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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!

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 出社すると皆ギョっとした目で私を見た。
「す、鈴原さん…大丈夫なの? 意識不明の重体って聞いたけど…」
「この通りピンピンしてるわよ!」
「そ、そう…。元気そうで安心したわ…。」

 年配の女性社員は訝し気に私を見た。元の席に戻って、私の方をチラチラ見ながら他の社員とコソコソ話をしている。何か感じ悪くな~い、この会社! ま、そんな事はどうでもいい! 小太り社長を探さなくては!
「ねぇ、社長って、どこいんの?」
私は目の前に座っていた若い男性社員に聞いた。
「社長室じゃ…ないですか?」
「あっそ。サンキュ。」


 その男から社長室の場所を聞くと、私はさっさとこの冴えない部署を後にした。途中、トイレに寄ると、後から女子社員が数名中へ入ってきた。女子社員たちはトイレで用を足すでもなく、立ち話を始めた。
「鈴原さん、何か雰囲気変わったくない?」
「うんうん! 態度デカくなったよね~! 思いっきりタメ口だし! まるで別人!」
「事故って頭おかしくなっちゃったとか?」
「アハハハハ!」

 コイツら…鈴原さんって…もしかして私の事言ってんの? 言いたい事抜かしやがって…。
「なんかさ、前はいかにも私いい子ちゃんですって感じで見ててイライラしたけど、今みたいに真逆になるのもムカつかない?」
「要するに、あの子はどうなっても存在がムカつくのよ! だいたいさ、さっさと辞めるように嫌がる仕事ばっか押し付けてきたのに、あの子それが嫌がらせって事、全く気付いてないのよ! それどころかどうでもいい仕事なのに一生懸命しちゃってさぁ。表の草むしりだって、汗ダラダラ流しながら一生懸命やっちゃってさ、健気な自分を男たちに見せつけたいって訳? てか、逆に私たちのこと悪者にしたいって事?」
「そうそう! いつも媚びててさ、私は清楚で可憐な菜々子です! 意地悪な同僚の妬みにも耐えて頑張ってますって、そう言いたいのよ! バカな社長はまんまと騙されちゃってさ!」
「あざといよね~! マジキモっ! さっさとあの小太りと結婚でもすりゃいいのよ!」

 小太りと呼んでるのは私だけでは無かったか…。しかし菜々子…思いっきり虐められてんな…。でもあの子のことだからそれにさえも気付いて無かったんだろうね…。
「そうよ! 最初から社長夫人の座を狙ってたんだろっつの! でも、私だったらヤダね、あんな奴の嫁になるの!」
「絶対無理! 想像するだけで鳥肌立つわ!」
「さっさとリストラされるといいのよ。どうせ将来は安泰なんだし!」
リストラ? え、ちょっと待って。私、リストラされんの? この私がぁ~!

「ちょっとあんたたち! 黙って聞いてりゃ言いたい事言ってくれるわね!」
私はトイレのドアを叩き割る勢いで開けて彼女たちの前に出た。彼女たちは驚いて顔が引きつっていた。
「す、鈴原さん…いたの…。人が悪い…言ってくれればよかったのに…。」
「あぁぁ? あんた、人の事ボロカス言ってたその口でよく言うよね?」
「ちょ、ちょっと! その言い方は無いでしょ! 確かに言い方は悪かったかもしれないけど、言ってる事はほぼ事実じゃない…。何、いきなりキャラ変してるのよ! 気持ち悪い。」

 女子社員グループの中でも一番若そうな女がいきり立って向かってきた。ふ~ん。この私に歯向かう気? 受けて立ってやろうじゃないの!
「あんたら! 右から順に名前言え!」
「何なのよ、偉そうに…。」
「言えっつってんだろーーーーーーーーーー!」

 私は一番右端の女の耳を引っ張って思いっきり叫んだ。女は私に怯えて半泣き状態だ。
「内海です。」
「大橋です。」
「川田です。」
「三上です。」
「…よし。内海! 大橋! 川田! 三上! おまえらの言ったこと真実だって? そうか…真実なら公開されても文句言えねーよなー!」
私はポケットからケータイを取り出した。
「さっきのお前らの会話、全部録音してある。今から社内放送で流してくるわ。」
「…え?」
「おまえらが私にしたパワハラと、社長の悪口もキッチリ録音してあるから。あ~今日の社内放送、楽しみだわ~!」
「キャアアアアアー! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 許して下さい、鈴原さん!」
「じゃあ、これからは仲良くしましょう! ねっ! 内海さん、大橋さん、川田さん、三上さん!」
私は睨みを利かして奴らに笑顔でそう怒鳴り上げた。私の迫力に恐れをなし、取り乱して泣き叫ぶ女たちを置いて、私はさっさと走り去った。ちなみにさっきの会話を録音なんてしてないけど、こうでも言っておいたら奴らも私に金輪際頭が上がらないだろう。これをネタにアイツらを牛耳ってやる! フッフッフッ…。 ハッ! こんなとこで時間を潰している暇は無い。社長室へ向かわなくては!
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