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1.手元のカードには白い花が咲いていた

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手元のカードには白い花が咲いていた。
「手紙きてるよ」
その日私は、顔も名前も性別も知らない、ただ単にそこに住んでいるであろう人からの手紙を303号室の郵便受け越しに受け取った。
「手紙?誰から?」
「知らない人」
真新しい高校の教科書がつまったカバンをテーブルの椅子に置き、制服のリボンをほどきかけながら報告をする私とその報告を受ける姉。
私たちはお互いがそれぞれ唯一の家族であった。
「は?」
タンクトップ姿でお風呂上がりの濡れた髪を大きなバスタオルで包むように水分を吸収させていた姉は、喋るのが面倒なのかそれ以上何も発さずこちらを見ている。
姉は10歳年上ではあるが、まるで私の代わりに反抗期をやっているような反応を時おりする。
「403号室の人」
「が?」
「手紙」
手元のポストカードをくるりと裏返し、メッセージが書かれた方を姉に向ける。
「挨拶の品ありがとうって」
メッセージが書かれた方の裏面にある、白い花の写真。
姉にメッセージを見せながら、私はその百合のような花をなんとなく眺める。
何か薄く英語の表記がある。

『White ginger』





「何してんの?」
翌日の仕込みを準備し終えた姉が、麦茶入りのグラス片手にテーブルの私の向かいの席につく。
「手紙」
いつでも布団に入ることができる姿で、ペン片手に白いうさぎと茶色いうさぎが何匹も描かれたポストカードに向かう。
「誰に?」
「403号室の人」
グラスの中でわずかに揺れる麦茶が姉の口元でどこにも行かず静止していた。
なので、その麦茶を一押しするかのように言葉を続けてみた。
「返事書くの」
麦茶はそのまま予定通りのど元を通過して行ったようだ。
「…暇人」
姉はグラスを流し台に置き、どこかに行ってしまった。

私と姉がここに越して来たのは2週間前。

小花柄の包装紙に包まれたタオルが、一つだけ余ってしまうことになった。
403号室の方の分だ。
何度か挨拶に訪ねたが留守だった。
それとも、人が住んでいないのか。
「あ、あいてるよ」
ある日、私は部屋順に並ぶ郵便受けの前でつぶやいた。
その郵便受けは、番号で囲まれた回転式の鍵によって閉められている。
たまたま403号室の郵便受けの扉が少し浮いていることを発見したのだった。
「入れちゃえば?」
そう言うと姉はエントランスから外に出る扉を開けて先に出て行ってしまった。
私は急ぎめで部屋に戻り、白いくまと茶色いくまが何匹も描かれたメモ用紙に簡単なメッセージを書き、タオルと一緒にその郵便受けに投函した。
その場所から少し窮屈そうにはみ出していたタオル。
翌日ちらっと見てみると姿を消していた。
403号室には人が住んでるんだ。
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