拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな

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常識の問題。

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「いい加減になさったら?言いたいことがあるなら、ハッキリと私に直接おっしゃってくださいませ」

 私がそう言いながら近寄ると、侯爵令嬢様はキッと私を睨みつけた。

 でも、私の後ろにいるキャリーヌ様が目に入ったのだろう。

 私から視線を外す。

「べ、別に言いたいことなんか・・・」

「堂々とおっしゃったらよろしいのに。他国の伯爵令嬢風情が第三王子殿下の婚約者になったのが、ご不満なのでしょう?身の程を弁えろということかしら?」

「あら?リグレスト侯爵令嬢様は、ご自分が立候補したいということかしら?でも、自分がなりたいからって人をそんなふうに貶めるのはいかがなものかしらね」

 私に追いついたキャリーヌ様は、とてもとても良い笑顔で、ほほほと笑った。

 その笑顔、怖いと思うわ。
だって、侯爵令嬢様もお顔が真っ青だし、お取巻き様たちも、何なら男爵令嬢様も震えていてよ。

「そっ、そうではありませんっ。私は、私は、キャリーヌ様こそ相応しいと・・・」

「・・・私、貴女に名前を呼ぶ権利を与えたかしら?」

「ひっ!」

 あら。そんな怯えるなんて失礼だと思うわ。

 だって侯爵令嬢様も高位貴族よね?
 なら、理解しているはずでしょ。名前を呼ぶ許可をもらえていなければ、家名で呼ぶのが常識だって。

 それに・・・
あわよくば自分がシリルの婚約者にと思っていたわよね?

 筆頭公爵家のご令嬢が辞退したなら、侯爵家の自分にだってチャンスはあるって思ったわよね?

 なにかしら。
何だかムカムカするわ。

「あ、あのっ!」

「なぁに?正義の味方さん。貴女も貴族令嬢なら、下位の身分の者が許可なく話しかけてはならないことくらい覚えてなさい。でも、今回はわたくしの大切な友人を庇ったことで許してあげるわ」

「え?あの・・・」

 あら、この子、貴族の常識を理解していないのかしら?

 ああ。侯爵令嬢様に物申すようなことが出来たのね。

 だって、彼女がご両親に訴えたら、男爵家は潰されてしまうかもしれないのに、そのことに気付いてないんだわ。

 無知って・・・
ある意味、最強なのかしら。

「貴族の常識なのよ。下位の身分の者は、高位の者の許可なく話しかけたり、名前で呼んだりしてはいけないの。用があるときは失礼しますと礼をとって、許可をいただいてから話すのよ。もし友人になったとしても、公の場では名前呼びなんてしては駄目なの。マナー教育で学ぶことよ」

「え、あ、でも・・・」

「庇ってくれてありがとう。でも、無茶な真似はお勧めしないわ。貴女だけの話にならないかもしれないのよ。ご家族に迷惑がかかるかもしれないわ。よく考えて行動なさって」

 知らない間に潰されてても、私はこの国の人間じゃないから、対処しようがないのよ。
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