世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき

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第二章 気の早い雪女

4 エリート令息、雪女をプロデュースする

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「力技っていったい何を?」

嫌な予感しかしないが一応聞いておく。

「私の妖術で雪女を焼きます。」

「それは、倒す、ということですか?しかし、倒すのは…。」

「倒しません。火では倒せませんし、気絶させてこの雪を止めます。」

二乃子は自信満々の顔で満の前に出る。

「邪魔になるので一度雪を弾いている結界を解きますね。」

「あ、にの…。」

満が止める前に二乃子はパチンと手を叩いた。すると薄く色づいていた結界が一瞬にして消え去り、突風のような吹雪が襲ってきた。

とっさに満は重心をかがめ、顔をかばった。寒さは防がれていたが吹雪の強さは軽減されず、自慢の足腰でその場に踏ん張ることでなんとか立ち止まった。しかし、数秒後、腰のあたりに引っ張られるような強い衝撃を受けて尻もちをついた。

何事か、とすぐに状況把握のために周囲を見ると、藁の塊が満の左斜め後ろのところに倒れていた。

「に、二乃子殿!」

慌てて吹雪をかいくぐるように藁の塊に駆け寄ると、二乃子がむくりと顔をあげた。

「吹雪が思ったより強くて…。」

風よけになるように二乃子をかばいながら、荒れ狂う吹雪に見えなくなった雪女を振り返る。


「でも、大丈夫です。」

シャリンという音に振り返ると、二乃子は右手に鈴のついた杖を持っていた。これは二乃子が大技を出すときに補助道具として使うものである。二乃子はゆっくりと起き上がり、その場に片膝をつくと、杖をその場に突き立てた。

すると、足元から温かい風が渦巻くように立ち上り、吹雪を相殺していく。やがて雪女の姿も視界に捉えられるようになった。

それを確認し立ち上がった二乃子は杖を構えた。

「満殿は私の後ろから出ないでください!」

二乃子がそう言うと同時に熊の毛皮を被った大男…、と見間違えるほど立派な体躯の雪女の足元から炎の渦が発生し、雪女を取り囲んだ。
炎はみるみるうちに大きくなっていき、やがて天高く伸びる炎柱となった。

「ちょ、二乃子殿、やりすぎ…!」

こちらまで火の粉が飛んできて、二乃子の藁でできた防寒着に燃え移った。

「ああ!ほら!」

慌てて雪を集めて火種に押し付けて鎮火を試みる。しかめっ面の二乃子の顔にも火の粉が飛んできている。

「止めてください!もう十分です!二乃子!」

満の服にも火の粉が燃え移り始めたあたりで二乃子は杖を下した。気づけば吹雪も弱まり、まっすぐに落ちてくるだけの普通の雪になっていた。


「これで大丈夫のはずです。」

二乃子は火傷痕がちらほら見える顔で得意げに満を見下ろした。そして目を丸くする。

「大変!燃えてますよ!だから前に出てきちゃダメだって言ったじゃないですか。」

思わず、すんと真顔になる。二乃子は簡単に満の防寒着の火を消してしまったが、その前に自分の姿を見てもらいたいものだ…。


「燃えてたのはお前だっ!!!!!」

満の大きな声量での叱責に二乃子はびくっと跳ねる。

「顔にまで火の粉が飛んでたんです!」

「す、すみません。」

「下山したらすぐ手当しますからね!とりあえずは…。」

満は雪まで溶けた地面に黒い塊が倒れているのを見た。熊の毛皮を被った雪女である。

「そうですね!」

叱られて萎れていた二乃子がぱっと明るくなり、雪女に駆け寄っていく。「ちょっと、危ないですよ!」と後ろを追いかける。


「山神様、お供え物をお持ちしましたよ。」

二乃子は背負っていた荷を下ろすと中から干し肉や果物を取り出し、気絶している雪女の前に並べ始めた。…たった今、コテンパンにされた相手からお供えされて嬉しいだろうか。

「満殿もお酒を出してください。」

「は、はい。」

山神の好物だという酒瓶をお供え物に並べる。すると、熊の毛皮がピクリと反応して頭らしき部分が持ち上がる。白い髪が毛皮の下から簾のように垂れ下がる。そこで初めて毛皮と髪の間から比較的整った顔が見えた。


「う、山神様、先ほどは失礼いたしました。こちらお供え物です。どうか雪から私たちをお救いください。」


雪がぴたりと止んだ。


『う、美しい…?』

二乃子は冷静に、満は驚いて見守る中、雪女はむくりと起き上がった。顔も手も腕も、体のパーツ一つ一つがとにかく大きいが、やはり整った美しい顔が現れた。

「はい。とても美しいお顔立ちだと思います。ねえ、満殿。」

「は、はい。先ほどは大変失礼いたしました。」


『嬉しいわ…!』

雪女は真っ白な肌をほんのり赤くした。

『みんな私を見るなり、”熊”だの”大男”だのって…。お供え物もどんどんしてくれなくって…。』

「まあ!なんとひどい!きっと皆、山神様の真の姿に気づいていないのです!」

二乃子は少し芝居がかったような口調で雪女をおだてている。


『なぜなのかしら!なぜ、皆気づいてくれないのかしら!』

「え?」

『向こうの山にいる妹は埋もれるほどのお供え物に囲まれているらしいのよ?美しい山神様だって。』

「はあ。」

『どうしてだと思う?』

雪女が期待のまなざしを二乃子に向ける。二乃子は困ったまなざしを満に向ける。雪女もつられて満に期待のまなざしを向ける。

二乃子の顔を見て、はあとため息をついた。


「まず、山神様、そちらの熊の毛皮は常に纏っていらっしゃるのでしょうか?」

『これ?妹からの贈り物よ。祠で飾っていたんですって。』

「…まず、熊の皮をかぶって歩いているから熊と間違えられるのではないでしょうか?妹君と同じように祠に飾られては?」

『祠だと、誰も来てくれないんだもの…。』

「とりあえず、熊の毛皮はこちらに。」

大きな雪女を覆いつくせるほど巨大な熊の毛皮だ。それが歩き回っていれば人々は怖いだろう。


毛皮を脱ぐと雪女らしい白い着物に身を包んだ大きな美しい女性が現れた。

「また、山神様は私たちよりも身体が大きくていらっしゃいます。立ち上がっている状態で巡り合うとお顔が見えず、大男と勘違いされてしまうのではないでしょうか?」

『じゃあ、どうすればいいのかしら?』

「座った状態で皆さんとお会いする必要があるかと思います。なので、祠で座ってお供え物を受け取られては。」

『まあ、そうだったのね!わかったわ!でも…。』

雪女はしょんぼりと下を向いた。

『あなたたちでお供えは20年ぶりよ。もう誰も来てくれないわ…。』


「それは私に任せてください。」

それまで黙っていた二乃子が大きく胸をはって答えた。



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