「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

何よりも大切な人《マリウス視点》

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 そっと、その前髪を額から払う。
本来なら、僕を真っ直ぐに見つめる空色の瞳は、ずっと伏せられたままだ。

 どうして僕は、あの時アニエスから目を離してしまったのか。

 僕を癒すために気を失ったマリア嬢を医務室に運ぶのは、人として当然のことだ。
 だが、何故あの時、振り返ってアニエスがついてきていることを確認しなかったのか。

 あの時、突然現れた魔獣に、ご令嬢方やマリア嬢を守ろうとして、僕は傷を負った。

 そのこと自体、僕が未熟だからだ。
彼女たちを守ろうとしたことは悔いていないが、致命傷を負うなど、未熟以外の何者でもない。

 マリア嬢が聖女だったからこそ、僕は死なずに済んだ。
 そのことには、感謝しかない。
しかも、その力を行使したことで、意識を失ったのだ。
 だから、アニエスに言われた通り、何も考えずに医務室へと運んだ。

 だが、そのために、何よりも大切なものを危険に晒したことに気づかないなんて。

 僕は愚かだ。
たとえ、蔑まれても、あの時ニコラスかルビスにマリア嬢を託すべきだった。
 いや、せめて振り返っていたならば、こんなことにはならなかったのに。

 レイノルドと共に、あの場に残ったアニエスは、レイノルドに様々な助言をしながら、結界魔法を行使し、魔獣退治に貢献したらしい。

 そしてー
その場で意識を失ったアニエスは、あれから1週間、目覚めない。

 リリウム公爵も夫人も、僕を責めなかった。残ったのはアニエスが勝手にしたことだからと。

 クランはしばらく僕を睨んでいたけど、自分が側にいなかったことを悔いているようだった。

 父上と母上には、自分の立場というものをもっとよく考えるようにと注意を受けた。

 ローラには、激しく責められた。
好きな人ひとり守れないでどうすると、泣きながら僕を責めるローラに、僕は返す言葉がなかった。

 本当にその通りだ。
好きだと、大切だと、どれだけ言葉にしたところで、1番肝心なところで守れないなら、そんな言葉に何の意味があるというのか。

 マリア嬢とレイノルドは、自分たちのせいだと、何度も僕に詫びてきた。

 ルビスとニコラスも、自分たちが気付いていればと謝ってくれた。

 違う。僕のせいだ。
大切なら、一時も目を離すべきではなかったんだ。
 責任感の強い彼女が、あの場に残ることくらい、僕は気づくべきだったんだ。

「アニエス。お願いだから、もう一度僕にチャンスをくれないか。僕を置いて行かないでくれ。君がいなかったら、僕は・・・」

 王子様のキスで目覚めるお姫様のように、どうか、その空色の瞳にもう1度僕を映して欲しい。

 僕は、そっとアニエスの額に口付けをおとしたー




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