上 下
165 / 262
5 赤い月が昇る頃、オッドアイの瞳は見つめている。トンネルの向こうに開かれた世界で私を待っているのは誰?

5

しおりを挟む


なんとか私の気持ちを考慮してくれて、試験が終わってから長い夏休みの間、向こうに滞在することで折り合いをつけた。

この年になっても親って娘が心配なのかな…。

地方から来た同級生は、ほとんどが一人暮らしだというのに…。

明日は早朝から両親を送りに成田へ行く。

早めに寝よう。

カーテンを閉めようと窓の方へ行った。

見上げると月が怪しげなくらい美しく輝いていた。

ふと家の前の道路を見て背筋が凍り付いた。

倉田君がこっちを見上げて立っていた。

しばらく金縛りにかかったように動けなかった。

倉田君は微笑んだまま、口元をゆっくりと動かした。

…お…や…す…み…

そして手を振って去って行った。

私は急いでカーテンを閉めた。

怖くなってベッドに横たわって布団を頭まで被せた。

「ニャ~。」

オッドアイの美しい瞳が私を心配そうに見ている。

「本当は真子もパパとママと一緒に行った方がいいよ。」

ルビーは言う。

「だけど、ルビーはどうなるの? あなたを置いてなんて行けるわけないでしょ?」

「心配してくれてありがとう。だけど私は真子が心配だわ。」

ルビーは私の頬に頭を擦り付けた。

そんな事を彼女が言っているような気がした。




……§§§…§……§§…


「もしこの世界とは別の世界が存在していたらどうする?」

ベッドに横たわったまま、蒼は私の頭を撫でながら聞いてきた。

「う~ん…別にどうすることもないかな…。だって、こっちの世界とは関係ないってことでしょ?」

「じゃ、もし俺がそっちの世界で別の女と付き合ってたらどうすんの?」

「…ま、いい気はしないけど。でもそっちの世界だと私たちそもそも付き合ってないんでしょ? だったらヤキモチ焼きようが無くない?」

「俺、絶対やだ! 違う世界でも真子が他の男と付き合うなんて考えたくも無い! あ~、イライラする!」

蒼はそういうと私をギュっと抱きしめた。

「何? 自分が聞いてきといて…。だいたい在りもしない…」

蒼は私の言葉を遮ってキスしてきた。

そして私の上に追いかぶさって長い長いキスをした。

「絶対嫌だ。俺、何があっても、どこにいても、ずっと真子と一緒にいる…」

「…一緒に………」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

桜吹雪と泡沫の君

叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。 慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。 だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。

キスで終わる物語

阿波野治
ライト文芸
国木田陽奈子はふとした偶然から、裕福な家庭の少女・小柳真綾と知り合い、小柳家でメイドとして住み込みで働くことになった。厳格なメイド長の琴音や、無口で無愛想なルームメイトの華菜などに囲まれて、戸惑いながらも新生活を送る。そんなある日、陽奈子は何者かから不可解な悪意を向けられ、その人物との対決を余儀なくされる。

ネットで小説ですか?

のーまじん
ライト文芸
3章 ネット小説でお金儲けは無理だし、雄二郎は仕事始めたし書いてなかったが、 結局、名古屋の旅行は行けてない。 そんな 中、雄二郎が還暦を過ぎていたことが判明する。 記念も込めて小説に再び挑戦しようと考える。 今度は、人気の異世界もので。 しかし、書くとなると、そう簡単でもなく

一条春都の料理帖

藤里 侑
ライト文芸
一条春都の楽しみは、日々の食事である。自分の食べたいものを作り食べることが、彼にとっての幸せであった。時にはありあわせのもので済ませたり、誰かのために料理を作ってみたり。 今日も理想の食事を追い求め、彼の腹は鳴るのだった。 **** いつも読んでいただいてありがとうございます。 とても励みになっています。これからもよろしくお願いします。

落花流水、掬うは散華―歴史に名を残さなかった新選組隊士は、未来から来た少女だった―

ゆーちゃ
ライト文芸
京都旅行中にタイムスリップしてしまった春。 そこで出会ったのは壬生浪士組、のちの新選組だった。 不思議な力のおかげで命拾いはしたものの、行く当てもなければ所持品もない。 あげく剣術経験もないのに隊士にされ、男装して彼らと生活をともにすることに。 現代にいた頃は全く興味もなかったはずが、実際に目にした新選組を、隊士たちを、その歴史から救いたいと思うようになる。 が、春の新選組に関する知識はあまりにも少なく、極端に片寄っていた。 そして、それらを口にすることは―― それでも。 泣いて笑って時に葛藤しながら、己の誠を信じ激動の幕末を新選組とともに生きていく。  * * * * * タイトルは硬いですが、本文は緩いです。 事件等は出来る限り年表に沿い、史実・通説を元に進めていくつもりですが、ストーリー展開上あえて弱い説を採用していたり、勉強不足、都合のよい解釈等をしている場合があります。 どうぞ、フィクションとしてお楽しみ下さい。 この作品は、小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。 「落花流水、掬うは散華 ―閑話集―」も、よろしくお願い致します。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/807996983/195613464 本編では描ききれなかった何でもない日常を、ほのぼの増し増しで書き綴っています。

藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり

Keitetsu003
ライト文芸
 このお話は「風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-」の番外編です。  藤堂正道と伊藤ほのか、その他風紀委員のちょっと役に立つかもしれないトレビア、雑談が展開されます。(ときには恋愛もあり)  *小説内に書かれている内容は作者の個人的意見です。諸説あるもの、勘違いしているものがあっても、ご容赦ください。

凪の始まり

Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。 俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。 先生は、今年で定年になる。 教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。 当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。 でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。 16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。 こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。 今にして思えば…… さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか? 長編、1年間連載。

佰肆拾字のお話

紀之介
ライト文芸
「アルファポリス」への投稿は、945話で停止します。もし続きに興味がある方は、お手数ですが「ノベルアップ+」で御覧ください。m(_ _)m ---------- 140文字以内なお話。(主に会話劇) Twitterコンテンツ用に作ったお話です。 せっかく作ったのに、Twitterだと短期間で誰の目にも触れなくなってしまい 何か勿体ないので、ここに投稿しています。(^_^; 全て 独立した個別のお話なので、何処から読んで頂いても大丈夫!(笑)

処理中です...