私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな

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89.宿屋に参ります

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「アデラ。元気そうで良かったわ」

「アイシュお嬢様、私、私、いっぱい頑張りました。だから、これからも私をおそばにおいてください!」

「もちろんよ、アデラ。アデラは私の大切な侍女ですもの」

 あの時、アデラをマデリーン王国の親元へ帰したけど、それは国に帰れるのがいつになるか分からなかったから。

 親元、特に母親のもとで学ぶことも多いだろうし、まだ幼いアデラに寂しい思いをさせたくなかったというのもあった。

 そして今は、その判断は間違ってなかったと思う。

 アデラは、王子様然としたアスラン殿下に憧れていた。

 それはもちろん単なる絵本の中の王子様に対する感情と同じで、本当に純粋な憧れだったのだけど・・・

 その憧れの対象が、不貞をしたり私に縋りつこうとしたりする姿は見せたくないもの。

 思い出は綺麗なままにしておいてあげたいわ。

「まずは、アンブレラ王国国王陛下たちにご挨拶に伺わないとな。クライゼン王国の王太子殿下もいらっしゃるのだろう?」

「はい。拝謁の打診をしてまいりますので、お父様たちは宿でお休みください。長旅でお疲れになったでしょう?」

 アンブレラ王国の国王陛下たちは、エヴァリーナ王女殿下の婚約の件でとても恩を感じて下さってるから、多少の無理は聞いて下さるだろうけど。

 アンブレラ王国に亡命するよりは、クライゼン王国に亡命したいのよね。

 エヴァリーナ王女殿下もお嫁入りなさるし、アスラン殿下とフランチェスカ様のことは別として、あの国自体は好きなのよ。

 それにアンブレラ王国よりは国力があるから、マデリーン王国から何か言われたとしてもクライゼン王国なら突っぱねられると思うのよね。

「リュカ。アンブレラ王国の国王陛下と、クライゼン王国の王太子殿下に謁見の許可をいただいてきてちょうだい」

「かしこまりました」

 リュカに頼んで、私はアデラと共にお父様たちを宿へと案内する。

 王宮に滞在をと言われたけど、お断りしたのよ。

 さすがにお父様たちだけならともかく、使用人もいるから王宮は無理よ。

 うちの使用人たちはみんな礼儀もキチンと出来てるし、問題ないといえば問題ないけど、本人たちが緊張するもの。

「お父様たちはそちらのお部屋で、アデラはご両親と一緒にこちらね。みんなも部屋はわかったかしら?」

「はい。大丈夫です、お嬢様。あとは我々で出来ますので、お嬢様もお休みになって下さい」

「ふふっ。じゃあ、お任せするわね。お母様、ご一緒にお茶をしませんか?」

「あら?いいわね」

 リュカを待つ間、リュカとのことをお話しなきゃ。

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