上 下
18 / 309
第一部

第一王子視点 好きな婚約者が男を周りに侍らせて喜んでいると聞いてその場に乗り込みました。

しおりを挟む
俺はこのエルグラン王国の第一王子だ。
腹違いで3っつ下の弟がいる。元々弟の母が王妃だったのが、産後の肥立ちが悪くて亡くなって、俺の母が王妃になった経緯があるらしい。
だから、俺と弟の関係は微妙だ。

俺を王太子にしたい母は、俺が6歳の時に1つ下のルブラン公爵家のフランと俺を婚約させた。母は侯爵家の出身だったが、俺が王太子になるために更なる後ろ盾を用意したのだとか。
しかし、どちらかというとルブラン公爵家は落ちこぼれの公爵家で、ラクロワ公爵家のほうが規模も大きくて後ろ盾としては最高だったのだが、母と公爵家の妻が仲が悪くて、ルブラン家の令嬢に決まったそうだ。ルブラン家の当主は温厚で口出しもあまりしないというのも、選出の決め手になったらしいが、6歳の俺にはよく判らなかった。

でも、やって来たフランはその温厚な父と違ってとても我儘だった。見目もよく見ると可愛いのかもしれないが、きつい顔つきだった。わがまま放題に育った俺としては俺に逆らう、初めての同年代の奴だった。

俺にままごとに付き合えだの、女の子は大事にしなければいけないだの、本当に口うるさかった。
最初の頃は無視して、他の側近候補の連中と遊びまくっていた。

しかし、王子としてはいつまでも遊んでいるわけにもいかずに、嫌嫌だが勉強させられようになった。

それも、婚約者のフランとだ。
しかし、1才年上だったせいか、勉強は圧倒的に俺のほうがフランよりも出来た。
フランは悔しがって必死に勉強するのだが、俺の相手にもならなかった。

「教えてやろうか」
と言うと
「良いもん、自分でやるもん」
と口を尖らせて言うさまは可愛かった。俺は初めてフランに対して優越感を感じて嬉しかった。


しかし、魔術の勉強が始まると立場は変わってしまった。ひとつ下の奴がどんどん上達していくのだ。俺はあっという間に抜かれてしまった。

「教えてあげましょうか」
こいつはいつもの仕返しとばかりに尊大な態度で聞いてきやがった。

「自分でやるわ」
1つ下のやつに教えを請うなんて恥ずかしい真似ができるか。

こうして、勉強では俺が勝ち、魔術ではフランが勝つという状況が続いた。

まあ、いけ好かない婚約者だが、俺にとっては一緒にやる戦友って感じには想っていたのだ。
何しろこいつは平気で俺に文句を言ってくる数少ない奴なんだから。



その彼女の誕生日の時だ。俺はいつものように、王宮御用達の店のケーキをフランに贈ったのだ。こいつは食べ物さえ与えておけばご機嫌だったから。

でも、そこに弟が大きなバラの花束を持って現れたのだ。

「義姉上。お誕生日おめでとうございます」
と言って花束を差し出した時のフランの驚いた顔と言ったら無かった。

「ありがとう」
大喜びで花束を受け取ったフランが言ったのだ。

「花束受け取ったのなんて初めて」
満面の笑みを浮かべて言ったのだ。そうか、俺もたまには花束にすれば良かった。
俺は後悔した。

「だって、アドなんて彼岸花しかくれたことは無かったのよ」
「いや、待て、それはお前が欲しいって言ったんじゃないか」
俺が反論する。城の中庭で遊んでいる時に、真っ赤な花が咲いていて、フランがきれいって言うから取って頭に挿してやったのだ。

「その時はきれいだって思ったのよ。でも、婚約者に貰ったのが彼岸花だけなんて恥ずかしくって言えないわよね」
「本当に信じられないですよね」
弟までが私を白い目で見る。

「本当にありがとう、ヴァン」
そう言うとフランは弟を胸に抱きしめたのだった。
いくら弟が10才とは言えそれはまずいんじゃないか。
弟は俺を見ながらフランの胸に顔を擦り寄せやがった。

こいつ、許さん!

俺がきっとして弟を睨むと、
「義姉上、兄上の目が怖いです」
「ちょっとアド、ヴァンに酷い事したら私が許さないからね」
フランがきっとして睨みつけてきた。

いや、ちょっと待て、婚約者でない男を胸に抱くってどうなんだ。俺でさえやったことないのに・・・・。

「兄様は厭らしいですね」
「本当に!」
そう思わず言ったら白い目で二人に見られてしまった。
いや、なんか違うだろう!

中等部に入るとそこは貴族の子弟の巣窟で、どいつもこいつも俺の機嫌を取ってくる。俺に反発する奴なんてどこにもいないのだ。それはそれで鬱陶しかったし、女どもが大挙して俺の周りに寄ってくるのはなんとかしてほしかった。

1年後にフランが入ってきたときはホッとした。
こいつはどこにいても変わらない。俺に平気で意見してくるのだ。
俺はこいつに意見されたいがために、偶にこいつの前で女の子をはべらせてみた。
食って掛かってくるフランもとても可愛いのだ。

でも、中等部では皆の目を気にして、中々フランと一緒にいられなかった。

「殿下、あんまりフランソワーズ嬢を虐めていると、来年入ってくるシルヴァン殿下に取られても知りませんよ」
1年下の母方の親戚で俺の側近のオーレリアンが言ってきた時も無視した。

俺はそれを後悔することになった。

俺が卒業すると弟とフランの弟が一緒に入学してきて、フランにベッタリとくっつくようになっていたのだ。俺には少なくともそう見えた。

二人でフランを取り合っているのだ。まあ、弟目線でしかフランは見ていないのは傍目には判った。実際フランの弟は本当の弟だし。

しかし、フェンス越しに見える隣の学園では良く2人ないし3人で仲良くしているのが見えて俺はおもしろくなかった。

対抗してこっちも女連れでいると、「兄上は女ったらしですから」
嬉しそうに言う弟の声が聞こえて、俺は何しているんだろうと思ってしまった。

俺は高等部にフランが入ったら周りがなんと言おうと絶対に隣りにいさせようと決意したのだ。

その学園入学前にフランが弟と剣の練習していて怪我で気を失ったと聞いた時は慌てて飛んでいった。

怪我自体は大した事はないと言う。

丁度新学年の前で、忙しい時に、隣の帝国の皇女が来訪したりと、もう手が離せなくなって、何回か抜け出して見舞いに行ったのだが、そのたびに弟と側近共に連れ戻されて、結局会えずじまいだった。

俺は婚約者なのに・・・・・

そして、フランはどうした風の吹き回しか、平民クラスに入りたいなんて、学園に頼み込んでいるのだ。
俺は何とか翻意させようとしたが、通じないので、やむを得ず、貴族を何人か強引にそのクラスに放り込んだのだ。でも、フランが自己紹介で彼氏募集中だといったと食堂で食事している時に、フランを守るために同じクラスに入れた女に言われた事に俺はキレた。

俺という婚約者がいるのに、何を言っていると

でも、フランは、「宮廷で倒れたのに、一度も見舞いに来なかった俺なんて婚約者ではない」なんて言ってくれるし、それはないんじゃないか。

でも、まあ、結果的に俺が見舞いに行って会えなかったのは事実なので、そこは皆の前で謝っておいた。

これは効果絶大だったみたいで、頼むから止めてと逆にお願いされてしまった。

陛下の前では、俺たちと違って学園の中では皆平等を実践するために平民とも仲良くなるなんて啖呵切っていたけど、そう簡単にうまくいくはずはない。俺たちは所詮高位貴族で、庶民からしたら別世界の人間なのだ。うまくいくはずはないのだ。

オーレリアンの報告によると、身分が公爵令嬢だとバレて皆に引かれていたらしい。

だから言わんこっちゃないと思った。

まあ、しかし、一人での食事は寂しかろうとオーレリアンを迎えにやったら、今は忙しいから行かないとあっさりと振られてしまった。状況を聞いたら、昨日はクラスの中で引かれていたのに、何故か今日はあっさりひっくり返してうまくやっていると言うではないか。
何故だ。フランの奴、何をしたんだ?
ジャックリーヌ嬢によるとそれも周りを男を侍らせて喜んでいるんだとか。

「殿下。フラン様はほっておきましょうよ」
ローズ嬢の言葉は無視して、俺は憤怒の表情を浮かべて食堂に乗り込んだのだった。

***************************************************************
皆様の応援のお陰で書籍化出来ました。本当にありがとうございました。

また、皆様の熱い応援のお陰で【次にくるライトノベル大賞2023】ノミネートされました。
下にリンク貼っていますので投票まだの方はして頂けたら嬉しいです!

ここまで読んでいたただいてありがとうございます。

続きが読みたいと思われたらお気に入り登録等宜しくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

選択を間違えた男

基本二度寝
恋愛
出席した夜会で、かつての婚約者をみつけた。 向こうは隣の男に話しかけていて此方に気づいてはいない。 「ほら、あそこ。子爵令嬢のあの方、伯爵家の子息との婚約破棄されたっていう」 「あら?でも彼女、今侯爵家の次男と一緒にいらっしゃるけど」 「新たな縁を結ばれたようよ」 後ろにいるご婦人達はひそひそと元婚約者の話をしていた。 話に夢中で、その伯爵家の子息が側にいる事には気づいていないらしい。 「そうなのね。だからかしら」 「ええ、だからじゃないかしら」 「「とてもお美しくなられて」」 そうなのだ。彼女は綺麗になった。 顔の造作が変わったわけではない。 表情が変わったのだ。 自分と婚約していた時とは全く違う。 社交辞令ではない笑みを、惜しみなく連れの男に向けている。 「新しい婚約者の方に愛されているのね」 「女は愛されたら綺麗になると言いますしね?」 「あら、それは実体験を含めた遠回しの惚気なのかしら」 婦人たちの興味は別の話題へ移った。 まだそこに留まっているのは自身だけ。 ー愛されたら…。 自分も彼女を愛していたら結末は違っていたのだろうか。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。