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第六十七話 オーウェン様と一緒なら

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「すぅ……はぁ……よし、始めます」

 深く深呼吸をして自分を落ち着かせてから、薬の製作に取り掛かる。

 作ると言っても、作業の内容自体は難しくない。ただルユを細かくして水と混ぜ、火にかけた後にろ過すれば完成だ。

 その手順に従い、ルユをナイフで細かくし、そこにオーウェン様達が持ち帰ってくれた水を、二対一に分けて混ぜてから、火にかけた。

「おぉ……凄い! 段々と青くなってきて……って、エリンさん!?」

 液体の色が青くなり始めて驚かれる中、私は即座にその液体を捨てて、新しく作り直し始める。

 上手くいっていれば、最初から最後まで透明じゃなくてはいけない。だから、青くなった時点で失敗だ。

 確か……青ということは、ルユをもっと細かくしないといけないんだったかしら。次こそ成功させなきゃ……!

「今度は水が赤くなったな……エリン、これは成功したのか?」
「いえ、成功していたら透明になるんです。これも、失敗です……」

 これはこれで一応別の効果があるけど、今はなんの役にも立たない。もう一度作らなくちゃ。

 赤は確か、水が多すぎて起こる反応だったはず……落ち着け私。冷静にやれば絶対に成功する。

 ……だというのに、焦って何度も失敗してしまい、気づいたら水もルユも底をつき始めていた。

「エリンお姉ちゃん、頑張って……!」
「ええ、ありがとう」

 どうしよう、次で成功させないと……一応ヨハンさんとオーウェン様が、もう一度採りに行ってくれているけど、多分間に合わない。なにせ、一回一回火にかけて沸騰させないといけないから、それなりに時間が掛かってしまうから。

 でも、それに比例するように緊張感は増し、自分でも笑ってしまうくらい手が震えている。

「大丈夫です、エリン様なら出来ます!」
「私なら出来る……出来る……」

 自分に必死に言い聞かせるが、手の震えは収まるどころか悪化し、手だけではなく体中が震え始めた。

 落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。落ち……つかな……。

「しっかりして、エリンお姉ちゃん!」
「はぁ……はぁ……」

 誰かが、遠くで何か言っているけど、極度の緊張で何も耳に入らない。今まで薬なんて数えきれないほど作ってきたけど、こんなに緊張するのは初めてだ。

 自分の成否は命に繋がる。それは今までの薬作りもそうだったのだが、目の前に見せつけられるというのは、想像を絶するプレッシャーを私に与えてきた。

「エリン、水を取ってきたぞ!」
「お兄ちゃん、どうしよう……!」
「どうした、なにかあったのか!?」
「エリン様が、緊張で動きが止まってしまって……先程からずっと震えて、顔もみるみる青ざめて……」

 また遠くで誰かが話している。でも、そんなの気にしていてはいけない。早く、早く薬を作らないといけないのに、体が動かない。失敗を恐れている。

 そんな私の背中が、何か暖かいものに包まれた。

「大丈夫だ、エリン」
「……誰……?」

 先程まで誰が何を喋っているのかわからなかったのに、今の声は確実に聞き取れた。

 その声は……私が心から信頼し、緊張で震える心に安らぎを与えてくれる……愛する人の声だった。

「エリンなら出来る。ココを救ってくれた時も、教会の子供達を救った時も……いや、アトレを開く前も開いた後も、君は人々を救う薬を作ってきた。今回だって、必ずうまくいく。俺が保証するよ」
「オーウェン様……」

 オーウェン様に優しく励まされたおかげで、体の震えは嘘のように治まった。同時に、不安も無くなってくれた。

 私は出来る。大丈夫、私なら出来る……!!

「っ……!」

 冷静に、そして確実にルユを細かく切り、正しい比率で水と混ぜて火にかける。火の強さももちろん重要で、これも正しくやらないと違う効果になってしまう。

 現に、何度も火の強さでも失敗しているけど、今回はそんなことは無かった。最初から液体は透明で……沸騰しても、その色はずっと保たれたままだった。

「やった……成功だわ!」
「やったー! 本当に透明だよ!」
「エリンさーん! 少ないですけど、ルユを採ってきましたよー!」
「ヨハン、わざわざ行ってきてもらってすまないが、どうやら完成したようだ」
「えぇ!? 本当ですか! やったぜリリアーヌばあちゃん、これでサラは助かるぞ!」
「ほ、本当かい? エリンさんや、サラは元気になるのでしょうか?」
「ええ、大丈夫です!」

 ルユを採ってきてくれたヨハンさんとリリアーヌ様に頷きながら、私はろ過用の布を利用して、細かくしたルユを液体から取り除いた。

 これをしておかないと、残ったルユが変な効果を引き起こしてしまうかもしれない。こんなことにも気を付けないといけないくらい、ルユは扱いが難しい。

 その代わりに、色々な薬を作れる万能な植物でもあるから、まさに一長一短ということだ。

「精霊様、今お助けいたしますからね……!」

 最後の仕上げとして、完成した薬に私の聖女の想いを詰め込んでいく。

 また元気になりますように。この広大で美しく、オーリボエの民に愛される森を守れますように――そう願うと、透明な液体が輝きを帯びた。

「精霊様、お薬です」

 本当なら、たしか栄養剤は地面にしみこませて、根っこから吸収させるものなのだけど、今の精霊様は木の姿とはいえ、完全に地面から独立してしまっているから、口と思われる部分から飲ませてあげた。

 これで、きっと少しは元気になれる……はずだったのだが、精霊様は変わらずぐったりしたままだった……。
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