世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき

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第二章 気の早い雪女

5 エリート令息、祠を移設する

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「祠をもう少し登りやすい場所に移設しましょう。」

「移動させることなんてできるんですか?」

「山神様の許可があれば。それと…。」

二乃子は来た道を振り返る。

「祠を運べる程度に雪が止めば、ですが。」

『止ませるわ!!』

雪女は食い気味に二乃子に詰め寄った。大きな雪女の顔の大きさは目算で二乃子の三倍ぐらいあった。

『祠の移設!ぜひにやってちょうだい!もっとたくさん人が来るところに!』



ーーーー



祠は階段を半分ほど登った場所にあった少し開けたところに移設することになった。二乃子は背負っていた荷物から鈴を取り出すと、シャリンと鳴らしながら来た道を下っていく。その後ろを木造の小さな祠を担いでついて行くのは満の仕事だ。

幸いにも鍛えている満にとって、祠は大して重くはなかった。階段の雪も先導する二乃子が溶かしながら降りていくため、運動神経のいい満にとっては苦ではない。
何度か二乃子はつるっと行きそうになり、はらはらしたが。


「さあ!ここですね!」

そこは仁王立ちの熊の像のある所からけもの道に近い階段を登って最初にある開けた場所だ。今は登りにくいが。道を整備すれば村人も来れるようになるだろう。

二乃子は目星をつけた場所に積もっていた雪を溶かし、支柱を立てられるように鈴をしまって杖をどこからともなく手に取って穴を掘り始める。
そんなんじゃ…、と思いきや杖はすいすいと土の下にもぐっていく。何やら術を使ったようだ。思わずジト目で見てしまう。

「満殿、お願いします。」

「わかりました。」

二乃子は再び杖を鈴に持ち替えて、シャリンシャリンと鳴らし続ける。満は祠を立てると穴と支柱の隙間を土で埋めた。
祠が無事に立つと、二乃子は祠の前に膝をついて鈴を鳴らしながら何やら祝詞のようなものを唱え始めた。やがて鈴をシャリンと鳴らして地面に置くと、祠の周辺に結界のようなものがはられてからパチンと消えた。


「終わりましたよ。」

『ありがとう!早速妹に祠の場所が変わったことを伝えなきゃ!』

「それと、熊の毛皮はこちらに。」

毛皮を祠に飾り、持ってきたお供え物を供える。二乃子の隣に並んで二人で手を合わせると雪女は嬉しそうに笑った。

『本当にありがとう!これでまだしばらくはよ!』

満がはっとして顔をあげると、そこにはもう雪女はいなかった。


「本来は信心深い参拝者にしかその姿は視えないのです。私はともかく、満殿にも視えたのは荒ぶっていたからです。その状態が続けば、雪女はやがて自我をなくし、ただ吹雪を引き起こすだけの討伐対象となります。」

二乃子は合わせていた手を下ろして立ち上がる。

「間に合ってよかったです。」

二乃子は満面の笑みで満を振り返った。その笑顔がまぶしい。…火の粉が飛んだ火傷の痕は痛々しいが。



ーーーー



二人は雪が止んだ山道を下山し、宿場町へと帰ってきた。町ではすでに雪が解け始めていて、二乃子に町中の人が感謝の言葉をかけてきた。

「これからは雪が深くない時期は定期的に山神様の祠に行ってあげてくださいね。」

お前が山神様か、というレベルで人々に拝まれながら、二乃子と満は宿屋”つる”に帰ってきた。


「二乃子殿の傷の手当てをしたいので、救急箱をお借りしても?」

宿屋の看板娘が慌てて奥へと向かっていく。二乃子は満にかけた体温調整の結界を解きながらぶすくれている。

「これぐらい大丈夫です。」

「傷から菌が入ることもありますからね。」

雪が止み始めたと言えどまだまだ寒いため、燃え焦げた雪よけの装備を脱ぎながら囲炉裏の前に並んで座った。顔の火傷を見るため、顔を背けて逃げようとする二乃子の顔に両手をあててくいっとこちらを向かせる。そこでふと異変に気付く。


「二乃子殿、顔、冷たすぎじゃありませんか?」

「はい?」

二乃子の手をとると、指先も冷え切っている。満の手とは全く体温が違う。ずっと体温調整の結界が張られていたならばこのように差がつくはずがない。

「もしかして、途中で自分用の結界を解きましたか?」

「…あ!はい。」

二乃子はなんでもないことのように声をあげた。

「祠を移設する前に。」

「…なぜに?」

「…満殿、怒ってますか?」

救急箱を持ってきた看板娘は恐る恐るそれを置いていく。満は無言で粛々と二乃子の顔の怪我を手当てし、箱を閉じる。


「なぜ、術を、解いたんですか?」

そして再び詰問が始まる。

「祠の移設で余裕がなかったのですか?そんなことはないですよね?」

満の知る二乃子ならあの程度は余裕である。もっと大量に術を使っているのを見たことすらある。…最後には血を吐いて生死をさまよったので、満にとってはトラウマではあるが。

「だ、だって、満殿が術を使いすぎると怒るじゃないですか!だから同時展開する術の数を減らそうと思って…!」

「じゃあ、なぜその後でもう一度結界を張らなかったんですか?」

「だって…。」

「忘れてたんですよね?」

「そんなこと…。」

「忘れてたんですよね?」

図星の様子の二乃子に満ははあっとため息をついた。そんな満の様子に二乃子が今度はむっとする。


「何がそんなにダメなんですか?満殿はいつも私に術を使うなと言うじゃないですか。幸い、私は寒さに強いですし、それで術の数が節約できるなら問題ないはずです。」

「『寒さに強い』ではなく『寒さに鈍い』です!体調を崩すことはあるんですから、しっかり防寒はしないと。」

「しっかり防寒具を着たうえで結界をかけたんだから問題ありません。私が結界をかけられなかったらあの格好で出かけていたんですか…くっしゅん!」

二乃子はくしゃみをして口を押さえる。言わんこっちゃない、と満はジト目で二乃子を見た。その顔に二乃子は不満だったようだ。


「その顔!私が山で術を使うたびにしていました!術を使うなって言ったり、使えって言ったり、満殿はわがままです!」

「わが…!俺が?」

「そうです!だって満殿が術を使うなって言わなければ、私は結界を張ったままでした。私があれぐらいの術を平気で使うのを満殿だって知っているじゃないですか。」

確かにその通りであったため、満は押し黙った。その間に看板娘に代わり、宿屋の女将が二乃子に綿のつまった半纏を渡し、熱いお茶を入れている。その間にも二乃子のくしゃみは止まらなかった。ちょっと目も熱っぽくうるんでいる気がする。

「巫女様、今日はもうお休みになられては?風邪は引き始めが大事ですよ。お部屋に火鉢をご用意させますから。ね?」

「…はい。」

二乃子は黙っている満をちらりと不安そうに見た。満は安心させるように、少し弱弱しくなってしまったが、笑って見せた。


「そうですね。二乃子殿、今日のところは休みましょう。」



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