無能と追放された侯爵令嬢、聖女の力に目覚めました

ゆうき

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1巻

1-1

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   プロローグ 虐げられる日々


「まだ掃除が終わっていないのか、このグズ!」

 王宮の近くにある、とあるお屋敷の広い玄関を掃除していた私の元にやってきた、恰幅の良い男の人は、私の頬に平手打ちをしてきた。
 その勢いは一切の遠慮がなかった。バチンッ!!  という音と共に、私はその場で尻餅をつく。
 頬とおしりにじんわりと広がる痛みのせいで表情を歪めてしまったが、目の前の男の人は全く心配をする素振りを見せなかった。

「ごめんなさい……お父様……」
「ふん、謝ることだけは人一倍早いな。その才能を魔法に活かせんのか無能め」
「ごめんなさい……」
「なぜこんな無能が生まれてきてしまったのか……お前の顔を見ていると不愉快だ」
「旦那様、お約束の時間が迫ってきております」
「おお、そうだったな。こんな無能などどうなっても構わんが、この者のせいで遅刻でもして家の名に傷をつけるわけにはいかんな」

 目の前の男の人――私の父であるザール・ダラムサルは、私にまるで汚物でも見るような冷たい目を向けて嫌味を言った後、隣にいたメイドから鞄を受け取って出かけていった。
 またお父様に怒られてしまった……どうして私って、こんなにグズでノロマで駄目人間なんだろう……

「いってらっしゃいませ……はぁ、リリーお嬢様。まだ終わっていらっしゃらないのですか?」
「……ごめんなさい……」
「早くなさってください。あなたのために、掃除する場所はたくさん残してありますので」

 近くに来たメイドがくすくすと笑いながらそう言うと、去り際に水の入ったバケツにわざと足を引っかけてひっくり返していった。
 あぁ……また作業が増えちゃった……ただでさえ私はグズなのに……もっとお父様に怒られてしまう……
 ううん、悲しんでる暇があったら少しでもお掃除をしないと……無能な私でも、唯一家のためにできることだから……

「あらあら、何か声が聞こえると思ったら……ずいぶんとみすぼらしい女が転がっていますこと」

 必死に片づけをしていると、さっきとは別のメイドを連れた一人の美しい女の子が、手入れの行き届いた綺麗な金色の髪をかき上げながら私を見つめていた。


「あっ……シャロン……」
「っ!? 魔法が一切使えない無能の分際で、私の名前を軽々しく呼び捨てにするんじゃないわよ!」
「きゃあ!?」

 シャロンは一つ年下で、異母姉妹だ。その彼女が放った風の魔法で吹き飛ばされてしまった私は、壁に思い切り叩きつけられ、そのまま力なくその場に倒れ込んだ。

「はぁ……こんな才能も気品さのかけらもない汚い女が私の姉だなんて、考えるだけでも寒気がするわ」
「ごめん、なさい……」
「お姉様はそれしか言えないわけ?」

 倒れている私の頭を、シャロンは思い切り踏みつける。
 お父様や妹に酷いことを言われ、暴力を振るわれ、メイドには仕事を無理やり押し付けられる――こんな酷い仕打ちを、私は毎日受けている。
 でも、これが私にとっての日常だ。
 先程話に出た魔法というのは、この世界に住む多くの人が使える不思議な力。炎を起こしたり、風を吹かせたり、水を湧かせたり……いろんなことができる。
 魔法は生活に浸透しており、これが使えるか使えないかで、この世界での地位やできる仕事が確立してしまうと言っても過言ではない。
 言ってしまえば、この世界では魔法が全てということなの。
 この世界の地位の高い貴族達は、代々強い魔法の能力に優れている。弱い魔法使いしか輩出できなくなると、家としての力も地位も失っていく。
 私が住むこの国で、五つの家しか持たない侯爵の地位を持つダラムサル家も、魔法の才能に優れた家だ。
 世界に三つほどある大国の一つに拠点を構えており、長い歴史の中で多くの魔法使いを育てたとして有名な家。王家の方とも古くから付き合いがあるの。
 私――リリー・ダラムサルは、そんな名誉があるダラムサル侯爵家の長女として生まれた。
 ダラムサル家に生まれた以上、家の名前に傷をつけないように、家を守るために、偉大な魔法使いになるのは定めだ。だから、私もそうなるように、毎日寝る間も惜しんで勉強に励んだ。
 家の人達も、厳しくはあったものの、私を一人前の魔法使いにするために、いろいろと勉強の場を設けてくれたの。
 しかし、この魔法には問題点がある。
 その問題点が、私を今のようなどん底の人生に叩き落とした。
 その問題点というのは……魔法を使うのに、個人差があるということだ。
 私も生まれながらに魔力は持っているものの、なぜか魔法を使う才能には一切恵まれず、幼い頃から何一つ魔法を使うことができなかった……それは名門ダラムサル家では許されない。
 私は家の期待に応えるために、それまで以上に毎日必死に魔法の本を読み、魔法の練習をした。
 それでも、全く魔法が発動することはなかった。
 そんな私は、幼い妹のシャロンが魔法の力に目覚めたのをきっかけに、お父様に見捨てられた。
 ダラムサル家の長女なんて肩書はなくなり、家では無能として扱われ、虐げられ、奴隷のように毎日働かされている。
 そのせいで、私の身体は生傷が絶えないし、服の下はあざだらけ。そんな状況でも、周りは助けてくれないどころか、笑って見てくる人もいる。
 もちろん辛いけど……私の居場所はここしかない。ここを追い出されたら……行く場所がないの……それに、世界に二人しかいない家族に、これ以上嫌われたくない……だから、絶対に逆らわずに働くしかない。
 いつか魔法が使えるようになったら、今まで迷惑をかけた分、ダラムサル家のために頑張りたいの。
 ……魔法が使えるようになったら、お父様は私をまた家族として迎え入れてくれるのかな。頭を撫でてくれるかな。良くやったって抱きしめてくれるかな。
 シャロンも私と一緒にお茶を飲んだり、遊んでくれるかな。実の姉妹みたいに楽しく過ごせれば、なんだって良いな。

「シャロンお嬢様、そのあたりでやめた方がよろしいかと」
「はぁ? 私の邪魔をするんですの?」
「いえ、それ以上リリーお嬢様に構っていらっしゃると、素晴らしい才能をお持ちのシャロンお嬢様に無能が移ってしまいますわ。それに、そんな汚いものに近づかれると、お召し物が汚れてしまいます」
「……それもそうですわね! ああ汚らわしいこと!」

 私の儚い希望を踏みにじるように、シャロンはわざと大声で私を蔑んでからその場を去っていった。
 シャロンには天才的な魔法の才能がある。それは大人も顔負けな実力で、幼い頃からその片鱗を見せていた。その才能を更に伸ばすために、普段は有名な魔法学校に通っている。
 しかも学校では成績優秀で人気者。ほかにもたくさん習いごとや勉強をしているおかげで、どこに出ても恥ずかしくないくらいの能力を持っている。
 一方、学校になんて当然通わせてもらえない私は、ある程度の文字の読み書きはできるけど、それ以外は勉強させてもらえないから、知識がない。侯爵家に相応ふさわしい立ち振る舞いや言葉遣いなども一切学べていない。まさにシャロンとは正反対の存在だ。
 だからなのか、シャロンは無能な私を見下したような態度を取る。
 ……どうして私は魔法が使えないんだろう。魔法さえ使えれば、きっとこんな酷い仕打ちを受けずにすむのに……家族に愛してもらえるのに……
 どうして……

「……お掃除、しなきゃ」

 こんな暴力や悪口は、いつもされていること。気にしていたら、今日のお仕事が終わらない。
 そう思った私は急いでこぼれた水を拭き取ってから、次のお部屋へとトボトボと歩き出した。

「あ、ここも汚れてる……ここも……よし、綺麗になった」

 部屋の隅に溜まっていたほこりを綺麗にして、そのまま別の場所も掃除をしはじめる。
 本当なら屋敷の使用人の仕事なんだけど、掃除を含めた汚れるような仕事は、私がやるようにお父様から言われている。
 正直、汚い所の掃除は慣れてしまっている。無能な私が少しでもダラムサル家のためになれるというなら、喜んで掃除をするつもりよ。

「リリーお嬢様」

 掃除に夢中になっていたら、気づけば外は真っ暗になっていた。自室に戻ろうとしていたところを、執事に呼び止められる。
 彼の前には料理が載ったカートがあった。今からお父様とシャロンにお食事を運ぶのだろう。
 この人ははっきり言って苦手だ。私を目のかたきにしているのか、ことあるごとに私に酷い仕打ちをしてくる。
 何というか、ずっと嫌なことばかりを言って、私の心を傷つけてくるの。

「…………」

 じっと黙って彼の言葉を待つ。
 あぁ……いい匂い……お腹すいたなぁ。起きてから何も食べずに働き通しだったから……もうお腹と背中がくっつきそう。
 あ、一応お水は飲んでいるよ。ほら、お掃除をするのにお水は必要でしょ? だから喉が渇いたら、バケツに汲んでおいたお水を少しだけ貰っているの。
 お掃除に使う水だから汚れているかもしれない。けれど、私からすれば汚れていようとも飲めるだけ幸せだから……

「少々お話ししましょう」
「え、お話?」
「はい。今日は良い天気でしたね」
「そ、そうですね……」

 突然始まった、何の変哲もない会話。
 でも、空腹の状態で近くにいい匂いをさせている物があるというのは、想像以上に辛いよ……

「――ということがありましてね。まったく彼には困ったものです……そうだ、忘れていた。こちらのお食事を、大広間にいらっしゃる旦那様とシャロンお嬢様の元へ運んでください」
「え……」

 ようやくいい匂いから解放されたと思ったら、予想外のお願いをされてしまった。
 どうして私が運ばなければいけないの?
 嫌というわけではなく、私みたいな人間が給仕をしたら、絶対にお父様達に不機嫌そうな顔をされる。
 ううん、不機嫌そうな顔程度ですめばいい方かもしれない。もしかしたら、酷いお仕置きをされるかも……

「いいから行ってください。私はほかの仕事がありますので」
「……はい……ごめんなさい……」

 執事長は吐き捨てるように言うと、そそくさとその場から去っていった。
 きっぱりと言われてしまった私には、もう給仕をするしか道はない。私は料理の載ったカートを、いつも家族が食事をする大広間へと運んだ。

「聞いてお父様。今日の学校での実技試験、学年で一位でしたのよ!」
「おお、さすが我が愛しの娘シャロン! それでこそ名門ダラムサル家の娘だ! 私も鼻が高い!」
「うふふ、お父様ったら喜びすぎですわ」
「喜ぶに決まっているであろう! シャロンの功績により、我がダラムサル家の名は更に知れ渡るだろう! シャロンよ、何か欲しい物はあるか?」
「ご褒美をくださるんですの? お父様はお優しいお方ですわ。そうですね……では新しいアクセサリーを……」

 大広間の中から、お父様とシャロンの楽しそうに会話する声が聞こえてくる。
 お父様もシャロンも……楽しそうだな。私も魔法が使えたら……お父様にああやって褒めてもらえたのかな……愛してもらえたのかな……シャロンとも仲良くできたのかな……
 ……そんな夢物語を考えてても仕方ない。早くこれを運ばないと、また怒られてしまう。
 覚悟を決めて行くしかないよね。

「し、失礼します……リリーです……」

 震える手で、控えめにノックをしてから大広間に入ると、そこにいた家族と何人かの使用人達の視線が、一斉に私へと向いた。
 う、うぅ……全然歓迎されていない……わかってたことだけど、心が痛い……

「は? なんでお姉様がここに?」
「えっと……お食事をお渡しに……」
「なに!?  貴様のような人間が給仕をするとは何事だ! それに、こんなに持ってくるのが遅いだなんて、何を考えている!!」

 私が持ってきたことが気に入らなかったのか、お父様は私の元に早足で近づくと、思い切り平手打ちをした。
 それだけで終わらなかった。その衝撃に耐える筋力など持ち合わせていないせいで、尻餅をついてしまった私を、お父様は蹴り飛ばした上に頭まで踏んできた。
 うぅ……痛いよぅ……苦しいよぉ。こうなるのはわかっていたから、だから嫌だったのに……

「もう、良い気分だったのに最悪ですわ。こんな汚いドブネズミを見ていたら、食事がまずくなるわ」

 冷ややかに私を見下すシャロン。
 好きで汚いお洋服を着てるわけじゃない。
 ほかの人が綺麗なお洋服を着ている中、私だけは新しいお洋服を与えてもらえないから、仕方なく汚くてボロボロの洋服を着ざるを得ないだけなのに……
 私だって着られるならそんな綺麗な洋服を着てみたい……家族の皆で綺麗な洋服を着て、どこかに楽しく出かけてみたい。でも、そんな未来は絶対に来ないってわかってる……

「ええい、誰だこんなグズに給仕を任せた愚か者は!!」
「私です、旦那様」

 先程の楽しそうな声とは打って変わり、怒りに震えるお父様。
 すると、さっき私にお仕事を押し付けた執事長が、ゆったりとした動きでお辞儀をしてから大広間に入ってきた。
 どうして戻ってきたの? さっきどこかに行っちゃったのに……

「貴様か! 何を考えている!」
「申し訳ございません。ですが、これには事情がございまして。まずは中をよくご覧ください」
「中……? なんだ、からっぽではないか!」

 お父様が皿を覆っていた銀の蓋を開けると、そこには何もなかった。
 あれ……いい匂いがするから、てっきり入ってるとばかり。もしかして匂いだけあらかじめ閉じ込めていた……?
 でも、もしそうなら……どうしてそんなよくわからないことを……?

「はい。リリーお嬢様がどうしても運びたいと駄々をこねまして。それで仕方なく、リリーお嬢様を満足させるために、からっぽのお皿を運ばせた次第でございます」
「え……?」

 全く思ってもなかった執事長の報告に、私は目を見開いた。
 ……私、何も悪いことしてないのに、私は無理矢理押し付けられただけなのに……ひどいよぉ……

「ほう、それは良い判断だったな。こんな小汚い女に運ばせたら料理が不味まずくなる。それよりもリリー……貴様、子供のようなワガママを言って、そんなに我々に嫌がらせをしたかったのか!」
「ち、ちがっ……」
「黙れ! 貴様のような無能を捨てずに置いてやってる恩を忘れたのか! ええい、忌々いまいましい!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……」

 お父様は私への怒りを吐き出すように、何度も私を叩いてくる。
 私はその理不尽な暴力に何もできず、うずくまって謝ることしかできなかった。

「旦那様、すぐにお持ちしますので、おかけになってしばしお待ちください」
「早くせんか。まったく……せっかくシャロンの華々しい話を聞いて気分が良かったのに、貴様のせいで気分を害されたわ」
「いたっ……!」

 お腹を蹴られた衝撃で鈍い痛みが広がる。思わず変な声を漏らしてしまった私のことなどお構いなしに、次々と料理が運ばれていく。そんな中で先程の執事長が私に耳打ちしてきた。

「……あれだけ痛めつけられてもまだ生きているなんて……虫並みの生命力ですね。あなたのようなグズ、さっさと死ぬか追い出されれば良いものを」
「…………」
「まあ、目の前でボロ雑巾のように痛めつけられるあなたの姿を見るのは、とても快感でしたけど」

 クスクス笑いながらそれだけ言うと、執事長は私からスッと離れた。

「本当に気持ち悪いですわね! でもお父様、それもあと数日の我慢ですわ」
「……それもそうだな。貴様まだいたのか? 早く消えろグズ!」
「……はい……ごめんなさい……失礼します……」

 私はその場から逃げるように大広間を後にした。何を話しているのかはわからなかったけど、家族や使用人達の笑い声が背中を追ってくる。
 私は身体中が痛くて思わず廊下の壁に寄りかかりながら、その場に座り込んでしまった。

「うぅ……ぐすっ……痛いよぉ……私、どうして生きてるんだろう……どうして生まれてきたんだろう……うぅ、お母様ぁ……」

 ……そんなことを考えても仕方ない。泣いてても仕方ない。
 とにかくご飯を厨房で貰ってから、部屋に戻ろう。

「よいしょ……よいしょ……」

 私はカートを厨房に戻し、コックにカートが汚くなったと怒られてから、屋敷の敷地内に建てられているボロボロの小屋の中に入った。
 ここが私の住む家。外見通り部屋の中もボロボロだし、雨漏りは酷いし、ギシギシと変な音はするし、すきま風はぴゅーぴゅー入ってくる。
 屋敷の豪華さと比べると天と地ほどの差があるけど、ある程度の雨風が凌げるだけまだマシって思うようにしている。そうじゃないと……また辛くて泣いちゃうから。

「……食べよう」

 私は厨房から持ってきた、食事が載ったトレイをガタガタの机の上に置くと、いただきますと挨拶をしてから食事をし始める。
 今日のメニューは、パサパサで硬くなったパンとほとんど具が入っていないスープだけ。質素に見えるかもしれないけど、私からしたらご馳走だ。

「ごちそうさまでした」

 ずっと働き通しでお腹がペコペコだった私は、ぺろりと全てを平らげてしまった。
 もちろん、これだけで足りるわけはない。
 けど……ねだったところでくれるはずもないし、生意気だと言われて、次の日のご飯を抜きにされてしまう可能性もある。
 そうなるくらいだったら、我慢してこのご飯を食べた方が……心身共に傷が浅くすむの。

「はぁ……」

 溜息をつきながら立ち上がると、ちょうど部屋の中に置いてある汚れた姿見に私の姿が映った。
 肖像画でしか見たことのないお母様譲りの金色の髪は背中の真ん中くらいまで伸びていてボサボサ。伸び切った前髪のせいで、本来見えるはずの青い目と少し小さめの鼻と口が隠れている。
 身体も細いを通り越して、骨と皮しかないんじゃないかと思うくらいやせているし、身長も低い。
 以前、屋敷のゴミ捨て場に捨てられていた定規を拾ってきたことがあるのだけど、それで測った時は、確か百五十センチもなかったはず。
 ……自分で言うのもアレだけど、身体中傷だらけ、痣だらけで本当にボロボロだ。
 でも……私のような無能な人間には、とてもお似合いな姿だろう。

「あ……そういえば、もう少ししたら、私の誕生日だ」

 毎日が忙しくて忘れていたけど、三日後は私の十五歳の誕生日だ。私にとってはとても重要な日でもある。
 実は、私には婚約をしている人がいる。お相手は、この国の王家の方だと伺った。ダラムサル家は古くから王族と繋がりがあるからだそうだ。
 私はお相手のことは一切知らないし、お顔も拝見していない。この婚約は、私が生まれてすぐにお父様が国王様と決めたことだからだ。
 そのお相手と、私が十五歳になったら初めてお顔を合わせると決まっているって、昔お父様から聞いた。
 一体どんな方なんだろう……いや、どんな方でも私のような人間を必要としてくれるのは、とても嬉しい。たとえそれが、王家とダラムサル家との間に交わされた政略結婚だったとしても。
 それに、私が嫁げば王家とダラムサル家はより深い関係になれる。
 そうすれば、みんな少しは私のことを認めてくれるかな……褒めてくれるかな……
 認めてくれたら、誕生日を祝ってくれるかな? 一緒にケーキや美味おいしい物を食べて、楽しくおしゃべりして。
 それはとても素敵で、楽しくて、現実から一番遠い……夢物語だ。

「あっ……それよりも勉強しないと」

 私は部屋の隅に積まれたボロボロの魔導書を取り出すと、机の上に広げた。この本は、魔法を使う方法が丁寧に書かれている、初心者用の魔導書。お母様が私に遺してくれたものだ。
 その魔導書に書かれている内容に従って、私は今日も魔法の練習をする。今日は風の魔法で、目の前にある木くずを飛ばす練習だ。

「集中……集中……えいっ!」

 私の気合が入った掛け声も虚しく、目の前の小さな木くずはぴくりとも動かなかった。
 魔導書に書いてある通りのやり方でやっているはずなのに……どうして毎日練習してるのに、上手くいかないんだろう……
 ううん、泣き言を言ってても何も始まらないよね。私だって、曲がりなりにも名門ダラムサル家の娘なんだ。もう一回やってみよう。諦めなければ、いつかきっと!

「すー……はー……すー……はー……よし。えいっ!」

 深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、もう一度試してみる……が、またしても魔法は発動してくれなかった。
 その後、一時間以上やってみたけれど、一回も発動することはなかった……


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