上 下
113 / 130

迷いを突かれた。

しおりを挟む
 明日帰るという日の夕方、カグレシアン公爵閣下に呼ばれてお話をすることになった。

 侍女は無事に回復して、昨日は郊外を一緒に案内してもらったわ。

 絵画のように綺麗な景色で、彼女もカルドラン王国をとても気に入ったみたいだった。

 私も、カグレシアン公爵閣下のお心遣いに、この方となら婚約してもいいと感じていた。

 年齢は離れているけれど、年齢云々よりも精神的に大人だから、安心していられる。

 そう思っていたのだけど・・・

「楽しんでもらえただろうか?」

「はい。お心遣いありがとうございます。とても楽しく、そしてカルドラン王国を好ましく思いましたわ」

 食べ物も美味しいし、景色も綺麗で。
 もちろん、そうでないところもあるでしょうけど、少なくとも今回見れたところは、好ましく感じたわ。

 カグレシアン公爵閣下はどうなのかしら?

 私みたいな小娘では、不満だったりしないかしら?

「閣下。婚約のことですが・・・」

「ああ。そのことで聞いておきたいことがある。皇女としての立場や政略結婚の役目など、諸々のことを忘れた上で答えてもらいたい」

「立場を忘れて、ですか?」

 そんなことを言われても、私は生まれた時から皇女だったし、お姉様が後を継がれることは決まってからは、政略結婚も当たり前だと考えていたわ。

 それでも、カグレシアン様がそうおっしゃるのだからと頷いた。

「本当に嫁ぎたい相手はいないのか?海を渡ったこの国に嫁げば、二度とその者と会うことは叶わなくなるかもしれない。いや、同じ国にいたとしても、突然二度と会えなくなることだってある。そのことを踏まえて、本当に嫁ぎたい相手はいないのか?私はこう見えても嫉妬深い。君が他の男と親しくすることは許せないだろう。本当に後悔しないのか?」

 カグレシアン公爵閣下が嫉妬深いとか、想像できないけれど。

 しかも家族相手にでもだなんて。

 冗談をおっしゃっているようには見えない。

 言われた言葉が、頭の中に浸透し・・・

 彼の顔が頭に浮かんだ。

 どうして・・・

「心当たりがありそうだな。その者では駄目な理由があるのかもしれないが、よく考えた方がいい。大切なものを失いたくないなら、素直に自分の心に向き合うことも大切だ」

「カグレシアン様、私は・・・」

「人は生きていれば間違えることもある。許せない間違いもあるだろう。だがそれを踏まえても失ってはならない存在というのはあるものだ。時間はあるのだろう?よく考えるといい。二年経っても君の心が変わらなかったら、私と婚姻しよう」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...