完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第一章

ダンスパーティ ②

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 ゆっくりと振り向くとそこには殿下の腕を取ったままのミンスロッティ様と、無表情の殿下が居た。

「こんな所にいらっしゃったのね、ティアナ様」
「……ごきげんよう、アルスト殿下。それにミンスロッティ様」

 震える身体を悟られない様に淑女の礼をする。あたしは王太子妃教育で培ったポーカーフェイスをフル稼働させた。取り乱した姿なんて見せたくない。

「あぁ、よく来てくれた。今宵のダンスパーティを楽しんでってくれ」
「はい、殿下……」

 “楽しんでってくれ”だなんて、よく言えたものね。それが出来ない事を一番お分かりになる筈なのに。

「ねぇ、ティアナ様。ここは少し冷えるわ、中でお話しませんか?」

 そう言ってミンスロッティ様は、殿下の腕から離れてあたしの傍へと近付いて来た。そして、その小さくて可愛らしい手であたしの手を握る。

「まぁ、こんなに手が冷たくなっていますわ。ほら、中でお話しましょうよ」

 ――――その、手で触らないで。殿下に触れたその手で、あたしに触らないで!
心の中で叫ぶ。けど、そんな事を思ってしまう自分にショックを受けた。嫉妬だなんて醜いわ。こんな醜いあたしは殿下の隣りに並ぶ資格なんて無いに決まって…………え?

 握られた手に違和感を感じた。

「…………っ!?」

 繋がれたミンスロッティ様の手から凄く冷たい何かが、あたしの手に流れ込んで来る。そしてこの感覚をあたしは知っている。思わず手を振りほどこうとした、その時。

「スクト!」
「きゃあぁ!?」

 殿下が大声でスクトお兄様の事を呼んだと同時に、目の前に居たミンスロッティ様の身体がグラリと傾いた。驚いて目を見張ると、ミンスロッティ様の腕を殿下が捻り上げている。

「いったぁい! アル様、痛い痛い痛い! 離してぇえええええ」

 何処から現れたのかスクトお兄様が何かの魔道具を持ち、衛兵と共に駆け付けて来た。殿下はミンスロッティ様を衛兵の方へ投げ放つと、衛兵はすかさずミンスロッティ様に縄をかける。

「魔力感知しました! 発動元はパチェット男爵令嬢からです」
「では、連れて行け!」
「「「はっ!」」」

 衛兵たちはグルグル巻きにしたミンスロッティ様を引き摺るようにしてバルコニーから出て行った。その後をスクトお兄様も一緒について行く。ミンスロッティ様は何かを喚きながら衛兵に連れて行かれてしまった。

「…………え?」

 状況が呑み込めずに、あたしは茫然とその場に立ち竦んでいた。そっと殿下が近付いて来て、あたしの前で跪く。余計に意味が分からなくて、慌てて殿下に声を掛ける。バルコニーの入口からは、騒ぎを聞きつけた大勢の方々がこちらを遠巻きに覗いている。

「で、殿下!? 何をなさっているのですか、お顔を上げて下さい」
「ティアナ、本当にすまなかった!」
「え……」
「詳しい話は……場所を移してから。私について来てくれるかい?」
「は、はい……」

 差し出された手に一瞬息が止まる。……この手を取っていいのだろうか。迷いが生まれる。対応に困って殿下を見ると、凄く悲しげな表情であたしを見つめていた。初めて見るその顔に、あたしは勇気を出して自分の手を伸ばした。久々に触れた温かい手に泣きそうになりながら、殿下と一緒に大広間を出た。
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