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本編
魔物たちの夜②
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突然現れたロブ殿下の姿に驚きを隠せないわたし。ここは試練の場所の筈……何故ロブ殿下が?
ブラッドと共に華麗に馬をひるがえしながら次々とトロールをなぎ倒していく。トロールへと向かって振り下ろされる剣先は光を放っており、どうやら魔法を纏わせている様だった。ロブ殿下とブラッドの強さは想像を超えていて、あんなに居たトロールの群勢が嘘の様に少なくなっていく。この分だと鎮圧するのも時間の問題だろう。わたしも我に返り、慌てて攻撃魔法で近くの村人の援護へと入った。
「アリー! ここは私に任せて、怪我人の手当てを頼む!」
「わ、分かりました!」
遠くからロブ殿下の指示が飛んで来たので、わたしは襲われた人々の傷を見てまわる。軽傷の人は極僅かで、倒れている殆どが見るからに重症だと分かる。
「ポーションとかはありますか?」
「お嬢ちゃん、悪いがそんな高価なもんはこの村には無いよ」
ここは街からも外れた森の中の小さな村だ。ポーションが無い事も、治癒魔道士が居ない事も当たり前の状況下にある。わたしは一応貴族の生まれだし、悪役令嬢というポジションからも魔力量自体は多い方ではある。ただ問題なのは、治癒魔法がヒールくらいしか使えない。
「……ヒールでどの程度治せるのかしら」
この村に来てから増強されている魔法の威力。恐らく治癒魔法にもその効果は適応されているとは思うのだけど……。緊張の中、重症を負った村人の一人の傷口に手をかざして魔法を発動する。
「おぉ……」
わたしの手から淡い光が放たれ、かざされた傷口が徐々に塞がれ……傷跡自体も消えて無くなっていく。
「……っ、ふう」
予想以上の効果に安堵の息を漏らし、重症度の高い人からヒールをかけて回る。あっちへ行き、こっちへ行きと村人たちの間を行き来する。一人、また一人と治癒して回る度に少しずつだが身体から魔力が減っていくのが分かる。
「お嬢ちゃん! こっちへ来てくれ!」
切羽詰まった声に慌てて駆け寄ると、そこにはレジーを捜しに一緒に森へ入った大柄な元傭兵の男が息絶え絶えに横たわっていた。わたしが攻撃魔法でトロールと応戦している時、視界の端で彼が村人の先頭に立って闘っていた姿を目にしていた。
「ゴーヴさん、今治療しますからね……」
何処がどう悪いのかも分からない程に傷だらけで、きっと外傷だけでなく内臓もダメージを受けているのだろう。青白い顔を険しく歪めたまま、焦点の合っていない瞳は何を映しているのだろうか。あまりの痛々しい姿に涙が出そうになるのを抑えながら、わたしは必死にゴーヴの身体に両手をかざし続ける。
外傷が消えた頃、一瞬くらりと眩暈がした。けど、まだまだだ……わたしは気合を入れ直して手のひらに魔力を集中させる。
「お願い……治って……」
少しずつ、ゴーヴの瞳に力が宿って来た。きっと、あと少し! 願いも込めて、必死で手をかざす。
「…………ヴ……あっ」
ゴーヴが僅かに声を漏らした。そして、ゆっくりと首を回す様にして周りを見渡す。
「わしは……助かった、のか」
不思議そうな顔をしながら大きなその身体を起こす。ゴーヴの周りを囲んでいた村人からは歓声が上がる。まだまだ他にも治療が必要な人たちは居る。わたしは次の村人の方へ向かうべく立ち上がろうとした時、膝からガクンと崩れ落ちた。
「大丈夫かい!?」
「……平気です、これくらい。他に怪我の酷い人は?」
「あ、あぁ……あとは、あそこに居る者たちが……」
心配そうにしながらも村人が指差す方には小さな男の子を抱きかかえたまま、意識を失っている女性の姿があった。少しふらつきながらも、その女性の元へと向かう。
魔力を使い過ぎたかもしれない……あと、どれくらい治癒出来る量の魔力が残っているか……。歩きながら、ロブ殿下たちの方へと視線を向けるとトロールもあと数体となっていた。良かった、なんとか守りきれた……。
そう思った時だった。
突風が吹くと共に、耳をつんざくような奇声が頭上から聞こえてきた。見上げると、そこには大きな翼をバサバサとはためかせながら頭上を旋回する一匹のワイバーンの姿があった。
ブラッドと共に華麗に馬をひるがえしながら次々とトロールをなぎ倒していく。トロールへと向かって振り下ろされる剣先は光を放っており、どうやら魔法を纏わせている様だった。ロブ殿下とブラッドの強さは想像を超えていて、あんなに居たトロールの群勢が嘘の様に少なくなっていく。この分だと鎮圧するのも時間の問題だろう。わたしも我に返り、慌てて攻撃魔法で近くの村人の援護へと入った。
「アリー! ここは私に任せて、怪我人の手当てを頼む!」
「わ、分かりました!」
遠くからロブ殿下の指示が飛んで来たので、わたしは襲われた人々の傷を見てまわる。軽傷の人は極僅かで、倒れている殆どが見るからに重症だと分かる。
「ポーションとかはありますか?」
「お嬢ちゃん、悪いがそんな高価なもんはこの村には無いよ」
ここは街からも外れた森の中の小さな村だ。ポーションが無い事も、治癒魔道士が居ない事も当たり前の状況下にある。わたしは一応貴族の生まれだし、悪役令嬢というポジションからも魔力量自体は多い方ではある。ただ問題なのは、治癒魔法がヒールくらいしか使えない。
「……ヒールでどの程度治せるのかしら」
この村に来てから増強されている魔法の威力。恐らく治癒魔法にもその効果は適応されているとは思うのだけど……。緊張の中、重症を負った村人の一人の傷口に手をかざして魔法を発動する。
「おぉ……」
わたしの手から淡い光が放たれ、かざされた傷口が徐々に塞がれ……傷跡自体も消えて無くなっていく。
「……っ、ふう」
予想以上の効果に安堵の息を漏らし、重症度の高い人からヒールをかけて回る。あっちへ行き、こっちへ行きと村人たちの間を行き来する。一人、また一人と治癒して回る度に少しずつだが身体から魔力が減っていくのが分かる。
「お嬢ちゃん! こっちへ来てくれ!」
切羽詰まった声に慌てて駆け寄ると、そこにはレジーを捜しに一緒に森へ入った大柄な元傭兵の男が息絶え絶えに横たわっていた。わたしが攻撃魔法でトロールと応戦している時、視界の端で彼が村人の先頭に立って闘っていた姿を目にしていた。
「ゴーヴさん、今治療しますからね……」
何処がどう悪いのかも分からない程に傷だらけで、きっと外傷だけでなく内臓もダメージを受けているのだろう。青白い顔を険しく歪めたまま、焦点の合っていない瞳は何を映しているのだろうか。あまりの痛々しい姿に涙が出そうになるのを抑えながら、わたしは必死にゴーヴの身体に両手をかざし続ける。
外傷が消えた頃、一瞬くらりと眩暈がした。けど、まだまだだ……わたしは気合を入れ直して手のひらに魔力を集中させる。
「お願い……治って……」
少しずつ、ゴーヴの瞳に力が宿って来た。きっと、あと少し! 願いも込めて、必死で手をかざす。
「…………ヴ……あっ」
ゴーヴが僅かに声を漏らした。そして、ゆっくりと首を回す様にして周りを見渡す。
「わしは……助かった、のか」
不思議そうな顔をしながら大きなその身体を起こす。ゴーヴの周りを囲んでいた村人からは歓声が上がる。まだまだ他にも治療が必要な人たちは居る。わたしは次の村人の方へ向かうべく立ち上がろうとした時、膝からガクンと崩れ落ちた。
「大丈夫かい!?」
「……平気です、これくらい。他に怪我の酷い人は?」
「あ、あぁ……あとは、あそこに居る者たちが……」
心配そうにしながらも村人が指差す方には小さな男の子を抱きかかえたまま、意識を失っている女性の姿があった。少しふらつきながらも、その女性の元へと向かう。
魔力を使い過ぎたかもしれない……あと、どれくらい治癒出来る量の魔力が残っているか……。歩きながら、ロブ殿下たちの方へと視線を向けるとトロールもあと数体となっていた。良かった、なんとか守りきれた……。
そう思った時だった。
突風が吹くと共に、耳をつんざくような奇声が頭上から聞こえてきた。見上げると、そこには大きな翼をバサバサとはためかせながら頭上を旋回する一匹のワイバーンの姿があった。
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