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悪役令嬢回避編

私が馬鹿だったから《マリア視点》

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「ぐすっ、うっ・・・アニエス様・・・」

 視界の端に、リリウム公爵家をとらえたまま、私はその場で涙を拭うことしか出来なかった。

 1週間前、入学式で絡まれたご令嬢たちに無理矢理、裏庭まで連れて行かれた。

 平民の私が、王太子殿下や筆頭公爵家のご令嬢であるアニエス様と、親しくさせていただいていることが気に入らない方々はたくさんいる。

 だから、いつものことだと気にもしなかった。
 アニエス様に知られたら、とても心配させてしまうから、それだけ注意したらって。

 いつものことだと思っていたのに、運悪く、そこに王太子殿下が通りかかってしまった。

 そして、それと同時に空気が禍々しく揺れ、巨大な魔獣と呼ばれるモノが現れた。

 何が起こったのか理解できない私と、ご令嬢方を守るように立ち塞がってくれた王太子殿下の右肩から、血が吹き出したのを見た時、血の気が引いた。

 駄目。この方はアニエス様の大切な婚約者。この方が傷ついたら、アニエス様のお心が傷ついてしまう。

 私は、聖女なんだから・・・癒さなきゃ。聖女だから、この学園に入れたんだもの。お役に立たなきゃ。

 血の気がどんどん引いていく、王太子殿下を癒やそうと思えば思うほど、上手く魔力が働かない。

 やっぱり、私は聖女なんかじゃないんだ。ご令嬢方の言う通り、聖女なんかじゃないから、この1番大切な場面で、何の役にも立たない。

 そう思って絶望感に押し潰されそうになった私を、大丈夫だと抱きしめて下さったのは、駆けつけて来たアニエス様。

 この方は、こんな危険なところに居ていい方じゃないのに。

 優しくて、聡明で、そして強いお心を持たれたアニエス様。
 私は聖女だからと、しっかりしろと叱責して下さったアニエス様。

 慣れない魔法で気を失った私を、王太子殿下に医務室へと連れて行って下さるようにおっしゃって下さり、そして、あの危険な場所に残られたというアニエス様。

 どうして私は、意識を失ったりしたの?
私さえそんなことにならなければ、王太子殿下はアニエス様を残したままになんてしなかった。

 責任感の強いアニエス様は、教皇様のご子息様たちと、あの恐ろしい魔獣に立ち向かわれていたというのに、どうして私はあの方の足をいつも引っ張ってしまうの。

 魔獣は倒せたそうだけど、あの日アニエス様はお倒れになり、そのままずっと眠り続けている。

 お側に行きたい。私が本当に聖女だというのなら、私の力すべてを使ってもいい。アニエス様がお目覚めになって下さるなら、もうお側にいられなくなってもいい。

 だけど、学園でいくら親しくしていただいていても、私は平民でアニエス様は公爵家のご令嬢。

 訪ねていくことも出来ない。
だから離れた位置から、せめてお祈りするしかなかった。
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