上 下
102 / 309
第三部 ルートン王国交換留学編

海賊退治を餌に迫ってきた王太子を避けていたら、密談を聞いてしまいました

しおりを挟む
でも、楽しかったのはそこまでだ。基本は今日は社交だ。婚約者といつまでも踊っている訳にはいかない。
「フラン、お前を他の男に預けたくない」
「何言っているのよ。高々ダンスで」
嫌がるアドを無理やり、シルビアに任せて、私は王太子と踊る羽目になったのだ。

「しかし、フランソワーズ嬢は本当に素晴らしいね」
踊りだすと王太子が海賊退治のことを褒めてきた。
「まあ、殿下はそんな事を言われて、本当は淑女はそんな事しないのにとか思っておられるんでしょう?」
「まさか、俺は本当に君を尊敬するよ。出来たらこの国に欲しいくらいだ」
「そう言っていただけると幸いですわ」
私が営業用の笑みで微笑み返すと、
「実は海賊対策の件は本当に頭が痛くてね。君の助けを借りられたらとても嬉しいんだが」
どこまで本気か、王太子は私の瞳を見ながら言って来た。

「おい、女たらしの王太子、フランに近付くな」
遠くからアドがなにか叫んでいるが、王太子は全く無視して、アドから離れるように踊っていく。

「でも、騎士の皆さんは船に慣れていらっしゃるから、まだ、私の騎士達よりも戦力になるでしょう」
「君の言っているのはダミアンのことだろう。彼は特別なんだ。家は代々我が国の海軍を率いているし」
「そうなんですね」
「その彼でも君の活躍には全然追いついていなかっただろう」
「まあ、私も特別ですから」
私は微笑んで誤魔化した。王都の反乱を未然に防いだし、帝国教の陰謀も1人でぶっ潰したし。

「だから、そんな特別な君にぜひとも手を貸して欲しいんだが」
王太子は私の瞳を熱く見つめてくるんだけど。アドには到底敵わないが、それでも見目麗しいイケメンに見つめられると私も赤くなる。
私が、答えようとした時だ。

「はい、時間切れです」
「えっ、いやちよっと」
なにか言っている王太子を無視して、強引に入ってきたヴァンによって、次の踊りに連れ出されてしまった。

「義姉上、王太子に心を許したら駄目だよ。兄上も煩いし」
ヴァンが注意してくるんだけど、

「別に気を許していないわよ。海賊退治を手伝った欲しいって頼まれただけよ」
「それを気を許すっていうんだよ。どのみち義姉上のことだから、もう一度暴れられるなら暴れたいって思ったでしょ」
「いや、そんなことはないわよ」
私はそう言って否定したが、ヴァンの言う通りだった。私の欲求不満の解消になって人々のためになるのならばそれで良いのではないかとは思った。
しかし、ここは、絶対にヴァンに頷いてはいけないのだ。

「目が明後日の方見てますよ。手伝う気満々だったでしょ」
「まあ、どうしてもって言われたら」
私は仕方なくうなずく。
「姉上。姉上がやったら洒落にならないでしょ。海賊団の5つや6つ、すぐに壊滅させちゃって、今度はその親玉と世間では見られているアルメリア王国と戦争になってしまうよ。このあたりで止めておかないと。そんな事になったらフェリシー先生のお小言だけでは終わらないからね」
そうだった。私がやると絶対にそうなるだろう。

戦争は良くない!

「そうね。その点が心配だから大人しくしているわ」
私は自重しようと思って私は頷いた。
「最も、もうすでにアルメニアに目をつけられているけど」
私は王太子の話をどうやって断ろうか考えていてヴァンがなんか言ったことをよく聞いていなかった。

それからジェドとは踊らされるし、チェルバ公爵と踊って息子の嫁に来いと再度誘われてアドとシルビアが切れてくるし、なかなか大変だった。

後から後から誘いに来る男性陣にいい加減に疲れたてきた。
他のクラスの貴族の連中と今後のクラス対抗戦で勝つためにもっと情報交換しておきたかったのだけど、学園に帰ってからでいいだろう。

外交の件でアドが外務卿に捕まった隙に、群がる男性陣を避けて私は中庭に出たのだ。一息つきたかったのだ。

しかし、外にも結構な人がいる。顔をうつむき加減に隠して人のいないところを探して歩いていくと、向こうからキョロキョロ誰かを探しているような王太子を見つけた。

まずい。今捕まったらまた、海賊討伐頼まれそうだ。でも、今の私の最優先課題は王立学園のクラス対抗戦で勝つことで、この学園の留学を楽しくすごすことなのだ。たしかに海賊の討伐は大切だが、ヴァンの言うようにそれはルートン王国の仕事で私がやることではない。下手したらエルグランを巻き込みかねないし・・・・。

私は慌てて木陰に隠れた。

そこには誰もいなかった。ホッとしていると

「義姉上、こんな所で油売っていたんだ」
入ってきたヴァンが飲み物を差し出してくれた。
オレンジジュースだ。喉の渇いていた私はありがたくそれを飲ませてもらった。

「しかし、エルグラン以上に皆積極的だね」
本当にそうだ。学園では貴族と平民がいるからかまだそこまで積極的ではないが、ここでは皆積極的に絡んでくるというか、ナンパしてくる。大人になったら皆変わるのか、それとも私が平民と仲良くしているので、躊躇しているのかそこまで皆迫ってこないんだけど。
踊るたびにデートに誘われたりするんだけど、果ては静かなところで話そうと誘われるし、断るのも一苦労だった。最も傍のアドの怖い視線にみんな慌てて私から離れて行ったけれど・・・・


まあ、私が最初に騎士団長の息子をのしてしまって、怖れられているからなんだろうか。

「まあ、学園の義姉上の周りはオーレリアンらが護衛しているからね」
「ああ、それで皆、声かけてこれないのか」
でも、それじゃ親しくなれないじゃない!

私が少しムッとした時だ。

「しっ」
ヴァンが自分の唇に人差し指を充てて、私を制した。
木陰から反対側を窺っている。

私もその上からそうっと除いてみると男二人が話していた。
男女がキスでもしているかと期待して見たのに、男二人で何しているんだろう。
コソコソ話している。

こいつらゲイなの?

「我等の手はの者は騎士団にもある程度浸透しています」
「言うことを聞かない場合は襲撃してもなんとかなりそうか?」
暗くて誰かは判らないが、1人は聞いたことがある声だ。

「さあ、まだそこまではなんとも言えませんが、その時は我らも力をお貸ししましょう」
「問題はあのターザン女だな」
えっ、それってひょっとして私? でも何で今世でターザンって知っているんだろう? そうか、ターザンってサルの種類か何かだったっけ? 

私は更に詳しく聞こうとして身を乗り出した時だ。


「お前ら何をしている!」
後ろから怒っているアドの大きな声が響いたんだけど。

私は慌てて後ろを振り向こうとして、態勢を崩してヴァンを押し倒してしまったのだった。

怒り狂ったアドの前で、男を押し倒した痴女になってしまったのだ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~

五月ふう
恋愛
ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。 「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」  ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。 「……子供をどこに隠した?!」  質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。  「教えてあげない。」  その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。 (もう……限界ね)  セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。  「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」    「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」    「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」  「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」  セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。  「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」  広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。  (ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)  セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。  「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」  魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。  (ああ……ついに終わるのね……。)  ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。  「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」  彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。  

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。