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「いちいち売られた喧嘩を買わないで。フォローするこっちの身になってよ。佐藤は古株よ。邪険に扱えないんだから」
 会議を終えて、麗香さんに呼び出された俺は小言を言われる。

「……なら、俺の下に先輩を」
「駄目。絶対に」

「……ちっ」
「舌打ちしない。行儀の悪い子ね。ホワイトタイガーは、ホワイトタイガーのままでいなさい。小野寺君と一緒になると、貴方はホワイトタイガーからただの子猫になるのよ。だから、仕事とプライベートは一線ひいて。必ず」

「なら、新人弁護士たちの新人虐めをどうにかさせろ。毎日、睡眠不足で先輩の身体が壊れるだろうが」
「あれは通過儀礼でしょ? 貴方だって経験したはず」

「経験? 俺のときはあんな虐めはなかった」
「……ああ、貴方の場合は押し付けられた時点で、さも当然のこどく書類をシュレッダーにかけてたわね。小野寺君がそういう性格じゃないだけ。優秀だわ。あの仕事量を一人でこなして、さらには京極のクライアント、こっちに連れてきてくれるんだから」

「だから身体を壊すっつってんだろうが」
 俺はデスクを叩いた。麗香さんはフッと笑うと、クスクスと面白そうに笑う。

「ほらね。母猫を奪われた子猫みたい。威嚇して怒って……。あの子は大丈夫よ。京極のところにいたのよ? これくらいの仕事なんて。それにあの子の体調を気にするなら、毎晩抱くのをやめなさい。それだけでも寝不足は解消されるはずよ」
「仕事場で、先輩がふらつきでもしたら俺は、すぐに自分のオフィスに連れていくからな。俺以外の仕事はさせない」

「それで困るのは貴方よ? あの子、知らないでしょ? 貴方の本性を。どんなあくどいことも気にせずに手を染めて、黒を白にかえる弁護士だってこと。いいの? 下についたら嫌でも目にするのを、貴方の仕事内容を」
「……」
 思わず言いよどんでしまう。確かにそれは困る。

「ほら。だから、今のままがいいの。理解したなら、仕事にもどりなさい」

 俺はムッとしつつも、反論できずに、麗香さんのオフィスを後にした。悔しいが正論だ。俺の下について、仕事内容を目にしたら……マヤは絶対に俺を嫌う。正義を貫くために弁護士になったような真っ白い心のマヤは……黒い犯罪ばかりしか扱わない俺に嫌気がさしてしまうだろう。

「……くそっ」
 廊下を歩きながら、悪態をついた。
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