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第一章
ダンスパーティ ③
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騒がしい大広間を抜けて殿下と向かったのは、この半年間以上訪れる事の出来なかった殿下の私室だった。部屋の前に待機していたメイドにお茶の準備をさせて、殿下はあたしをソファーへと座らせる。お茶の用意が整うと、メイドは静かに部屋を出て行った。
殿下はあたしの隣りに腰かけると事の真相を話し始めた。
「長い間、不安にさせてすまなかった。パチェット男爵令嬢の計画を阻止する為に君の傍を離れた事を許して欲しい」
「……殿下はミンスロッティ様に心変わりをされたのではなかったのですか?」
「そんな事はこの世界が滅んでもあり得ない」
いや、滅んじゃダメだと思うけど殿下なら本気でそう思ってそう。
「あの日、君から何かしらの魔力を感じたんだ。でもそれだけじゃ証拠にならない。だからスクトと内密に調べる事にしたんだ」
「スクトお兄様とですか」
「あぁ。だからあの男爵令嬢にわざと近付いて行ったんだ。どうやら彼女は魅了の魔法を所持している様でね、何人かの男は既に彼女の虜になっていたし。私にもソレをかけようと躍起になっていたからね」
「魅了の魔法!? それは禁呪なのではないですか?」
「そうだよ、だからわざと近付いてかかった振りをしていたんだ」
「え……大丈夫なんですか? 本当にかかってしまったら大変な事になるんじゃ」
「残念ながら私には、かからないよ。一般には知られていないけど王族は生まれながらにして魔法を無効にさせる体質を持っているんだよ。知らなかったかい?」
「はい……」
という事は、殿下が心変わりをされた様に見えたのは全部演技だったって事?ホッとする様な、悔しい様な気持ちで一杯になる。
「どうして話して下さらなかったんですか……わたくし、てっきり殿下が心変わりをされたのかと」
「ごめんね、君を危険から遠ざけたかったんだ」
「……タクトお兄様も知らなかったんですよね?」
知っていたらあんなに殿下に対して怒った態度を取ったりしてない筈。スクトお兄様よりも、タクトお兄様の方が仲が良いのに何故スクトお兄様だけに話したのだろう。
「あ――それはタクトはバカ正直だから……こういう事はスクトの方が適任だからね」
「きっとタクトお兄様、本当の事話したら怒りますよ」
「……あは、だろうね」
殿下は困った様にガックリと肩を落とした。その後、気を取り直したのか顔を上げてあたしの手を握った。
「ティアナ、どうか私を許してくれるかい?」
まるで捨てられた仔犬の様な顔でこちらを見つめてくる殿下。そんな顔を見せられたら困ってしまう。
「……アスターステラホワイトの花。ちゃんと殿下はお心を伝えて下さっていたのに、悲しくて疑ってしまったわたくしの方こそ、許して頂けますか?」
アスターステラホワイトの花言葉は“わたしを信じて欲しい”。あの時のあたしは花言葉の意味を知っていたけれど、それを受け入れる勇気も気力も失くしていた。
「勿論だよ、悲しませてしまった私が悪いのだから」
「これからも殿下のお傍に居させて下さい」
「あぁ、もう二度と離れないと誓うよ」
殿下はあたしを抱き寄せて、その腕の中へと包まれる。久々の抱擁にあたしは力が抜けてしまいそうになる。殿下の腕の中に戻れた事がとてつもなく嬉しい。自分でも驚く程に殿下の事が好きなんだと実感する。
暫く抱き合っているとコンコン、と扉が叩かれスクトお兄様の声が向こうからした。
「殿下、準備が整いました」
「……分かった。総仕上げをしてくるよ、ティアナはここで待ってて」
「はい……」
身体を離した殿下はあたしの頭にキスを一つ落とすと立ち上がり、そして王族らしい表情を見せるとミンスロッティ様を拘束している地下牢へと向かわれた。
殿下はあたしの隣りに腰かけると事の真相を話し始めた。
「長い間、不安にさせてすまなかった。パチェット男爵令嬢の計画を阻止する為に君の傍を離れた事を許して欲しい」
「……殿下はミンスロッティ様に心変わりをされたのではなかったのですか?」
「そんな事はこの世界が滅んでもあり得ない」
いや、滅んじゃダメだと思うけど殿下なら本気でそう思ってそう。
「あの日、君から何かしらの魔力を感じたんだ。でもそれだけじゃ証拠にならない。だからスクトと内密に調べる事にしたんだ」
「スクトお兄様とですか」
「あぁ。だからあの男爵令嬢にわざと近付いて行ったんだ。どうやら彼女は魅了の魔法を所持している様でね、何人かの男は既に彼女の虜になっていたし。私にもソレをかけようと躍起になっていたからね」
「魅了の魔法!? それは禁呪なのではないですか?」
「そうだよ、だからわざと近付いてかかった振りをしていたんだ」
「え……大丈夫なんですか? 本当にかかってしまったら大変な事になるんじゃ」
「残念ながら私には、かからないよ。一般には知られていないけど王族は生まれながらにして魔法を無効にさせる体質を持っているんだよ。知らなかったかい?」
「はい……」
という事は、殿下が心変わりをされた様に見えたのは全部演技だったって事?ホッとする様な、悔しい様な気持ちで一杯になる。
「どうして話して下さらなかったんですか……わたくし、てっきり殿下が心変わりをされたのかと」
「ごめんね、君を危険から遠ざけたかったんだ」
「……タクトお兄様も知らなかったんですよね?」
知っていたらあんなに殿下に対して怒った態度を取ったりしてない筈。スクトお兄様よりも、タクトお兄様の方が仲が良いのに何故スクトお兄様だけに話したのだろう。
「あ――それはタクトはバカ正直だから……こういう事はスクトの方が適任だからね」
「きっとタクトお兄様、本当の事話したら怒りますよ」
「……あは、だろうね」
殿下は困った様にガックリと肩を落とした。その後、気を取り直したのか顔を上げてあたしの手を握った。
「ティアナ、どうか私を許してくれるかい?」
まるで捨てられた仔犬の様な顔でこちらを見つめてくる殿下。そんな顔を見せられたら困ってしまう。
「……アスターステラホワイトの花。ちゃんと殿下はお心を伝えて下さっていたのに、悲しくて疑ってしまったわたくしの方こそ、許して頂けますか?」
アスターステラホワイトの花言葉は“わたしを信じて欲しい”。あの時のあたしは花言葉の意味を知っていたけれど、それを受け入れる勇気も気力も失くしていた。
「勿論だよ、悲しませてしまった私が悪いのだから」
「これからも殿下のお傍に居させて下さい」
「あぁ、もう二度と離れないと誓うよ」
殿下はあたしを抱き寄せて、その腕の中へと包まれる。久々の抱擁にあたしは力が抜けてしまいそうになる。殿下の腕の中に戻れた事がとてつもなく嬉しい。自分でも驚く程に殿下の事が好きなんだと実感する。
暫く抱き合っているとコンコン、と扉が叩かれスクトお兄様の声が向こうからした。
「殿下、準備が整いました」
「……分かった。総仕上げをしてくるよ、ティアナはここで待ってて」
「はい……」
身体を離した殿下はあたしの頭にキスを一つ落とすと立ち上がり、そして王族らしい表情を見せるとミンスロッティ様を拘束している地下牢へと向かわれた。
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