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130 悪戯っ子再び

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 クリスティアン達のゴリ押しで決まった『文化祭』を、どうすれば安全に開催出来るか詳細を検討する為、その後も何度か話し合いの場が持たれた。

 プリシラは『誰でも気軽に見学出来る様にするべきだ』と強硬に主張したらしいが、当然ながらそんな事は保護者にも教職員にも認められなかった。
『初開催なので様子見が必要だ』と根気強く説得し、外部の見学者については、学園側が選定した招待客を数名招くのみ。保護者であっても招待がなければ入場出来ないという形で決着したそうだ。
 常識人が多くて本当に良かった。

 また、私設の騎士団を持つ保護者達から、警備の人員を提供してくれると申し出があったらしい。
 更に宰相閣下が『王子の発案なんだから協力するべきだ』と国王を説得し、王宮騎士を数名派遣すると約束させたので、安全面は確保された。

 それに加えて、騎士科の生徒達も警備補助として校舎内に配備される事が決まった。
 当初の計画では、騎士科の生徒にとって文化祭に参加するメリットは少なかったが、プロの騎士達と共にイベント事の警備に当たれるのならば、彼等にとっても良い経験になるだろう。


 そうして詳細が決まり、正式に文化祭の開催が発表された。

 発案者と生徒会が実行委員を務める事になり、大方の予想通りアイザックはてんてこ舞いしている。


 話し合いの結果、我がクラスはカフェを営む事になった。
 クラスメイトの中に、世界各国から茶葉を個人輸入しているお茶マニアがいたのと、私やアイザック以外にも自分でお茶を淹れられる生徒がいたからだ。
 入学前は、Aクラスって教育にお金を惜しまない高位貴族ばかりなのかと思っていたけど、私達の代は意外と意識の高い下位貴族の子も何人かいるのだ。
 高位貴族の目に留まって将来侍女や侍従にしてもらおうと、頑張って成績を維持している優秀な人達である。
 彼等は勉強だけじゃなく、お茶を淹れたりする訓練も積んでいた。


 予定より進んでいる教科の自習時間や、放課後などを利用して、少しずつ準備を進め始めている。

 Aクラスは三年間メンバーが変わらなかったので、かなり結束は強い。
 皆、過労気味なアイザックを気遣い、積極的に準備に取り組んでくれていた。

 テーブルの配置を決めたり、食器などの小物を選んだり、店内に飾る予定の花の手配をしたりするのは、お茶会を主催した経験がある令嬢達にとってはお手のものである。

 しかし、慣れない材料の発注などには苦戦した。

 お茶に関しては例のマニアが選定から発注、納入後の管理まで主導してくれたので問題なかったが、開催日が近付きお菓子の材料の納入が始まると、途端に混乱に陥った。

「ちょっと待って、何で卵がこんなに大量に注文されてるの?」

「誰か発注数間違えたんじゃない?」

「なあ、別のクラスの小麦粉が届いているんだけど……」

「砂糖がまだ納入されてないんだけど、誰か知ってる?」

 頭が良い人ばかりであるはずのAクラスでさえこの有り様なのだから、他のクラスの状況は推して知るべしである。


「わぁ……。なんかえらい事になってるわね」

 暇を持て余して偵察に来たフレデリカが、ウチのクラスの惨状を見て苦笑した。

「フレデリカ様のクラスは、何をなさる予定なのですか?」

「ウチは楽器が得意な生徒が多いから、演奏会をするだけよ。
 だから、当日まで特にやることが無いの」

「あら、演奏会ならフレデリカもピアノを披露するのでしょう?
 練習しなくて良いの?」

 ベアトリスが質問すると、フレデリカは得意気にフフンと笑った。

「ぶっつけ本番で大丈夫よ。私の演奏はいつだって完璧だもの」

「余裕ぶってるけど、邸では死ぬほど練習しているよ」

「もうっ! お兄様ったら、バラさないでよ」

 いつの間にか背後に忍び寄っていたアイザックがニヤニヤしながら揶揄うと、フレデリカは顔を真っ赤にさせて彼の胸をポコポコ叩いた。

 ふと視線を感じて廊下に顔を向けると、ニコラスが仲間になりたそうな顔をしてこちらを見ていた。
 私と視線が絡むと、何事も無かったかの様にフッと目を逸らす。


 騎士科の生徒が警備を担当するエリアは籤引きで決めたそうだが、幸か不幸かニコラスは三年Aクラスの担当になったらしい。

 当日だけでなく、今日の様に材料などの搬入時も、外部の人間の出入りが多く警戒する必要がある為、騎士科の生徒が警備してくれているのだ。


 私の目線を辿ったフレデリカが、呆れた様にクスッと笑った。

「あらまあ。
 自分でベアトリスから離れるって決めたくせに、淋しそうにしちゃって。
 ………あ、良い事思い付いた」

 小さくそう呟いた彼女は、弾む様な足取りでニコラスに近付くと、何かをコソコソ耳打ちしている。
 センブリ茶を飲ませた時と同じ悪戯っ子みたいな顔をしているフレデリカの企みに気付く様子もなく、ニコラスはコクコク頷いていた。

「大丈夫ですかね?」

「まあ、フレデリカも相手に危害を加える悪戯はしないと思うから、大丈夫なんじゃないか?」

 アイザックがそう言うので、私も放っておく事にした。
 今度はどんな悪戯を企んでいるのか、ちょっとだけ楽しみにしている事は内緒だ。
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