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第三部 ルートン王国交換留学編

王宮舞踏会でデビューして最初はアドと踊りました

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あんな恥ずかしい映像を皆に見られて、もう私のプライドはズタズタだった。

「フラン、凄いじゃない。あなたあんなに強かったのね。でもあの『ああああああ!』は何なの?」
横にいたシルビアに言われたんだけど。

前世の映画かアニメを真似たのだとは決して言えなかった。
こんな映像に記録されるのならもっとかっこよくやれば良かった・・・・

「いや、あれは凄いぞ」
隣のこの国の王太子が言ってくれるんだけど。

「フランは凄いのは判ったけれど、あの雄叫びは狂人の叫びじゃない?」
「まあ、元々フランはそのきらいがありますから」
「いつも戦う時は叫んでいますよ」
シルビアの疑問にグレースとピンク頭が好きに答えてくれている。

「だから、すぐに海賊船を一撃で燃やせば良いって言ったのに!」
いつの間に来ていたのかヴァンがボソリと言ってくれた。

「だって、記録されているなんて思ってもいなかったのよ。今度から反撃した後は必ず燃やすわ」
「フラン、それはそれで問題になるんじゃないか」
私を抱きしめていたアドがぼそりと言ってくれた。

うーん、まあ、そうかもしれないが。



その後歓談の時間となったが、本来は私達からみんなの方にあいさつ回りをしなければいけないのに、今日は主賓だからとその場に留め置かれたのだ。
そして王族の隣で、貴族たちの挨拶を受けた。

留学が決まってからルートン王国の貴族の顔と名前を出来る限りは頭に叩き込んだけれど、全てではない。まあ、その点は記憶お化けのアドに任せておけば良いと思っていたのだけれど。

「フランソワーズ嬢。クリストバル・チェルバです。大きくなられましたな!」
えっ、チェルバって確か公爵家、
「フランが虐めていたクラウディオのお父様だよ」
横からアドがフォローしてくれた。

「ああ、あのときの髭親爺!」
「フラン!」
「ああ、すみません!」
私はアドの声に慌てて謝った。

「いやいや、構わんよ。あの時からお転婆は更にパワーアップしたんだな」
私はその言葉に思い出していた。

エルグランに遊びに来ていたすぐに拗ねる女々しいディオと彼を振り回す破天荒な私を比べて性別が反対になったみたいだなとこの親父に言われて、私はこの親父を思いっきり蹴飛ばした記憶があったのだ。

「あの時の蹴りは本当に痛かったぞ。我が女々しい息子と性別を交換したらどれだけ良いかと思ったくらいだ」
この親父はジェンダーフリーの前世では絶対に生きていけないタイプだ。

「どうだ。今からでもうちの息子の嫁に来んか」
「ちょっと、クリストバル、ディオは私の婚約者よ。何を勝手な事を言っているのよ」
「何を言っているんだ! フランは俺の婚約者だ。コフレンテスには渡しませんよ」
シルビアとアドが怒って言っているんだけど。

「シルビア殿下。殿下のディオで良いというお心は嬉しいですが、こいつは武の名門のチェルバ公爵家の人間とは思えないほど、剣術はだめですぞ」
「別に剣術が全てでは無いでしょう」
赤くなっているディオを掴んでいるシルビアもたまには良いことを言う。私は感心した。

「どっちにしろ、フランは渡しませんから」
私を抱きしめてアドも言い張るんだけど。

「もう、あなたったらいつまで言っているの。両殿下申し訳ありません。この人ったら子供と剣術の稽古をするのが夢だったみたいで、フランソワーズ様を見た時から彼女が自分の娘だったら、自分と稽古できたのにってうるさくて。ルブラン公爵に散々自慢されて、悔しがっていましたから。あなた、後ろに列ができているから行くわよ」
そう言うと、夫人は公爵を連れて行った。
「姉上、お菓子で釣られてはいませんよね」
後ろからジェドが余計な事を言ってきた。そういえば、うちに来たらお菓子は好きなだけやるぞって公爵に言われてそれなら行くって言って後で父に怒られた記憶があったような・・・・

「フラン、王宮に来ればシェフのケーキが食べ放題だぞ」
慌てたアドが言ってきたけれど、確かその時もそう言われてじゃあそうすると言って・・・・。
「アド、その時もそう言われたけれど、王宮でケーキ食べる時っていつもフェリシー先生の礼儀作法の授業になってしまって心行くまで食べられた記憶がないんだけど」
私は白い目で見た。
ケーキにつられて行った先でフェリシー先生の礼儀作法の授業が始まって、手づかみで食べてはいけないだの、ナイフの持ち方が悪いだの、音を立てて食べるな、姿勢が悪い等々、結局、先生を気にして食べた気がしなかった。
「さすが王家。フランを食べ物で釣って授業に入るなんて」
メラニーが余計な事に感心してくれるんだけど、ちゃんと食べられなかった私の身になってよ!


その後も次から次に来る客の多くが私目当てだった。

「これは、フランソワーズ様、お初にお目にかかります。商会を運営しておりますへラルド・コフレンテスと申します」
コフレンテス商会は最近延びてきた商会で、確か爵位は伯爵だ。

「造船工房を営んでいるサセル・カステリアと申します」
こちらは子爵家だったはず。

「フランソワーズ様のご活躍を拝見させて頂きました。しかし、あの雄たけびは凄まじかったですな」
ヘラルドの声に私は赤くなった。これは絶対に馬鹿にしている。目が笑っているし。

「さすが、新しい国のご令嬢は元気が違いますな。うちの娘はお淑やか過ぎてあんな真似は到底務まりませんから」
このカステリアの親父も褒めているようで私を完全に貶している。
まあ、大なり小なりルートン王国の貴族たちは私の活躍を面白がりつつ、自分の娘でなくてホッとしているのだ。

私は少しムッとした。
アドがなにか言い返そうとした時だ。

「義姉上、この度のご活躍、おめでとうございます」
そこに強引にヴァンが入ってきたのだ。

「こちらの方は」
「俺の弟だ」
いきなりの乱入に胡乱な目で伯爵が誰何すると、アドが白い目でヴァンを見た。

「これはシルヴァン殿下。失礼いたしました」
「いやあ、カステリア子爵家のご令嬢は本当に慎ましやかな方ですね。見目麗しい殿方に向かって『このようなところにいても仕方がないから部屋の中で楽しいことをしましょうよ、ファウスト』って言われて使われていない個室に入っていかれましたから」
ヴァンはしらっと爆弾発言をしていた。

「あのバカなんて言う事を」
「失礼、少し所用ができまして」
二人は愛想笑いをすると慌てて私達の前からいなくなった。ファウストって確かヘラルドの息子もそんな名前だったはずだ。

「ヴァン、今のは事実なのか」
「さあ、二人で休憩室に入っていくのは見かけましたから」
アドの問にヴァンが答えているんだけど、楽しい事って何よね・・・・。

さすが南国、男女の仲もおおらかなんだ。

私が関心というか呆れた時だ。いきなり音楽が始まった。

踊りの時間だ。

「さあ、皆の者。今日は祝宴だ。盛大に踊ってくれ」
陛下の掛け声とともに、皆踊りだした。

私はアドにエスコートされて、踊りだす。

基本的に私は運動神経は良い方で、踊りは得意だし、そもそも、アドとは昔から嫌になるほど踊っている。息もぴったりだった。

「フラン、ここは南国だから、皆陽気で、軽い。軽い男についていくなよ」
アドが真面目に言うんだけど。

「アドこそ、私が居ないからって羽目を伸ばさないでよ」
「そんな暇がどこにあるんだよ。今回の訪問のために、どれだけ根詰めて仕事したことか。帰ったらまたたくさん仕事が待っているよ」
「じゃあ、無理に来なければ良いのに」
「お前が気になったから来たんだろう」
「気にしなくていいのに」
と言いつつも嬉しかったのは秘密だ。

アドと踊るワルツは楽しかった。

南国の冬は我が国の初夏と同じくらいの気候で、体をアドに傾けて踊る私達を見る周りの空気も少し生暖かった。
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