46 / 128
悪役令嬢回避編
何よりも大切な人《マリウス視点》
しおりを挟む
そっと、その前髪を額から払う。
本来なら、僕を真っ直ぐに見つめる空色の瞳は、ずっと伏せられたままだ。
どうして僕は、あの時アニエスから目を離してしまったのか。
僕を癒すために気を失ったマリア嬢を医務室に運ぶのは、人として当然のことだ。
だが、何故あの時、振り返ってアニエスがついてきていることを確認しなかったのか。
あの時、突然現れた魔獣に、ご令嬢方やマリア嬢を守ろうとして、僕は傷を負った。
そのこと自体、僕が未熟だからだ。
彼女たちを守ろうとしたことは悔いていないが、致命傷を負うなど、未熟以外の何者でもない。
マリア嬢が聖女だったからこそ、僕は死なずに済んだ。
そのことには、感謝しかない。
しかも、その力を行使したことで、意識を失ったのだ。
だから、アニエスに言われた通り、何も考えずに医務室へと運んだ。
だが、そのために、何よりも大切なものを危険に晒したことに気づかないなんて。
僕は愚かだ。
たとえ、蔑まれても、あの時ニコラスかルビスにマリア嬢を託すべきだった。
いや、せめて振り返っていたならば、こんなことにはならなかったのに。
レイノルドと共に、あの場に残ったアニエスは、レイノルドに様々な助言をしながら、結界魔法を行使し、魔獣退治に貢献したらしい。
そしてー
その場で意識を失ったアニエスは、あれから1週間、目覚めない。
リリウム公爵も夫人も、僕を責めなかった。残ったのはアニエスが勝手にしたことだからと。
クランはしばらく僕を睨んでいたけど、自分が側にいなかったことを悔いているようだった。
父上と母上には、自分の立場というものをもっとよく考えるようにと注意を受けた。
ローラには、激しく責められた。
好きな人ひとり守れないでどうすると、泣きながら僕を責めるローラに、僕は返す言葉がなかった。
本当にその通りだ。
好きだと、大切だと、どれだけ言葉にしたところで、1番肝心なところで守れないなら、そんな言葉に何の意味があるというのか。
マリア嬢とレイノルドは、自分たちのせいだと、何度も僕に詫びてきた。
ルビスとニコラスも、自分たちが気付いていればと謝ってくれた。
違う。僕のせいだ。
大切なら、一時も目を離すべきではなかったんだ。
責任感の強い彼女が、あの場に残ることくらい、僕は気づくべきだったんだ。
「アニエス。お願いだから、もう一度僕にチャンスをくれないか。僕を置いて行かないでくれ。君がいなかったら、僕は・・・」
王子様のキスで目覚めるお姫様のように、どうか、その空色の瞳にもう1度僕を映して欲しい。
僕は、そっとアニエスの額に口付けをおとしたー
本来なら、僕を真っ直ぐに見つめる空色の瞳は、ずっと伏せられたままだ。
どうして僕は、あの時アニエスから目を離してしまったのか。
僕を癒すために気を失ったマリア嬢を医務室に運ぶのは、人として当然のことだ。
だが、何故あの時、振り返ってアニエスがついてきていることを確認しなかったのか。
あの時、突然現れた魔獣に、ご令嬢方やマリア嬢を守ろうとして、僕は傷を負った。
そのこと自体、僕が未熟だからだ。
彼女たちを守ろうとしたことは悔いていないが、致命傷を負うなど、未熟以外の何者でもない。
マリア嬢が聖女だったからこそ、僕は死なずに済んだ。
そのことには、感謝しかない。
しかも、その力を行使したことで、意識を失ったのだ。
だから、アニエスに言われた通り、何も考えずに医務室へと運んだ。
だが、そのために、何よりも大切なものを危険に晒したことに気づかないなんて。
僕は愚かだ。
たとえ、蔑まれても、あの時ニコラスかルビスにマリア嬢を託すべきだった。
いや、せめて振り返っていたならば、こんなことにはならなかったのに。
レイノルドと共に、あの場に残ったアニエスは、レイノルドに様々な助言をしながら、結界魔法を行使し、魔獣退治に貢献したらしい。
そしてー
その場で意識を失ったアニエスは、あれから1週間、目覚めない。
リリウム公爵も夫人も、僕を責めなかった。残ったのはアニエスが勝手にしたことだからと。
クランはしばらく僕を睨んでいたけど、自分が側にいなかったことを悔いているようだった。
父上と母上には、自分の立場というものをもっとよく考えるようにと注意を受けた。
ローラには、激しく責められた。
好きな人ひとり守れないでどうすると、泣きながら僕を責めるローラに、僕は返す言葉がなかった。
本当にその通りだ。
好きだと、大切だと、どれだけ言葉にしたところで、1番肝心なところで守れないなら、そんな言葉に何の意味があるというのか。
マリア嬢とレイノルドは、自分たちのせいだと、何度も僕に詫びてきた。
ルビスとニコラスも、自分たちが気付いていればと謝ってくれた。
違う。僕のせいだ。
大切なら、一時も目を離すべきではなかったんだ。
責任感の強い彼女が、あの場に残ることくらい、僕は気づくべきだったんだ。
「アニエス。お願いだから、もう一度僕にチャンスをくれないか。僕を置いて行かないでくれ。君がいなかったら、僕は・・・」
王子様のキスで目覚めるお姫様のように、どうか、その空色の瞳にもう1度僕を映して欲しい。
僕は、そっとアニエスの額に口付けをおとしたー
97
お気に入りに追加
8,179
あなたにおすすめの小説
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる