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第4章 15歳の辺境聖女
1 教会にて
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神官長のラファエル・モローは辺境からの魔物出没数の報告書を読みながら大きなため息をついた。横に控えていた神官長付きの神官カミーユ・モローはあまりにも大きい溜息にびくりとした。
「魔物の出没数が去年よりもまたさらに増えている。」
ラファエルは「読みなさい」とカミーユに報告書を渡す。
魔物の出没数というのは結界の外側に現れて結界を攻撃してくる魔物の数を計上したものだ。結界のもろい箇所を的確に見つけて奴らは攻撃をしかけてくる。
穴でも開いてしまえば、大聖女を派遣しなければならない一大事だ。
マルシャローズが”祈りの結界”を張った去年はその前年の10倍にも魔物の数が増えた。今年はそこからさらに増えている。
先日、15歳となったかわいいクリスローズのことを思い出す。クリスローズは様子を確認する意味でも何度かラファエルと会っている。
12歳の頃は心配になるほど細く小さかったが、今は標準体重にまで持ち直している。背はやや小柄だが、許容範囲の小柄だ。元教会侍女であるヤスミンが丁寧にお世話しているため、肌はすべすべで髪はつやつやの美しい公爵令嬢に成長した。そう、美しくなったのだ。
マルシャローズは結界がもろいということを指摘されて不機嫌だった。そこにクリスマス休暇で帰省したクリスローズとばったり出会ってしまうというハプニングがあった。
美しく成長しているクリスローズに対してかなりひどい言葉をはいたらしい。今は異国にいるアリシラローズがマルシャローズスルースキルをクリスローズに与えていなかったら、大いに彼女を傷つけていただろう。
…もちろん、傷ついていないわけではないだろうが。
ルロワ公爵はラファエルの学園時代の同級生でもあり、ラファエルにとってはマルシャローズもクリスローズも娘のようなものだが、神官長の目線で言えば、圧倒的にクリスローズの方が大聖女にふさわしい。
いずれはクリスローズに大聖女に戻ってもらいたいが、気にかかるのは彼女の体調だ。
マルシャローズが祈りの結界を張った年から、目に見えてよく成長したとヤスミンからの報告があったことから、幼い体に祈りの結界を張ることは負担だったのだろう。
マルシャローズの大聖女就任も彼女が16になるまで待ったのだから、クリスローズもせめて16、いや学園の高等部を卒業する18まで待ってやりたい。
クリスローズは学園で友人もできて楽しく過ごしているのだから。
しかし、この報告書を読んでしまうと、早々にクリスローズを呼び戻す結論を神官長として下さねばならないかもしれない。
ー---
そして事件は起きた。夏を迎えて建国祭を終えたちょうど一週間後、火急の知らせとして王都の教会にそれは届いた。
「ルクレツェンとの辺境の結界に穴があきました!!至急、大聖女の派遣を!!」
それはまだ5㎝四方の小さな穴だが、徐々に大きくなっていく可能性がある。辺境聖女の一人が早期に発見してくれたおかげでまだけが人はいないが時間の問題だ。
「私に辺境に行けですって!?いやよ!!」
マルシャローズは指令に対して反抗した。
「マルシャローズ様、祈りの結界に穴が開いた以上、大聖女様に行っていただかなければどうにもなりません。」
「聖女たちに行かせればいいでしょう!?そんな田舎に行くなんていやよ!!」
「聖女たちには祈りの結界の補強はできても、修繕はできません。よくご存じでしょう?大聖女は最も強い力を有しているから大聖女なのです。」
神官長は呆れたような態度を隠さずに、ため息をはいた。マルシャローズの顔が馬鹿にされた屈辱で赤くなる。周りにいる取り巻きの白騎士や侍女たちはあわあわとしている。
侍女はともかく、白騎士がまだマルシャローズの取り巻きをしているということは、時勢が読めていない。白騎士の質の低下は嘆かわしいことだ。
「力の強い聖女を行かせればいいのでしょう?ならクリスローズに行かせなさい!」
ラファエルは正気か、とマルシャローズを見て眉を寄せた。それが何を意味するのか、この困った娘はわかっているのだろうか。
「クリスローズ様はあなたの指示で聖女をやめて聖カリスト学園におられますが、それを呼び戻すということでいいですか?」
「ええ。呼び戻して辺境聖女にして穴の場所に派遣しなさい。」
マルシャローズはさもいいことを思いついたという体ですました顔でラファエルに命じた。貴族学園で美しく成長しているクリスローズに新しいいじめができるとでも思ったのだろう。
しかし、ラファエルにとっては大聖女としての仕事を放棄したことになる。
つまり、マルシャローズをいつでも罷免できるカードを手に入れたのだ。
「検討しましょう。」
マルシャローズが真剣にこのことを考え始める前にラファエルは退室した。
「魔物の出没数が去年よりもまたさらに増えている。」
ラファエルは「読みなさい」とカミーユに報告書を渡す。
魔物の出没数というのは結界の外側に現れて結界を攻撃してくる魔物の数を計上したものだ。結界のもろい箇所を的確に見つけて奴らは攻撃をしかけてくる。
穴でも開いてしまえば、大聖女を派遣しなければならない一大事だ。
マルシャローズが”祈りの結界”を張った去年はその前年の10倍にも魔物の数が増えた。今年はそこからさらに増えている。
先日、15歳となったかわいいクリスローズのことを思い出す。クリスローズは様子を確認する意味でも何度かラファエルと会っている。
12歳の頃は心配になるほど細く小さかったが、今は標準体重にまで持ち直している。背はやや小柄だが、許容範囲の小柄だ。元教会侍女であるヤスミンが丁寧にお世話しているため、肌はすべすべで髪はつやつやの美しい公爵令嬢に成長した。そう、美しくなったのだ。
マルシャローズは結界がもろいということを指摘されて不機嫌だった。そこにクリスマス休暇で帰省したクリスローズとばったり出会ってしまうというハプニングがあった。
美しく成長しているクリスローズに対してかなりひどい言葉をはいたらしい。今は異国にいるアリシラローズがマルシャローズスルースキルをクリスローズに与えていなかったら、大いに彼女を傷つけていただろう。
…もちろん、傷ついていないわけではないだろうが。
ルロワ公爵はラファエルの学園時代の同級生でもあり、ラファエルにとってはマルシャローズもクリスローズも娘のようなものだが、神官長の目線で言えば、圧倒的にクリスローズの方が大聖女にふさわしい。
いずれはクリスローズに大聖女に戻ってもらいたいが、気にかかるのは彼女の体調だ。
マルシャローズが祈りの結界を張った年から、目に見えてよく成長したとヤスミンからの報告があったことから、幼い体に祈りの結界を張ることは負担だったのだろう。
マルシャローズの大聖女就任も彼女が16になるまで待ったのだから、クリスローズもせめて16、いや学園の高等部を卒業する18まで待ってやりたい。
クリスローズは学園で友人もできて楽しく過ごしているのだから。
しかし、この報告書を読んでしまうと、早々にクリスローズを呼び戻す結論を神官長として下さねばならないかもしれない。
ー---
そして事件は起きた。夏を迎えて建国祭を終えたちょうど一週間後、火急の知らせとして王都の教会にそれは届いた。
「ルクレツェンとの辺境の結界に穴があきました!!至急、大聖女の派遣を!!」
それはまだ5㎝四方の小さな穴だが、徐々に大きくなっていく可能性がある。辺境聖女の一人が早期に発見してくれたおかげでまだけが人はいないが時間の問題だ。
「私に辺境に行けですって!?いやよ!!」
マルシャローズは指令に対して反抗した。
「マルシャローズ様、祈りの結界に穴が開いた以上、大聖女様に行っていただかなければどうにもなりません。」
「聖女たちに行かせればいいでしょう!?そんな田舎に行くなんていやよ!!」
「聖女たちには祈りの結界の補強はできても、修繕はできません。よくご存じでしょう?大聖女は最も強い力を有しているから大聖女なのです。」
神官長は呆れたような態度を隠さずに、ため息をはいた。マルシャローズの顔が馬鹿にされた屈辱で赤くなる。周りにいる取り巻きの白騎士や侍女たちはあわあわとしている。
侍女はともかく、白騎士がまだマルシャローズの取り巻きをしているということは、時勢が読めていない。白騎士の質の低下は嘆かわしいことだ。
「力の強い聖女を行かせればいいのでしょう?ならクリスローズに行かせなさい!」
ラファエルは正気か、とマルシャローズを見て眉を寄せた。それが何を意味するのか、この困った娘はわかっているのだろうか。
「クリスローズ様はあなたの指示で聖女をやめて聖カリスト学園におられますが、それを呼び戻すということでいいですか?」
「ええ。呼び戻して辺境聖女にして穴の場所に派遣しなさい。」
マルシャローズはさもいいことを思いついたという体ですました顔でラファエルに命じた。貴族学園で美しく成長しているクリスローズに新しいいじめができるとでも思ったのだろう。
しかし、ラファエルにとっては大聖女としての仕事を放棄したことになる。
つまり、マルシャローズをいつでも罷免できるカードを手に入れたのだ。
「検討しましょう。」
マルシャローズが真剣にこのことを考え始める前にラファエルは退室した。
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