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2章 〜ガールミーツガール〜
第10話:白磁高麗
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(4月14日 17時00分)
真白や黒江が五声作霖に呼び出しをくらって生徒会室へいるとき。
つまり、その他の大勢の生徒は下校している時間。
その道路のすぐ下。
学校や近所の生活排水が流れている下水道。
そこには、真っ白い髪で真っ白の肌をした高校生にしては胸部脂肪量が多い白磁高麗が歩いている。
その隣には、無表情でダウナー系の目つきをしているオレンジ髪の小さな少女、苗木蜜柑がいた。
悪臭漂う下水道の中、白磁高麗は鼻を手で押さえており、しかし口呼吸もしたくないように呼吸そのものを控えていた。
一方苗木蜜柑は、嗅覚器官が機能していないかのように平然と歩いている。
「苗木さん……毎回毎回ここ通らないといけないですかぁ? 私そろそろ嫌になって来たんですけど!」
白磁は、教室での苗木蜜柑の呼び方「蜜柑ちゃん」ではなく、業務的な呼び方「苗木さん」に戻していた。
2人には壁がある。
「……。ここ以外の通り道は無い」
表情そのままに苗木は返答した。
白磁は「うへぇ」と言って、肩を落とす。
しかしその落胆からもすぐに復帰して、昼休みの測定結果の確認をとった。
「それで、どうでした? 月詠黒江と本城真白は? 測定していたんでしょう?」
昼食時間に行った『全力腕相撲』の結果を尋ねた。
「……。本城真白の方は戦闘経験値が少ない。性格的にも甘く、レベル6ではあるが私でも簡単に殺せるだろう」
「ふむふむ」
「……。月詠黒江に関しては測定不能だ。数値で測ることが出来なかったため、実戦による測定を行ったが、それでも何も見えない。やつは……底無しだ」
「んー。やっぱそうですよねぇー」
彼女は、黒江の能力レベルが『測定不能』であることを、予め知っていたかのように言う。
『全力腕相撲』で、あの結果になることを初めから分かっていたかのように。
「……。明日はさらに大きく実戦データを取るらしいが、月詠黒江へ当たる渋紙の奴は死ぬんじゃないか? あの男が月詠黒江と戦闘をした場合、私のシュミレーションでは99%以上の確率で死ぬと出ているが、それでも明日は決行するのか?」
苗木の表情は相変わらずだが、声色はどこか弱くなっている。
渋紙という男の生死を案じていた。
「ええ、もちろんそのまま決行しますよ。けど大丈夫です。私に任せてください!」
白磁は目を細め、明日起こる全てを想定して少し目を伏せる。
けれどその表情もケロッと変わり、苗木の方を向いた。
「ってか! 苗木さんって、私や渋紙さんのことを嫌っていませんでしたっけ? 私の勘違いでしたか!?」
白磁は「あれあれ~?」と言った感じの鬱陶しい雰囲気で、撫で声にしながら苗木に尋ねる。
「……。私がお前ら人間を嫌うのは勘違いではない。だが、お前たちが死ねば、常盤様が悲しむだろう。私はそのお姿を見たくない」
苗木は少し視線を下げる。
その声は白磁に向けるキリッとしたものではない。
温かく、自分に近しい者へ向ける声だった。
「あーそうですかー。苗木さんは相変わらず常盤様信者ですねー。ケモミミ好きですかぁ? それともおばあちゃん好きなんですかぁ?」
茶化すように、白磁は常盤様の容姿を揶揄った。
その瞬間、苗木蜜柑は右手の指5本を白磁へ向けた。
その指先には銃弾がセットされている。
今すぐにでも白磁を撃ち殺せるように。
「冗談です!冗談ですよ! 子どもの言ったことをいちいち本気にしないでくださいよ。平和にいきましょ?」
両手をあげて降伏ポーズ。
しかし彼女の語調は本気ではなく、やはりどこか茶化しているようだった。
苗木が本気で撃つことはないと知っている。
苗木はそんな様子の白磁を睨みつけ、舌打ちをして腕を下ろした。
「……。本日は私もお前たちの作戦会議に参加しようか。私も必要なのだろう?」
「おー。本当ですか! 彼女たちもきっと喜びますよ? 全身機械人間の苗木さんに会いたそうにしていましたし!」
「……」
これ以降、苗木は白磁の言葉をガン無視して下水道を歩いていった。
◇◆◇◆
(4月14日 18時30分)
白磁と苗木がやって来たのは、異能者開発島6区。
ホテル系の建物が集合している地区だった。
そこのとあるホテルの一室。
ベッドの近くにあるテーブルランプだけが灯っている部屋。
そこには7人が集結していた。
「……。そいつの言葉通り後5分待ってやったぞ。さっさと起こせ」
苗木蜜柑は、コンマ1秒もズレがない正確な体内時計で、静寂を突き破った。
ここは渋紙が借りている部屋だった。
渋紙感染。
頭には髪の毛が1本も無く、お坊さんのような黒と茶色の袈裟を着ている。
寂しい頭とは正反対の凛々しくキリッとした顔つきの男性。
年齢はまだまだ若く、髪の毛が老化で抜けたのではなく、自ら剃っていることが窺えた。
渋紙は、苗木の声を聞いても起床しない少女を見て、大きくため息をついた。
「やれ」
それは、この部屋にいる少女に向けての言葉。
「おっけーじゃん!」
その少女は、寝ている少女のベッドを思いっきりぶん殴った。
ミシミシと木枠が軋む音を立てて、スプリングが反発する。
すると、その反動でビシャモンは空中へ飛び上がった。
「おわ??」
彼女はそのまま顔面からベッドへダイブした。
「さっさと起きるじゃん!」
この赤みがかかった茶髪の少女・ジコクは、その金髪少女・ビシャモンに声をかけた。
この部屋には白磁高麗《はくじこま》、苗木蜜柑《なえぎみかん》、そして渋紙感染《しぶかみかんせん》以外に、4人の少女がいる。
1人は黒の長髪黒縁メガネで、今のやりとりをおどおどして見ている少女・コウモク。
1人はニット帽を被り、ガムを膨らませながら面倒そうに椅子に座って足をプラプラしている少女・ゾウチョウ。
そして、どこかの王女様と言われても疑わないような金髪少女、今の今まで寝ていて眠そうに目を擦っている少女・ビシャモン。
最後の1人はベッドをとんでもない力でぶん殴った女の子、赤色風味の茶髪で活発そうな少女・ジコク。
この4人は裏社会の何でも屋さん、サンスクール。
白磁ら3人に呼び出され、とある依頼を受けることになっていた。
場面戻ってホテルの一室。
「まだねむ~」
と、ビシャモンはまぶたを閉じ、もう1度睡眠の世界へ旅立とうとしていた。
「起きるじゃん!」
ジコクはそんな状態のビシャモンの肩を揺さぶって、無理やり叩き起こす。
「わぁ、わぁ、わぁ。あたまいた~」
「……。もういいか?」
ジコクとビシャモンの睡眠漫才を見て、そろそろ飽きて来た苗木が声をかける。
(私は何をするためにこんなところへ来たのか……。)
そんな風に考えていた。
「そうですねー」
と白磁は、苗木に続く。
「ビシャモンちゃんが起きないのはヤバイですけどー。彼女には後々個人的に話すことがあるので、寝かせてあげましょうか! その時に一緒に今からの内容も教えてあげますし!」
「……」
苗木は不真面目極まりないビシャモンとそれを容認する白磁を睨んだ。
しかし、その反応を見て見ぬふりをして、白磁は明日の行動を確認する。
サンスクール4人に対して。
「いいですかー? 明日のニネット・バリエール回収作戦なんですけどー」
と白磁は、ディスプレイにニネット・バリエールを映し出す。
金髪碧眼のポニーテールのフランス人。
その横に、真白と黒江の顔写真も表示された。
「この子がリーズショッピングモールに現れてー、高確率で本城真白と接触すると思うのでー、その場合は遠慮なく本城真白をぶっ殺しちゃってください! 月詠黒江の方は、渋紙さんとビシャモンちゃんにおお願いしてますのでー」
白磁は4人にそう言って、真白の顔写真に×印をつける。
「はいはーい。質問っす」
ニット帽を被り、面倒臭そうに風船ガムを膨らませていたゾウチョウが手をあげた。
「その~、本城真白と月詠黒江のことなんすけど……」
「あーそういえば、そうでしたねー」
白磁は人差し指を唇に当てて「んー」と悩んでいるような声を出す。
「序列第10位 レベル6の本城真白にはー、殺しのプロであるサンスクールのコウモクさん、ゾウチョウさん、ジコクさんの3人を当てるわけじゃないですかー。レベル6とは言え、素人ですから問題ないでしょ?」
白磁はニッコリとゾウチョウへ返答した。
しかしゾウチョウの心配はそこではない。
「いや、ウチの言いたいことを先読みしてくれたんでしょうけど、そうじゃないっす。ウチらはプロだし、ジコクかウチなら1人でもターゲットをヤルことはできるっすけど、月詠黒江の方っすよ。非戦闘系のビシャモンと非戦闘系の渋紙さんで大丈夫っすかね?」
ゾウチョウはこっちのグループ3人に、戦闘系の自分と、ジコクが固まってしまったことを考慮していた。
真白に当てられているのは、サンスクールでも戦闘系のゾウチョウとジコク、それに非戦闘系のコウモク。
黒江に当てられているのは、非戦闘系のビシャモンのみ。
明らかにバランスが悪い。
仕事をこなすのであれば、せめて2:2で分けるべきだと考えていた。
「あーそれは心配しないでください。あなた達3人は、月詠黒江からは『絶対に』『何が何でも』『災害級のことが起きても』逃げることだけ覚えていてくれれば問題ないです! プロの殺し屋が平凡な一般人と対峙しちゃったら惨いことになるでしょう? 月詠黒江さんには渋紙さんがなんとかしてくれますので!」
「ん~、そうなんすね……。ま、ランキングのどこにいるかも分からないような奴ですし、ビシャモンでも大丈夫っすかね!」
白磁は「問題ないさ」とでも言いたげに親指を立てる。
「はいー。非戦闘系のビシャモンさんでオールオッケーですよー。3人はベストコンディションで本城真白に備えててくださいね!」
白磁はニコリと3人へ微笑み激励し、この作戦会議は終了した。
―――――――――――――――――――――――――
「……。白磁」
「はいなんですか?」
作戦の確認が終了すると2人はホテルから出て、自分たちが住んでいるマンションの方へ歩いていた。
「……。私の役割は何だ? 先ほどの話の中では一切私に触れていなかったが?」
「あーそうですねー」
と、苗木の名前を出さなかったことを思い出す。
「苗木さんの役割は、私の護衛と渋紙さんの治療ですよ」
苗木の頭には疑問符が浮かぶ。
今までの捕獲の仕事とは、何かが違う。
ニネット・バリエール回収作戦なのに、時間の大半はニネットではなく真白と黒江に関しての話で、対象のことに関しては姿形だけしか説明していない。
「……。白磁高麗の護衛までは分かる。レベル0で、何も持たない無能力者のお前に常盤様が気を使ってくださっているのだろう? だが『渋紙の治療』とは何だ? お前の作戦では渋紙は死なないんじゃないのか?」
非戦闘系の渋紙に、自分の治療が必要なほどの大怪我……。
ありえない!
何かを白磁は隠している。
苗木は自分の神からの贈り物を思い出す。
『人形島登録学生ランキング』的に表現するならば、レベル4 滅私奉狐:細胞を活性化させて回復させる能力。
真白が考えていた形態変化系能力者とは全く関係ない。
苗木は自分の身体を機械に変化させるような能力者ではなかった。
ただ全身が機械なだけ。
その苗木の回復能力を使わないといけない事態が起こる……。
「んー。「死ぬ確率が99%以上」ではないってだけですよ。月詠黒江が残酷で、非情で、昔のままだったら、渋紙さんは一発で死ぬでしょうねー。ですから苗木さんは、渋紙さんが死ななかったときの治療役ですよ」
「……。なんだそれは? 不確定な作戦だな。お前らしくもない。全パターンを頭に入れて、すべてのことを考慮して、先回りして対応するのがお前の流儀ではないのか?」
「ええ、そうですけど。まぁ、しょうがないですよ。私だって偶にはこういうことがありますよ。人間ですもの」
この作戦を見誤ったら渋紙は死んでしまうのに、白磁はどこか嬉しそうに不確定な作戦を語っていた。
苗木は「こいつ大丈夫か?」と思いながら、暗い夜道に消えていった。
真白や黒江が五声作霖に呼び出しをくらって生徒会室へいるとき。
つまり、その他の大勢の生徒は下校している時間。
その道路のすぐ下。
学校や近所の生活排水が流れている下水道。
そこには、真っ白い髪で真っ白の肌をした高校生にしては胸部脂肪量が多い白磁高麗が歩いている。
その隣には、無表情でダウナー系の目つきをしているオレンジ髪の小さな少女、苗木蜜柑がいた。
悪臭漂う下水道の中、白磁高麗は鼻を手で押さえており、しかし口呼吸もしたくないように呼吸そのものを控えていた。
一方苗木蜜柑は、嗅覚器官が機能していないかのように平然と歩いている。
「苗木さん……毎回毎回ここ通らないといけないですかぁ? 私そろそろ嫌になって来たんですけど!」
白磁は、教室での苗木蜜柑の呼び方「蜜柑ちゃん」ではなく、業務的な呼び方「苗木さん」に戻していた。
2人には壁がある。
「……。ここ以外の通り道は無い」
表情そのままに苗木は返答した。
白磁は「うへぇ」と言って、肩を落とす。
しかしその落胆からもすぐに復帰して、昼休みの測定結果の確認をとった。
「それで、どうでした? 月詠黒江と本城真白は? 測定していたんでしょう?」
昼食時間に行った『全力腕相撲』の結果を尋ねた。
「……。本城真白の方は戦闘経験値が少ない。性格的にも甘く、レベル6ではあるが私でも簡単に殺せるだろう」
「ふむふむ」
「……。月詠黒江に関しては測定不能だ。数値で測ることが出来なかったため、実戦による測定を行ったが、それでも何も見えない。やつは……底無しだ」
「んー。やっぱそうですよねぇー」
彼女は、黒江の能力レベルが『測定不能』であることを、予め知っていたかのように言う。
『全力腕相撲』で、あの結果になることを初めから分かっていたかのように。
「……。明日はさらに大きく実戦データを取るらしいが、月詠黒江へ当たる渋紙の奴は死ぬんじゃないか? あの男が月詠黒江と戦闘をした場合、私のシュミレーションでは99%以上の確率で死ぬと出ているが、それでも明日は決行するのか?」
苗木の表情は相変わらずだが、声色はどこか弱くなっている。
渋紙という男の生死を案じていた。
「ええ、もちろんそのまま決行しますよ。けど大丈夫です。私に任せてください!」
白磁は目を細め、明日起こる全てを想定して少し目を伏せる。
けれどその表情もケロッと変わり、苗木の方を向いた。
「ってか! 苗木さんって、私や渋紙さんのことを嫌っていませんでしたっけ? 私の勘違いでしたか!?」
白磁は「あれあれ~?」と言った感じの鬱陶しい雰囲気で、撫で声にしながら苗木に尋ねる。
「……。私がお前ら人間を嫌うのは勘違いではない。だが、お前たちが死ねば、常盤様が悲しむだろう。私はそのお姿を見たくない」
苗木は少し視線を下げる。
その声は白磁に向けるキリッとしたものではない。
温かく、自分に近しい者へ向ける声だった。
「あーそうですかー。苗木さんは相変わらず常盤様信者ですねー。ケモミミ好きですかぁ? それともおばあちゃん好きなんですかぁ?」
茶化すように、白磁は常盤様の容姿を揶揄った。
その瞬間、苗木蜜柑は右手の指5本を白磁へ向けた。
その指先には銃弾がセットされている。
今すぐにでも白磁を撃ち殺せるように。
「冗談です!冗談ですよ! 子どもの言ったことをいちいち本気にしないでくださいよ。平和にいきましょ?」
両手をあげて降伏ポーズ。
しかし彼女の語調は本気ではなく、やはりどこか茶化しているようだった。
苗木が本気で撃つことはないと知っている。
苗木はそんな様子の白磁を睨みつけ、舌打ちをして腕を下ろした。
「……。本日は私もお前たちの作戦会議に参加しようか。私も必要なのだろう?」
「おー。本当ですか! 彼女たちもきっと喜びますよ? 全身機械人間の苗木さんに会いたそうにしていましたし!」
「……」
これ以降、苗木は白磁の言葉をガン無視して下水道を歩いていった。
◇◆◇◆
(4月14日 18時30分)
白磁と苗木がやって来たのは、異能者開発島6区。
ホテル系の建物が集合している地区だった。
そこのとあるホテルの一室。
ベッドの近くにあるテーブルランプだけが灯っている部屋。
そこには7人が集結していた。
「……。そいつの言葉通り後5分待ってやったぞ。さっさと起こせ」
苗木蜜柑は、コンマ1秒もズレがない正確な体内時計で、静寂を突き破った。
ここは渋紙が借りている部屋だった。
渋紙感染。
頭には髪の毛が1本も無く、お坊さんのような黒と茶色の袈裟を着ている。
寂しい頭とは正反対の凛々しくキリッとした顔つきの男性。
年齢はまだまだ若く、髪の毛が老化で抜けたのではなく、自ら剃っていることが窺えた。
渋紙は、苗木の声を聞いても起床しない少女を見て、大きくため息をついた。
「やれ」
それは、この部屋にいる少女に向けての言葉。
「おっけーじゃん!」
その少女は、寝ている少女のベッドを思いっきりぶん殴った。
ミシミシと木枠が軋む音を立てて、スプリングが反発する。
すると、その反動でビシャモンは空中へ飛び上がった。
「おわ??」
彼女はそのまま顔面からベッドへダイブした。
「さっさと起きるじゃん!」
この赤みがかかった茶髪の少女・ジコクは、その金髪少女・ビシャモンに声をかけた。
この部屋には白磁高麗《はくじこま》、苗木蜜柑《なえぎみかん》、そして渋紙感染《しぶかみかんせん》以外に、4人の少女がいる。
1人は黒の長髪黒縁メガネで、今のやりとりをおどおどして見ている少女・コウモク。
1人はニット帽を被り、ガムを膨らませながら面倒そうに椅子に座って足をプラプラしている少女・ゾウチョウ。
そして、どこかの王女様と言われても疑わないような金髪少女、今の今まで寝ていて眠そうに目を擦っている少女・ビシャモン。
最後の1人はベッドをとんでもない力でぶん殴った女の子、赤色風味の茶髪で活発そうな少女・ジコク。
この4人は裏社会の何でも屋さん、サンスクール。
白磁ら3人に呼び出され、とある依頼を受けることになっていた。
場面戻ってホテルの一室。
「まだねむ~」
と、ビシャモンはまぶたを閉じ、もう1度睡眠の世界へ旅立とうとしていた。
「起きるじゃん!」
ジコクはそんな状態のビシャモンの肩を揺さぶって、無理やり叩き起こす。
「わぁ、わぁ、わぁ。あたまいた~」
「……。もういいか?」
ジコクとビシャモンの睡眠漫才を見て、そろそろ飽きて来た苗木が声をかける。
(私は何をするためにこんなところへ来たのか……。)
そんな風に考えていた。
「そうですねー」
と白磁は、苗木に続く。
「ビシャモンちゃんが起きないのはヤバイですけどー。彼女には後々個人的に話すことがあるので、寝かせてあげましょうか! その時に一緒に今からの内容も教えてあげますし!」
「……」
苗木は不真面目極まりないビシャモンとそれを容認する白磁を睨んだ。
しかし、その反応を見て見ぬふりをして、白磁は明日の行動を確認する。
サンスクール4人に対して。
「いいですかー? 明日のニネット・バリエール回収作戦なんですけどー」
と白磁は、ディスプレイにニネット・バリエールを映し出す。
金髪碧眼のポニーテールのフランス人。
その横に、真白と黒江の顔写真も表示された。
「この子がリーズショッピングモールに現れてー、高確率で本城真白と接触すると思うのでー、その場合は遠慮なく本城真白をぶっ殺しちゃってください! 月詠黒江の方は、渋紙さんとビシャモンちゃんにおお願いしてますのでー」
白磁は4人にそう言って、真白の顔写真に×印をつける。
「はいはーい。質問っす」
ニット帽を被り、面倒臭そうに風船ガムを膨らませていたゾウチョウが手をあげた。
「その~、本城真白と月詠黒江のことなんすけど……」
「あーそういえば、そうでしたねー」
白磁は人差し指を唇に当てて「んー」と悩んでいるような声を出す。
「序列第10位 レベル6の本城真白にはー、殺しのプロであるサンスクールのコウモクさん、ゾウチョウさん、ジコクさんの3人を当てるわけじゃないですかー。レベル6とは言え、素人ですから問題ないでしょ?」
白磁はニッコリとゾウチョウへ返答した。
しかしゾウチョウの心配はそこではない。
「いや、ウチの言いたいことを先読みしてくれたんでしょうけど、そうじゃないっす。ウチらはプロだし、ジコクかウチなら1人でもターゲットをヤルことはできるっすけど、月詠黒江の方っすよ。非戦闘系のビシャモンと非戦闘系の渋紙さんで大丈夫っすかね?」
ゾウチョウはこっちのグループ3人に、戦闘系の自分と、ジコクが固まってしまったことを考慮していた。
真白に当てられているのは、サンスクールでも戦闘系のゾウチョウとジコク、それに非戦闘系のコウモク。
黒江に当てられているのは、非戦闘系のビシャモンのみ。
明らかにバランスが悪い。
仕事をこなすのであれば、せめて2:2で分けるべきだと考えていた。
「あーそれは心配しないでください。あなた達3人は、月詠黒江からは『絶対に』『何が何でも』『災害級のことが起きても』逃げることだけ覚えていてくれれば問題ないです! プロの殺し屋が平凡な一般人と対峙しちゃったら惨いことになるでしょう? 月詠黒江さんには渋紙さんがなんとかしてくれますので!」
「ん~、そうなんすね……。ま、ランキングのどこにいるかも分からないような奴ですし、ビシャモンでも大丈夫っすかね!」
白磁は「問題ないさ」とでも言いたげに親指を立てる。
「はいー。非戦闘系のビシャモンさんでオールオッケーですよー。3人はベストコンディションで本城真白に備えててくださいね!」
白磁はニコリと3人へ微笑み激励し、この作戦会議は終了した。
―――――――――――――――――――――――――
「……。白磁」
「はいなんですか?」
作戦の確認が終了すると2人はホテルから出て、自分たちが住んでいるマンションの方へ歩いていた。
「……。私の役割は何だ? 先ほどの話の中では一切私に触れていなかったが?」
「あーそうですねー」
と、苗木の名前を出さなかったことを思い出す。
「苗木さんの役割は、私の護衛と渋紙さんの治療ですよ」
苗木の頭には疑問符が浮かぶ。
今までの捕獲の仕事とは、何かが違う。
ニネット・バリエール回収作戦なのに、時間の大半はニネットではなく真白と黒江に関しての話で、対象のことに関しては姿形だけしか説明していない。
「……。白磁高麗の護衛までは分かる。レベル0で、何も持たない無能力者のお前に常盤様が気を使ってくださっているのだろう? だが『渋紙の治療』とは何だ? お前の作戦では渋紙は死なないんじゃないのか?」
非戦闘系の渋紙に、自分の治療が必要なほどの大怪我……。
ありえない!
何かを白磁は隠している。
苗木は自分の神からの贈り物を思い出す。
『人形島登録学生ランキング』的に表現するならば、レベル4 滅私奉狐:細胞を活性化させて回復させる能力。
真白が考えていた形態変化系能力者とは全く関係ない。
苗木は自分の身体を機械に変化させるような能力者ではなかった。
ただ全身が機械なだけ。
その苗木の回復能力を使わないといけない事態が起こる……。
「んー。「死ぬ確率が99%以上」ではないってだけですよ。月詠黒江が残酷で、非情で、昔のままだったら、渋紙さんは一発で死ぬでしょうねー。ですから苗木さんは、渋紙さんが死ななかったときの治療役ですよ」
「……。なんだそれは? 不確定な作戦だな。お前らしくもない。全パターンを頭に入れて、すべてのことを考慮して、先回りして対応するのがお前の流儀ではないのか?」
「ええ、そうですけど。まぁ、しょうがないですよ。私だって偶にはこういうことがありますよ。人間ですもの」
この作戦を見誤ったら渋紙は死んでしまうのに、白磁はどこか嬉しそうに不確定な作戦を語っていた。
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