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60.嬉し恥ずかし・・・

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 はい、と差し出すと、リュカは私が持ったままの串から、どーなつをかじり取った。

 一口でクマがリュカの口の中に消える。

 いえ、それはいいんだけど、あの二人組の男性もそうだったし。

 いえ、そうではなくて、どうして私の手から直接食べちゃうの!

 人の手から物を食べたことなどない。

 幼い頃に病気をした時ならあったかもしれないけど、記憶の中にはないわ。

 だから、リュカの行動に顔が赤くなってしまう。

「お嬢、真っ赤」

「だ、だって。どうして手から食べちゃうのよ」

「いや、お嬢が食べたのを直接食べてるのに、照れるのそこですか?」

「!」

 そうだったわ!
私ってば齧ることにばっかり気を取られて、食べかけをリュカに食べさせるなんて!

「ご、ごめんなさい」

「どうして謝るんです?」

「だって、私の食べかけを食べさせたわ。こっち、リュカが丸々食べて」

 ハート型を差し出すと、リュカは半分くらいを一口で食べる。

「お嬢は俺の食べかけを食べるのは嫌ですか?」

「え?嫌じゃ・・・」

「じゃあお嬢、あーん」

 え?あーん?
え?私、これ齧れば良いの?え?ものすごく恥ずかしいんだけど。

 でもリュカは串を差し出したまま、ジッと私が口を付けるのを待ってて・・・

 お、女は度胸よ!抵抗があるのは、最初だけだわ!

 パクリ!とハートに齧り付いた。

「あ。甘酸っぱいわ」

「中にジャムが入ってますね。お嬢、もう一回あーん」

「ん」

 残りを口に入れて、もぐもぐと咀嚼する。

 恥ずかしいけど、コレも王国にいたら出来ないことだわ。

 というか、私を知っている人の前じゃ絶対にできないわね。

 お母様にだって叱られてしまいそう。

 そんなことを考えながら、リュカとどーなつを分け合って食べた。

「ふふっ」

「お嬢?」

「美味しかったわね、リュカ。ふふっ。こんな楽しい気持ちは初めてだわ。なんだかウィリアム殿下に感謝したい気持ちよ」

 あの人と婚姻していたら、こんな楽しみは知らないまま生きていた。

 アスラン殿下ともそうだわ。

 この楽しさは、あの二人と生きていたら知ることのないことだった。

 そう思うと、婚約解消も悪いことではなかったと心から思える。

 リュカは、私の顔を見て・・・
それから優しい表情で笑ってくれた。

 ウィリアム殿下の、あの不貞の場面を見るまで、私とウィリアム殿下のことを見守っていてくれたのような視線じゃなく、さっきの二人組の男性が彼女を見つめていたような、そんな柔らかい表情だった。

「お嬢が楽しいなら、俺も嬉しいです」

 
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