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90.養う義務

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 宿屋の女将さんに紅茶を入れていただいて、私はお母様と向かい合って座った。

「それでリュカのことなんですけど、アンブレラ王国の王太子殿下の近衛という肩書をいただいたのです。私が公爵令嬢でなくなるのなら・・・リュカと一緒になることを許していただけるでしょうか?」

 どうしても駄目だと言われたら、駆け落ちすることも考えたわ。

 でもリュカが、絶対に説得するからって。

 私が両親のことを大切に思っていることを理解してくれているから。

 リュカの気持ちが嬉しくて、だから私もちゃんと認めてもらえるまで、説得しようと思ったの。

 お母様は私の話をずっと黙ったまま聞いてくださって、私の問いかけに立ち上がると私をギュッと抱きしめてくれた。

「もちろんよ。リュカならアイシュを大切にしてくれるって信用できるもの。わたくしも旦那様も、アイシュが幸せになることが一番大切なの。わたくしはアイシュしか授かることが出来なかった。フローレンス公爵家は王家と縁を結ぶことが多かったから、最低でも二人は子供が欲しかったの。でも旦那様が、アイシュが王家に嫁ぐことになったら、自分の代で公爵家を終わらせても良いから、と。本当はね、ウィリアム殿下との婚約も、何度もお断りしたのよ。だけど殿下がどうしてもと言うから・・・あの時、強固にお断りしておくべきだったわ。そうすれば、アイシュにあんな嫌な思いをさせずに済んだのに」

「大丈夫ですわ、お母様。私はウィリアム殿下のことは本当に友人の延長線としか見ていなかったのです。アスラン殿下のことは、好きでしたけど、好きだったからこそ裏切りを許せなかった。でも今は、リュカがそばにいてくれるから幸せだって思えるんです。リュカは私を絶対に裏切らない。そう思えるから」

 ウィリアム殿下のことだって、恋ではなかったけど、ちゃんと私に相談してくれていればもっと円満に解消したのにと思う。

 もちろん王妃様のことがあったから、うまく行ったかはわからないけど。

 アスラン殿下のことは、ちゃんと恋愛としての好きだったと思う。

 だからこそ、あの裏切りが許せなかった。

 自分の息子を、誠実に処罰してくれたクライゼン王国の王家は信用してるの。

 だからクライゼン王国でなら、大切な家族と一緒に暮らしていけるって思うわ。

 王太子殿下にお願いすれば・・・
下位の爵位ならもらえるかしら?

 使用人たちがいないなら平民でもかまわなかったのだけど、ここまで付いてきてくれた彼らを養う義務が私たちにはあるもの。

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