する印象は良くなると喜んだのも束の間だった。

フランが行方不明になったというのだ。

フランの母によってどこかに転移させられたと言うではないか。

俺は慌ててフランの行方を聞きにフランの領地まで行ったのだ。側近共を連れて。
3日3晩駆け通しで着いた俺たちはフラフラだった。


「ああら、これはアドルフ殿下。何をしにいらっしゃったのですか?」
フランの母はご機嫌斜めだった。

「これは公爵夫人。フランの行方が知りたくてお邪魔させて頂いたのだが」
俺は下手に出た。俺と言えども破壊の魔女を怒らせるのは不味いのだ。

「何故、殿下に娘の居場所を教えなくてはならないのですか?」
「いや、公爵夫人。私はフランの婚約者で」
「でも、娘の婚約者様は娘をほったらかしにして、なんでも娘の嫌いな礼儀作法の補講をずうーーーーっと受けさせられているとか。私は娘がとても可哀想に思いましたの。何しろ、王家から婚約のお話を頂いた時に、フランには王宮ならいろんなごちそうが食べられるわよと言って送り出してしまった手前、娘にはとても悪いことをしたと反省しているんです」
夫人はとてもすまなさそうに言ってくれるのだが、絶対にそうは思っていないはずだ。

「いや、公爵夫人。それはやりすぎだと私としては止めさせてだな」
「フランは武のルブラン家の長女。剣術や魔術は得意だと思いますが、礼儀作法マナーは最低限のことしか教えておりません。確か王家はそれでも良いとおっしゃったと思っていたのですが」
公爵夫人の機嫌とても悪い。だから母にはあまりやるなと言っていたのに。

「いや、公爵夫人。これは確かにやりすぎだと母にも注意した所だ。今後はそういうことは」
「いえ、殿下。何故か最近フランを嫁に欲しいと世界各国から釣り書が届くようになりまして」
公爵夫人の机の上に釣り書が山積みになっている。
俺は肝が冷えた。
帝国のマークが入っているものもチラホラ見える。

「それに最近、いろんな貴族から聞きますの。フランが殿下に対して酷いことをしているから殿下を開放してあげて欲しいと」
公爵夫人は笑って言ってくれるんだけど。

「いや、公爵夫人。今はフランは俺の婚約者だ」
「でも、殿下を虐めていると」
「いや、決してそんなことはないと」
「でも、私としては周りの貴族の方々からそう言うことを言われると傷つきますし」
夫人が涙目になって言ってくれるんだが、絶対に夫人が傷つくなんてあり得ない。

「いや、公爵夫人。そのようなことは言わせないし、今後はフランに礼儀作法を厳しくすることはさせない」
「まあ、そう言われましても、別にフランを殿下の婚約者にと私どもが望んだわけではありませんし、夫も未だに反対しておりまして、王家のなさりようはあんまりでございますし、ここは婚約解消も」
「いや、ちょっと待ってくれ。公爵夫人、俺は絶対にフランとは解消しないから」
俺は言い切った。フランの行方を聞くのに何故、婚約破棄になるのだ。

「でも、周りの貴族の方々が煩いですし、最近は我が騎士団からも不満が出ておりまして」
「な、どんな不満が出ているのだ」
俺が不安になって聞くと

「殿下が弱すぎると」
「いや、ちょっと待て、それはフランには確かに敵わない面もあるが、俺も必死に訓練している」
「そこでございます。騎士団の不満も結構貯まっておりまして、押さえるのが大変でございます。それを押さえるのは並大抵ではございません」
「どうすれば良いのだ」
俺は仕方無しに夫人に聞いた。絶対に碌でも無いことだ。

「なあに簡単なことでございます。我がルブラン家には5歳の時に試練を受けて一人前になるのです。フランも、5歳の時に受けました」
「それはフランから聞いている」
俺は頷いた。
「ならば、ご理解たまわれるでしょう。殿下にもぜひともそれを受けて頂きたいのです。その試練に耐えられれば我が領地でも一人前。騎士団の不満は私が押さえて見せますわ」
ニコリと破壊の魔女が笑ってくれた。
「しかし、その試練は結構大変だと聞いているが」
「えっ、まさか、殿下は5歳のフランよりも弱いと申されるのですか」
「いや、そうは言っていない」
俺は慌てて否定した。フランが5歳でクリアできたのだ。今の俺が出来ない訳はなかろう。
「分かった受けよう」
私は軽はずみにもそう言ってしまったのだ。

フランが5歳の時に受けているならば、17の自分なら大丈夫だろうと思ってしまったのだ。
本当に馬鹿だった。

その試練に直面した時、俺は受けたことをとても後悔することになるのだ。



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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
続きは明朝です。
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