上 下
199 / 215

ラムズベルト侯爵令嬢③

しおりを挟む
「殺して・・・って、そんなの夫人ひとりではどうにもならないでしょう?」

 声が少し震えた。
でも、赤ん坊を産んだばかりの夫人が、赤ん坊をどうこうできるとは思えない。

 それに、侯爵夫人の出産なのよ?
産婆だけでなく、侍女だっていたはずだわ。

「日記には・・・母付きの侍女と産婆が協力して赤子の口に布を当てた、と。あの人は、産婆の弱みを握っていたらしいです。生まれたばかりの赤子が急変することはよくあります。父も、落胆したものの疑いを持つことはなかったようです」

「・・・そう、なのね」

 私のいたローゼン王国や、ここエレメンタル帝国ではないことだけど、他国で双子を忌み嫌い片方を殺害してしまう国もあると聞いたことがあるわ。

 許せないことだけど、そういう国の考え方は中々変えることは難しいのよね。

 でも、夫人のしたことは許せることではないわ。

 エレメンタル帝国にそういう風習はないし、理由も自分勝手なものだもの。

「シリカ様は・・・今も家を出るお考えなの?」

「本当は子爵になるなら、彼と家を継いでもいいかと考えたのです。でも、おそらくあの人は処刑されますよね?そうすると、貴族の世界にいることは厳しいと思うので」

 確かに、その罪状では処刑は免れないと思う。

 そして、シリカ様のおっしゃる通り、貴族の世界で生きるのは厳しいでしょうね。

 ラムズベルト子爵は、罰を与える意味で貴族のままで生きてもらうのはいいとして、シリカ様には罪はないもの。

 侯爵令嬢が平民になって暮らすのは大変だと思うけど、恋人が平民なら大丈夫なのかしら?

 私も・・・
シリウス殿下から逃げるために、平民になろうなんて考えてたわ。

 今思うと、無茶なことだったわ。
私、伯爵令嬢だけど・・・多分シリカ様より頼りないと思うもの。

 私、こんなにしっかりしていなかったわ。

「シリカ様は、平民になられる道を選ばれるのですね」

「はい。私は彼に、そんな要らぬ苦労をかけさせたくないのです」

「そう・・・ですわね。きっと、シリカ様にはその方が幸せですわね。わかりました。その旨、皇帝陛下にお話しておきますわ」

「よろしくお願いします」

 シリカ様のお気持ちは確認できたので、あとは皇帝陛下にお任せしましょう。

 夫人の罪は・・・
重すぎるわ。

 それこそ、生きていることが辛いと思えるほどの罰を受けるべきだわ。

 長く苦しんで、死にたいと願うほど苦しんでもらわなければ。

 殺されてしまったお子様と、シリカ様の狂わされた人生の責任を夫人は取らなければならないわ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

婚約破棄を望んでいたのでしょう?

稲瀬 薊
恋愛
伯爵令嬢リアナ・スティルマンには婚約者がいる。 名前はダグラス・パーシヴァル、侯爵家の息子である。 親が結んだ婚約でありそこに彼女達の意思はなかったが、リアナはパーシヴァル家に嫁ぐ為に必要な教養を魔法学園に入る前から学んでいた。 色々とリアナは我慢してきた。それを壊したのはルーシーという平民の女生徒と関係を育んでいたダグラスである。 「リアナを有責にした婚約破棄を計画する」 それを密かに聞いていたリアナは吹っ切れた。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちたら婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

処理中です...