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第1章

完膚なきまでに

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「ご機嫌よう、フリーレ様」

 黙々と剣を振っているラグヌスに声をかける。
 本当に単純馬鹿ね。戦術とかも学べば、ラスルよりも強くなれるのに。

「ああ、ヴァレリア公爵令嬢。俺に何か用かい?」

「ええ。フリーレ様に少々お願いがあって参りましたの」

「お願い?」

「私、一度でいいから剣を握ってみたいのです。フリーレ様、ご教授願えませんか?」

 私の言葉にラグヌスは驚いて声も出ないようだ。

 それもそうだ。公爵令嬢が剣を持つなど、あり得ないことなのだから。
 貴族の中にも女性騎士を目指す方はいるが、ごくごく僅かだ。
 その方々も、王太子妃や王子妃の護衛に就くべく鍛錬されているのだ。

 王子妃になろうという私が学ぶことではない。

 だが、騎士になろうと黙々と頑張っていること自体は構わないが、己の未熟さ故にヒロインに傾倒し、事もあろうに婚約者に斬りつけるような馬鹿の鼻っ柱を、私はへし折るつもりなのだ。

 そのためには、ラグヌスと共に剣を握らなければならない。

「な・・・にを・・・」

「お願いしますわ、フリーレ様。フリーレ様のように、努力されている方から教わりたいのです」

 胸の前で手を組んで、ウルウルとした瞳でラグヌスを見上げる。

 これは、乙女ゲームの中でヒロインがラグヌス相手にやっていた攻略方法だ。
 剣ばかりやってるラグヌスは、か弱い女性にめっぽう弱いのだ。

 案の定、ラグヌスは頬を赤らめ、視線をウロウロと彷徨わせた。

「お、俺は・・・その・・・」

「駄目・・・ですか?フリーレ様」

「い、いいだろう。ご教授させていただく」

「ありがとうございます。嬉しいですわ」

 にっこりと微笑んでみせる。
こんな、色仕掛けのような手に簡単に引っかかるとは。

 確かに乙女ゲームの中でも、ラグヌスは一番攻略しやすいキャラだった。

 私が、ラグヌスにこんな手で近づいたのには理由がある。

 本来なら、婚約者のラーナを気遣って他の手でいく予定だった。
 だが、ラーナからラグヌスに対しての愛情はないと言われ、それならばとヒロインの使う攻略法にしたのだ。

 ラーナを見ていた時から、薄々は感じていた。
 ラーナはラグヌスに幼馴染のような親愛は感じていても、恋愛感情はないと。

 元々、高位貴族は平民や前世のように、恋愛結婚ができるわけではない。
 彼らの結婚は、家と家の契約であり、政略的なものである。

 それをヴィヴィ・ヴァレリアとなって、痛いほどよく分かった。
 あの、自分の立場を理解していない第2王子と婚約破棄したい。だが、王家と公爵家の契約である婚約をヴィヴィが勝手に解消や破棄することはできない。

 だからこそ、ヒロインに攻略させているのだ。
 だからこそ、他の攻略対象を駒として集めているのだ。
 




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