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第1章

1話―生まれ変わっても寝坊助でした。

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 カッカッと言うあまり聞き慣れない鳥の声が聞こえて、私は重たい瞼をゆっくり開けた。
 ぼやけていた視界がだんだんはっきりしてくると、どこか部屋にいるということがわかる。
 大きなベッドに寝かされていた。
 寝具がふかふかでとても寝心地が良かった。
 起き上がろうと思ったのに、びっくりするくらい体が重くてすぐ諦めた。
 ここが何処なのか、自分がどうなっているのかちゃんと確かめないといけないのに、頭がぼーっとして働かない。
 力を抜くとふかふかの布団と一体化してしまうのでは?と思うほど体が張り付いて、あっという間に睡魔に意識が拐われた。

 どれくらい眠ったのか…
 すぐ側で話し声が聞こえる。
 男の人だ。
 若そうな、聞いていてとても心地好い声だった。
 この声好きだな
 呑気にもそう思った。
 瞼は重くて開けられそうにもない。
 何やら二人の男の人が話しているようだ。
 事件性がどうとか、身元が不明だとか、きっと私の事を話しているのだろうと思ったが、瞼を開けることも起きあがることも出来なかった。

 二人の若い男がベッドで眠りについたままの少女について話していた。
 彼女を見つけたのは、更に若い方の青年だった。
 騎士見習いの訓練を兼ねて走り込みをしていると、近くの森で不自然な発光と感じた事のない魔力を感知した。
 不審に思い見に行くと、発光があったらしき場所にこの少女が倒れていたのだ。
 近くに民家は無く、人の気配も無かった。
 放って置くわけにもいかず、この屋敷まで連れて帰ってきたのだ。
 汚れた服を着替えさせ、髪を清めてベッドへ運んで以来ずっと目覚めない。
 年上の青年が困ったように少女を見つめる。
 医師にもみせたが、特に異常はなく目覚めるのを待つしかないとのことだった。
 仕方なくメイドに常駐させ、目の前の青年と交代で少女の目覚めを待つことにしたのである。


 再び目を開けると、真っ暗だった。
 暗闇に目が慣れていたせいか、なんとなく様子がわかる。窓の外には星が見え、部屋の中にも明かりはない。
 身体は……さっきよりは動くみたい。大分軽くなった。
 喉がカラカラに渇いていて、水が欲しいと思ったが、周りを目を凝らして見てみたもののそれらしきものは無さそうだ。
 誰か人を呼ぼうと声を出そうと試みたが、渇いた喉からは掠れた声しか出なかった。
 仕方ない。貰ってくるか。
 そう思ってベッドから降りた。
 歩き出そうとして近くに置いてあった物を蹴飛ばしてしまった。
 大きな音がして、それは床へ転がった。
 痛みに悶絶した私もそのまま床へ転がった。

 と、扉が開き光が差した。
 涙目でそちらへ視線を向けると、慌てた様子の男女が駆け寄ってくる。

「大丈夫か!?」

 声を掛けるや否や、背中と膝裏へ男性の逞しい腕があてがわれる。
 どうやらベッドから落ちたと思われたようだ。
 私はそんなに寝相悪くないです。
 言い訳する間もなく軽々と宙に浮いた私の身体は、次の瞬間にはベッドの上にあった。
 訳のわからないまま見上げると、すぐ目の前にまだ幼さの残る青年の顔があり、ばっちり目が合った。

「「!!!?」」

 お互いに絶句していると、メイドらしき女性が側へ寄ってくる。青年が慌てて身を起こすと、彼女の後ろへ下がる。

「駄目ですよ、無理をしては。あなたは森で倒れていたのですから。もう遅いですし、今夜はゆっくりお休みくださいね」

 慣れた手付きでベッドを整えてくれた。
「お水持ってきますね」と、部屋を出ていってしまう。
 私はもう一度青年を伺いみる。と、彼もこちらを見ていたようで、さりげなく視線を反らされてしまった。
 何となく居心地の悪さを感じていると、メイドさんが別の男性を連れて戻ってきた。
 白いシャツにスラックス(?)といった楽な格好の、こちらも若そうな人だった。

「目が覚めたんだね。良かった」

 そう言うとベッドの縁へ腰掛けた。「失礼」と言いながら首筋へ触れてくる。
 驚いたがひんやりした手が気持ち良かった。

「熱は無さそうだ」

 先程寝ぼけながら聞いた心地好い声だった。
 彼はメイドさんから水の入ったグラスを受け取ると、私の口元へ運んでくれた。
 それを受け取り冷たい水を喉へと流し込む。
 カラカラだった喉に潤いが戻り、生き返った気分だ。

「何か食べられそう?」

 そう言われて少し考える。確かに空腹は感じたが、そんな気分に慣れなくて軽く首を振った。
 彼は微笑むと「ゆっくりお休み」と部屋を出ていった。その後ろをあの青年もついて出て行った。

「もし何かあれば、いつでも呼んでくださいね」

 と、メイドさんが小さなベルを枕元の台へと置いてくれた。
 部屋に一人になると、すぐに眠気がやってくる。
 何でこんなに眠いのかと思いながら、私は三度眠りへと堕ちていった。

 こうして転生初日から大寝坊した私は、結局三日も寝むりこけていた事実を後から聞かされて、大変恥ずかしい思いをすることになるのでした。
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